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結核症感受性

目次

定義と背景

結核症感受性とは、結菌に曝露されたときに感染や発病へ進みやすい体質や状況を指します。ここでいう「感受性」は病気そのものの症状ではなく、感染しやすさ・病気へ移行しやすさの高さを意味します。個人差は遺伝要因と環境要因の相互作用で生じます。

世界では毎年多くの人が結核に罹患しますが、同じ家庭内で曝露されても発病する人としない人がいます。これは宿主側の免疫応答の違い、栄養状態、併存症、生活環境などが複合的に影響するためです。

感受性を理解することは、誰を優先的に検査し、誰に予防内服を勧めるかという公衆衛生上の意思決定に直結します。特に高リスク群の把握は、発病予防と二次感染の防止に重要です。

「結核症感受性」は単一の検査で一義的に測れる概念ではありません。疫学データ、既往歴、曝露歴、免疫抑制の有無などを総合して評価する臨床・公衆衛生の概念です。

参考文献

遺伝要因と環境要因

結核症感受性には宿主遺伝が関与しますが、その寄与の大きさは集団や時代で異なります。双生児研究では一卵性での一致率が高いことが示され、遺伝率はおおむね30〜60%程度と推定する報告もあります。ただし環境差を完全に排除できない限界があります。

ゲノム解析では、HLA領域やASAP1、TYK2などの多型が発病リスクに関連すると報告されています。一方で効果量は小さく、単独で予測に使える遺伝子は限られます。重症の原発性免疫不全(IL-12/IFN-γ経路の遺伝子変異)は強い感受性をもたらします。

環境要因としては、HIV感染、糖尿病、低栄養、喫煙、過度の飲酒、珪肺、免疫抑制薬の使用、密閉環境での曝露が主要です。これらは集団レベルでは遺伝要因よりも大きな影響を与えることが多いです。

結論として、個人の感受性は多因子性で、遺伝と環境の相互作用が重要です。現時点で遺伝と環境の固定的な比率を一般化することは妥当でなく、地域・集団ごとに評価が必要です。

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免疫学的機序

結核菌は主に肺胞マクロファージに取り込まれ、その後の自然免疫と獲得免疫の応答で運命が分かれます。パターン認識受容体による認識、サイトカイン産生、抗菌機構の活性化が初期制御に重要です。

IL-12/IFN-γ軸は防御免疫の中心で、樹状細胞・マクロファージがIL-12を出し、T細胞やNK細胞がIFN-γを産生します。IFN-γ受容体やIL-12受容体の先天的欠損は非定型抗酸菌や結核への高度感受性(MSMD)を引き起こします。

肉芽腫形成は免疫制御の要で、菌の拡散を封じ込める役割を果たします。しかし免疫抑制(例:抗TNFα薬)では肉芽腫維持が崩れ、潜在感染から再活性化が起きやすくなります。

宿主と病原体の相互作用は動的で、過剰炎症は組織障害を招き、逆に不十分な応答は菌増殖を許します。このバランスの破綻が感受性の表現型として現れます。

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リスク評価と検査

曝露後の感染評価にはツベルクリン反応(TST)やインターフェロンγ遊離試験(IGRA:QuantiFERON、T-SPOT)が用いられます。これらは感受性そのものではなく、感染の有無の推定に使います。

有症状者やハイリスク曝露では、胸部X線や喀痰検査、核酸増幅検査(NAAT)で活動性結核かどうかを評価します。活動性の除外は予防内服開始前に不可欠です。

リスク層別化では、HIV、最近の濃厚接触、免疫抑制治療、糖尿病、腎不全、低体重、高齢などを総合評価します。これにより検査の優先度と予防治療の適応が決まります。

集団レベルでは接触者健診や職域・医療機関でのスクリーニングが早期発見に有用です。検査の選択は年齢、BCG接種歴、検査の可用性で最適化します。

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予防と介入

高感受性が疑われる人や濃厚接触者には潜在性結核感染(LTBI)の治療が推奨されます。代表的なレジメンは3HP、4R、6–9Hで、相互作用や副作用を考慮して選択します。

HIV治療による免疫再構築、糖尿病管理、栄養改善、禁煙・節酒、珪肺対策、換気改善などの環境介入は感受性低減に寄与します。

BCGワクチンは乳幼児の重症型結核を防ぐ効果が高く、成人の肺結核に対する効果は限定的ですが、高負荷地域では重要な公衆衛生ツールです。

日本では結核医療の公費負担制度が整備され、活動性結核やLTBI治療の自己負担軽減が図られています。地域の保健所と連携して支援を受けることができます。

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