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眼の色

目次

眼の色の概要

眼の色は、虹彩という黒目の周りの薄い膜の色合いを指し、個人の外見的特徴のひとつです。茶色、緑、青、灰色などの連続的なスペクトラムがあり、実際にはメラニンという色素の量と分布、光の散乱で見え方が決まります。

医学的には多くの場合、眼の色は疾患ではなく正常な遺伝形質です。出生直後に淡く、乳幼児期に濃くなることがよくあります。これは虹彩のメラニン産生が成長とともに進むためで、思春期以降は大きく変わりにくくなります。

青い眼は虹彩の前部にメラニンが少ないため、短波長光の散乱(レイリー散乱様)で青く見えます。茶色い眼はメラニンが多く、入射光が広く吸収されるため暗く見えます。緑やヘーゼルは中等量のメラニンと光学的効果の組合せで生じます。

眼の色は文化・社会的関心の対象にもなりますが、機能面では眩しさやまぶしさの感じ方にわずかな差が出る程度です。例外的に疾患に伴う虹彩異常(虹彩欠損、眼皮膚白皮症など)では視機能に影響することがあります。

参考文献

遺伝学的背景と多遺伝子性

眼の色は強い遺伝性をもち、数十以上の遺伝子の組み合わせで決まる多遺伝子形質です。特にOCA2とHERC2の領域が茶色と青の違いに大きく寄与し、さらにSLC24A4、TYR、SLC45A2、IRF4など多数が微妙な色合いに関与します。

HERC2遺伝子内の調節配列の一塩基多型(例:rs12913832)は、隣接するOCA2の発現を下げ、虹彩メラニン量を減らすことで青い眼の確率を高めます。これは欧州集団で強い効果が確認されています。

双生児研究や家系解析から、眼の色の遺伝率は高く、概ね90%前後と推定されます。ただし集団や評価法により幅があり、完全に遺伝だけで決まるわけではありません。

ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、微小な効果を持つ多くの遺伝子座が同定され、現在はIrisPlexのようなモデルである程度の予測が可能ですが、全ての多様性を説明するわけではありません。

参考文献

発生機序と生体色のしくみ

虹彩は前部間質と後部の色素上皮からなり、前部のメラノサイトが合成するメラニンの量・顆粒(メラノソーム)の性質が見かけの色を左右します。

茶色い眼では、間質にユーメラニンが豊富で光の吸収が強く、反射光が少ないため暗く見えます。青い眼では間質メラニンが少なく、微細構造による短波長光の選択的散乱で青く見えます。

緑やヘーゼルは中等のメラニン量、脂質沈着、光の後方散乱や表面反射が重なった結果と考えられています。これは孔雀の羽や青空と同様の構造色の一種です。

乳幼児期にチロシナーゼ活性が上がりメラニン産生が進むことで色が濃くなります。思春期以降の大きな変化は稀ですが、加齢でわずかなトーンの変化が起こることがあります。

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環境要因と医薬品・疾患による変化

日光暴露は皮膚ほど強くはありませんが、幼少期のメラニン産生に影響しうると考えられます。ただし成人での恒常的な色変化は一般に小さいです。

緑内障治療薬のプロスタグランジンF2α類似薬(例:ラタノプロスト)は虹彩のメラニンを増やし、長期使用で茶色味が強くなることがあります(可逆性は限定的)。

ホルネル症候群、虹彩炎、外傷、虹彩母斑や眼皮膚白皮症などの疾患は、左右差(片側性の虹彩異色症)や色調変化を生じることがあります。これは眼の色そのものというより基礎疾患の反映です。

化粧目的の虹彩インプラントや色素入れは角膜障害・眼圧上昇など重篤な合併症を招く恐れがあり推奨されません。安全性は確立しておらず、学会も警告しています。

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世界的分布と集団差

世界全体では茶色系が多数派で、青や灰色は主に北欧・東欧に多く、緑は欧州の一部に見られます。東アジアやアフリカ、中東では濃い茶〜黒褐色が一般的です。

日本を含む東アジアでは、暗色の虹彩が圧倒的に多く、明るい色は非常に稀です。これはOCA2/HERC2をはじめとする色素関連遺伝子の集団頻度が背景にあります。

米国など多民族社会では地域や世代で分布が変わります。移民や混合によって色の多様性が増える傾向がありますが、世界的には茶色が依然として主流です。

「罹患率」という用語は疾患に対して用いるため、眼の色には適切ではありません。ここではあくまで「頻度」や「分布」として理解するのが正確です。

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