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睡眠時無呼吸症候群

目次

定義と疫学

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸気流が停止または著しく低下する発作が反復する疾患で、日中の眠気や注意力低下、交通事故リスク増大、心血管疾患の増悪など多面的な影響を及ぼす。最も一般的なのは上気道の虚脱を伴う閉塞性で、肥満や解剖学的要因が関与する。

国際的には成人での有病率は定義や測定法により幅があるが、軽症まで含めると1割以上、臨床的に問題となる中等症以上で数%に達する国が多い。2019年の推計では中等症以上の患者は世界で数億人規模とされた。

日本でも働き盛り世代を中心に潜在患者が多く、いびきや日中の過度の眠気を自覚しないまま生活の質や労働生産性の低下、合併症リスクの増大を招くことが懸念されている。保健指導や職域検診での拾い上げが重要とされる。

睡眠医療の進歩により在宅での簡易検査や治療機器の普及が進み、早期診断と介入が可能になってきた。一方で未診断例が依然として多数存在し、啓発とアクセス改善が課題である。

参考文献

症状と生活への影響

代表的な症状は大きないびき、寝ている間の無呼吸の目撃、睡眠の分断感、朝の頭痛、日中の強い眠気、集中力低下、易疲労感などである。夜間の頻尿や口渇、寝汗もみられることがある。

これらの症状は学業・仕事の能率低下や交通・産業事故のリスク上昇と関連し、抑うつや不安などメンタルヘルスにも影響する。パートナーの睡眠妨害を通じて家族の生活の質も低下しうる。

長期的には高血圧、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、心房細動、糖尿病などの合併症リスク増加と関連する。治療により血圧や眠気の改善、事故リスクの低減が期待できる。

日中の眠気はエプワース眠気尺度(ESS)で簡便に評価でき、スクリーニングに有用である。重症度は無呼吸低呼吸指数(AHI)で定量化され、診療方針の決定に用いられる。

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発生機序

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の主因は、睡眠中に上気道の筋緊張が低下し、相対的に狭い咽頭腔が陰圧により易虚脱化することである。肥満による咽頭周囲脂肪の沈着、下顎後退、扁桃肥大などの解剖学的要因が閾値を下げる。

吸気努力が増すとさらに陰圧が強まり、無呼吸・低呼吸が生じる。低酸素血症と二酸化炭素上昇により脳が覚醒して筋緊張が回復し、呼吸が再開するが、これが一晩中反復し睡眠の連続性が障害される。

個体差として、上気道の解剖学、交換ガスに対する呼吸中枢の反応性(ループゲイン)、覚醒閾値、舌筋等の神経筋制御の脆弱性など複数の表現型が寄与することが分かってきた。

中枢性睡眠時無呼吸は呼吸ドライブの不安定性が主体で、心不全や高地などでみられる。臨床では閉塞性が多数を占めるが、混合型や治療誘発性中枢性無呼吸も存在する。

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危険因子と遺伝・環境

危険因子には肥満(特に頸囲増大)、男性・高年齢、閉経、飲酒や鎮静薬の就寝前使用、仰臥位睡眠、鼻閉、喫煙、甲状腺機能低下症、アクロメガリーなどが挙げられる。生活習慣の影響が大きい。

家族内集積や双生児研究から、OSAには中等度の遺伝性が示され、無呼吸低呼吸指数や上気道解剖、肥満傾向などに遺伝的寄与が認められる。一方で体重や飲酒、睡眠姿勢などの環境因子の影響がより大きいことが一般的である。

ゲノムワイド関連解析では肥満関連遺伝子群や上気道の発達・神経調節に関連する座位が同定され、疾患は多因子性であることが支持されている。遺伝率は概ね30〜40%程度とする報告が多い。

したがって一次予防と治療においては、体重管理や飲酒の是正、睡眠衛生や姿勢療法など環境要因の介入が中となる。遺伝的背景は表現型や治療反応性の層別化に将来的に役立つ可能性がある。

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診断と治療

診断は問診と身体所見に加え、簡易在宅睡眠ポリグラフィー(HSAT)や終夜ポリソムノグラフィー(PSG)でAHIを測定して行う。高リスク例ではSTOP-BangやESSなどのスクリーニングも有用である。

治療の基本は体重減少、就寝前の飲酒・鎮静薬回避、鼻炎治療、側臥位などの生活指導である。中等症以上では持続陽圧呼吸療法(CPAP)が第一選択で、日中の眠気や血圧の改善に有効である。

軽症やCPAP不耐例では口腔内装置(下顎前方移動装置)が選択肢となる。手術療法(UPPP、上顎下顎前方移動術)や舌下神経刺激療法は選択的に適応される。薬物療法は補助的で確立した根治薬はない。

日本ではCPAPや口腔内装置は保険適用で、適応基準や管理料が診療報酬で定められている。長期的なアドヒアランス支援と合併症管理が転帰改善に重要である。

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