睡眠中の歯ぎしり
目次
定義と疫学
睡眠時ブラキシズムは、睡眠中に起こる反復的な咀嚼筋活動(リズミック・マスティカトリー・マッスル・アクティビティ:RMMA)を特徴とする睡眠関連運動障害です。歯のきしり音の有無とは独立して存在し、臨床的には歯の摩耗や筋痛などで発見されます。
成人の有病率は自己申告でおよそ8〜13%とされ、学齢期の子どもではより高率(約14〜20%)です。高齢になるにつれ頻度は低下する傾向があり、男女差は大きくないと報告されています。
国際的合意では、歯ぎしりを「疾患」そのものとみなすより「リスク指標」として位置づけ、歯・顎関節・睡眠の健康への影響に応じ介入の必要性を判断します。
日本でも概ね世界データと同程度とされますが、測定法(自己申告、臨床所見、睡眠検査)により推定値が異なります。最終診断は睡眠検査と筋電計測が望ましいとされます。
参考文献
- International consensus on the assessment of bruxism (J Oral Rehabil 2018)
- NHS: Teeth grinding (bruxism)
- Bruxism: A Literature Review (ISRN Dentistry 2013)
発生機序
睡眠時ブラキシズムは咬合の問題単独で説明できず、中枢性の覚醒反応(微小覚醒)と自律神経の賦活が直前に生じる現象と捉えられています。心拍数や交感神経活動は発作の数秒前から増加します。
RMMAは主にNREM睡眠で観察され、脳幹の運動パターン発生器と皮質覚醒の相互作用が想定されています。呼吸イベントや気道抵抗の変化がトリガーとなる症例もあります。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)や胃食道逆流、疼痛、ストレス関連の覚醒負荷が発生頻度を高めることがあり、薬剤(SSRI/SNRIなど)が関与する例も報告されています。
従来の「咬合異常説」は支持が弱く、現在は睡眠生理と自律神経、感情ストレス、薬理学的要因の多因子モデルが主流です。
参考文献
- Kato et al. Sleep bruxism: an oromotor activity secondary to micro-arousal (J Dent Res 2001)
- Manfredini et al. Aetiology and pathophysiology of bruxism (J Oral Rehabil)
危険因子(遺伝・環境)
双生児研究では遺伝要因の寄与が約50%前後と推定され、残りは環境要因に起因すると示唆されています。家族歴があると発症リスクが上がる傾向があります。
環境要因には心理社会的ストレス、睡眠不足、アルコール・カフェイン・ニコチン摂取、カンナビノイドや覚醒薬、SSRI/SNRIなどの向精神薬、胃食道逆流、OSAなどが含まれます。
候補遺伝子としてセロトニン受容体(HTR2A)、ドーパミン経路(DRD2)、COMT多型などが検討されていますが、一貫した再現性は限定的で、効果量は小さいと考えられます。
小児では歯の萌出期や上気道感染、成長に伴う睡眠構築の変化が関与することがあり、多くは自然軽快します。成人では慢性化すると歯・顎・睡眠のQOLに影響します。
参考文献
- Hublin et al. Sleep bruxism based on self-report in a nationwide twin cohort (J Sleep Res 1998)
- International consensus on bruxism (J Oral Rehabil 2018)
診断と評価
問診と他者観察(同室者の報告)、歯科的所見(咬耗、楔状欠損、咬筋肥大、咬合紙痕)を総合し疑い例を拾い上げます。顎の痛みや朝の頭痛も参考所見です。
確定には睡眠ポリグラフ(PSG)に咬筋筋電図(EMG)を追加しRMMAを定量します。簡易的には携帯型EMGデバイスや就寝時録音が補助となります。
重症度は発作頻度、持続時間、歯・顎関節への影響、随伴症状(睡眠の質、日中の眠気)で判断します。OSAやGERDなどの併存症のスクリーニングも推奨されます。
自己申告のみでは過小・過大評価の偏りがあり、可能なら客観的計測を併用することが望ましいとされています。
参考文献
- International consensus on bruxism (J Oral Rehabil 2018)
- NHS: Teeth grinding (diagnosis & treatment)
治療と予防
第一選択は歯の保護を目的としたナイトガード(スプリント)と、ストレス対処・睡眠衛生・就寝前刺激物回避などの生活指導です。咀嚼筋のストレッチや顎のリラクセーションも有用です。
併存症の治療(OSAにはCPAPや口腔内装置、GERDには酸抑制など)で発作頻度が低下する場合があります。薬剤性の場合は処方医と相談の上で調整を検討します。
薬物療法は限定的エビデンスに留まり、クロナゼパムの短期効果報告やSSRI誘発例へのブスピロン併用などがあります。咬筋へのボツリヌス毒素は痛み軽減に有用な例がある一方、反復投与や副作用に注意が必要です。
広範な咬合調整は推奨されません。定期的な歯科受診で早期の摩耗・破折を拾い上げ、生活要因の是正と併存症管理を組み合わせることが現実的です。
参考文献

