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網膜剥離

目次

概要

網膜剥離は、光を感じる神経網膜が下層の網膜色素上皮から物理的に剥がれ、視細胞が酸素や栄養の供給を受けられなくなる状態です。主に裂孔原性(網膜に裂け目ができ、液化した硝子体が網膜下に入り込む型)、牽引性(線維増殖膜の牽引で生じる型)、滲出性(炎症や腫瘍などで液体が滲み出て貯留する型)に分類されます。

裂孔原性網膜剥離は成人の網膜剥離で最も頻度が高く、後部硝子体剥離に伴って網膜裂孔が形成されることが多いです。強度近視、加齢、白内障手術後、反対眼の既往、網膜格子状変性などが背景にあると発症リスクが高まります。

網膜剥離は眼科救急に分類され、黄斑がまだ剥がれていない黄斑温存例は特に時間との勝負です。放置すると視細胞が不可逆的に障害され、恒久的な視機能低下に至るおそれがあります。したがって、症状が出たら早急な受診が必要です。

世界的な年間発症率は人口10万人あたり10~18人程度と報告されており、人種や近視の有病率により地域差がみられます。日本でもおおむね同様の水準が報告されており、高齢化と近視人口の増加により医療需要は今後も続くと考えられます。

参考文献

症状

典型的な初期症状は、突然増える飛蚊症(黒い点や糸くずが視野に浮かぶ)、暗所で目を動かした際の光視症(稲妻のような光)、視野の端からカーテンが降りてくるような陰(視野欠損)です。痛みは通常伴わないため、気づくのが遅れることがあります。

黄斑が剥離すると急激な視力低下や歪視を自覚します。黄斑が未だ温存されている段階での治療は予後改善に直結するため、症状発現から診断・治療までの時間短縮が重要です。

糖尿病網膜症などの牽引性網膜剥離では、徐々に進行し自覚に乏しいこともあります。逆に裂孔原性では症状の出現が比較的急で、数時間から数日で悪化する例が多いのが特徴です。

片眼に症状があっても、反対眼にも危険所見(格子状変性、裂孔)が見つかることがあるため、両眼の精査が推奨されます。症状が一過性に軽快しても自然治癒は期待できないため、必ず眼科で散瞳下に眼底検査を受けることが重要です。

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原因・危険因子

裂孔原性の主因は後部硝子体剥離で、硝子体が網膜を牽引して裂孔を作り、液化硝子体が網膜下へ流入して剥離に至ります。網膜格子状変性は裂孔の好発部位で、強度近視では網膜が薄く脆弱なためリスクが増します。

後天的な危険因子には、年齢、男性、外傷、白内障手術歴、反対眼の網膜剥離既往、炎症性疾患、糖尿病網膜症(牽引性)などがあります。特に白内障術後数年は裂孔原性網膜剥離の相対リスクが上昇します。

遺伝的素因も存在し、家族歴は独立したリスク要因です。結合組織疾患(Stickler症候群、Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群)やX連鎖網膜分離など特定の遺伝性疾患では若年での発症や両眼例が増加します。

環境・生活面では、コンタクトやスポーツ時の眼外傷予防、糖尿病管理、強度近視の人の定期検診が二次予防に寄与します。GWASなどで感受性遺伝子座が報告されていますが、一般集団における寄与は小さく、後天要因の影響が大きいと考えられます。

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診断

診断の基本は散瞳下の詳細な眼底検査で、裂孔の部位・数・格子状変性の有無、剥離の範囲、黄斑の状態(温存/剥離)を評価します。裂孔や薄弱部に対しては圧迫や間接鏡を用いた精査が必要です。

硝子体出血や白内障で眼底の視認性が悪い場合、Bモード眼球超音波検査が有用です。必要に応じて広角眼底撮影、光干渉断層計(OCT)で黄斑の状態や漿液性の鑑別を行います。

高リスク例(強度近視、白内障術後、反対眼既往)では定期的な散瞳検査が推奨され、裂孔や網膜周辺の脆弱部位を早期に発見し、予防的レーザーで進行を防ぎます。

緊急性の判断では黄斑がまだ剥がれていないか(黄斑温存)が重要です。温存例は早期手術で視力予後が大きく改善するため、発症から治療までの時間短縮が診療の要点になります。

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治療

裂孔原性網膜剥離の標準治療は外科的再付着術です。具体的には、硝子体手術(硝子体切除+網膜復位+内境界膜処置や内油/ガスタンポナーデ)、強膜バックリング、硝子体内ガス注入(空気/ガスによる網膜圧着)を症例ごとに選択します。

裂孔のみで剥離に至っていない場合は、レーザー光凝固や冷凍凝固で周囲を瘢痕化し、液の流入を遮断することで剥離発症を予防できます。牽引性や滲出性では原因疾患の制御(増殖膜切除、炎症・腫瘍の治療)が重要です。

薬物療法単独で剥離が治ることはありませんが、術後の炎症や眼圧管理、感染予防に薬剤が併用されます。黄斑温存例では早期手術が視力予後の改善と関連します。

術式間の選択に関するエビデンスは増えており、初回裂孔原性に対しては硝子体手術が増加傾向ですが、若年や特定の裂孔位置では強膜バックリングが有利な場面もあります。再剥離時や複雑例では併用術式が検討されます。

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