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筋損傷の重症度

目次

定義と重症度分類の基本

筋損傷とは、過度の伸張や収縮、打撲などにより骨格筋が構造的・機能的に損なわれた状態を指します。臨床では一般に「軽度(グレードI)」「中等度(グレードII)」「重度(グレードIII)」の三段階で重症度を表現し、筋線維の断裂の程度や機能障害、画像所見を総合して分類します。

グレードIは微小な筋線維損傷で、出血や浮腫は限局し、筋力低下や可動域制限は軽度です。グレードIIは部分断裂で、疼痛・腫脹・筋力低下が明瞭になり、日常動作やスポーツ動作に支障が出ます。グレードIIIは完全断裂や広範な筋腱移行部損傷を含み、機能喪失が顕著で場合によっては陥凹が触知されます。

近年は臨床症状のみならず、超音波やMRI所見を加味した詳細な分類が推奨されています。例えばミュンヘン・コンセンサスは「機能的損傷」と「構造的損傷」を分け、英国陸上競技の分類(BAMIC)はMRIでの損傷部位と長さを段階化し、再発リスクや復帰時期の推定に役立てています。

重症度分類は治療方針と復帰計画の骨子になります。軽度では早期の相対的安静と段階的負荷が中心ですが、重度では手術適応や長期リハビリを検討します。なお、同じグレードでも個体差や既往歴、部位特性により予後は変わるため、分類はあくまで意思決定を支える指標と理解することが重要です。

参考文献

発生機序と病態生理

筋損傷の多くは、筋腱移行部での遠心性(エキセントリック)収縮中に、発揮張力と伸張ストレスが同時に高まることで生じます。特にスプリント終盤や切り返し、キック動作でハムストリングスや腓腹筋に負荷が集中し、微細断裂から部分断裂、完全断裂へと至り得ます。

組織学的には、壊死・出血・炎症反応に続き、衛星細胞の活性化と再生が起こります。過度な初期炎症の抑制は疼痛軽減に寄与しますが、炎症は修復開始のシグナルでもあり、過度な抗炎症介入は再生遅延の可能性が議論されています。

損傷後数日で肉芽組織とコラーゲン沈着が進み、瘢痕形成と並行して筋線維の再生が進行します。過負荷や早すぎる復帰は瘢痕の延長・再断裂を招きやすく、適切な機械的刺激(最適負荷)を段階的に与えることが組織配向と機能回復を促します。

打撲型損傷では直達外力により筋腹内に血腫が生じます。広範血腫やコンパートメント症候群、異所性骨化(骨化性筋炎)といった合併症に留意が必要で、早期の評価と適切な圧迫・冷却、必要に応じた画像検査が推奨されます。

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症状・診察・重症度の臨床的見分け

典型的な症状は、受傷時の鋭い痛み、動作時痛、圧痛、腫脹、内出血斑、可動域制限、筋力低下です。軽度では違和感と軽い痛みのみで歩行は可能、重度では歩行困難や筋腹の陥凹、急速な腫脹を伴います。

診察では、視診・触診に加えて、伸張や抵抗下収縮での疼痛再現が重症度の推定に役立ちます。徒手筋力検査での明確な筋力低下やパップ音・陥凹触知は断裂を疑わせます。神経学的評価も併行し、放散痛やしびれがあれば他の病態の鑑別を行います。

超音波はベッドサイドで血腫や線維配列の乱れ、腱付着部の連続性を評価でき、動的観察も可能です。MRIは損傷範囲と部位、筋腱移行部の関与、浮腫(STIR/T2強調)の広がりを高精度に可視化し、復帰時期予測や再発リスク評価に有用です。

血液検査は、横紋筋融解症が疑われる重篤例を除き、重症度判定に直接的ではありません。広範な疼痛や暗色尿、全身症状を伴う場合はCKや腎機能の評価を行い、緊急対応を要するかを判断します。

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治療・リハビリテーションの原則

急性期はPEACE & LOVEの原則が推奨されます。Protection(保護)・Elevation(挙上)・Avoid anti-inflammatories(急性期の過度な抗炎症薬回避)・Compression(圧迫)・Education(教育)に続き、Load(最適負荷)・Optimism(楽観)・Vascularisation(有酸素負荷)・Exercise(運動療法)を段階的に実施します。

鎮痛には短期のアセトアミノフェンや必要に応じたNSAIDsを検討しますが、長期連用や急性期の過量は避けます。広範な部分断裂や完全断裂、腱付着部の剥離例では、手術修復の適応を整形外科と相談します。

運動療法は疼痛許容範囲での等尺性から開始し、エキセントリック強化、筋腱の長さと強度を高めるスポーツ特異的ドリルへと進めます。ハムストリングスではノルディック・エクササイズが有効で、再発予防にも資します。

再生医療(PRPなど)の筋損傷への有効性は一貫せず、現時点で標準治療とは言えません。復帰基準は、無痛の最大伸張可動域、左右差の少ない筋力、スポーツ特異的動作の遂行と画像所見の安定化を総合して判断します。

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予防・再発予防と疫学的知見

筋損傷の予防には、十分なウォームアップ、スプリントやキックなど高リスク動作に特化した段階的トレーニング、エキセントリック強化、柔軟性と腱のスティフネスの最適化、急激なトレーニング負荷の変動回避が重要です。

ノルディック・ハムストリングスは再現性高く傷害率を減らすことが示されています。FIFA 11+の包括的ウォームアッププログラムも、下肢傷害全般の発生率低下に有効で、競技レベルを問わず導入可能です。

疫学的には、サッカーや陸上短距離など遠心性ストレスの大きい競技で筋損傷が多く、ハムストリングス損傷はプロサッカーで最も一般的な外傷の一つです。既往歴、高年齢、筋束長の短さ、前シーズンの欠場歴などは再発・発生リスクを高めます。

男女差や年齢差は競技・ポジションで異なりますが、サッカーでは男性・高年齢層にハムストリングス損傷が多い傾向があります。こうした知見は、対象に応じた予防プログラムの強度や頻度設定に生かされます。

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