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眼がん

目次

概要と主な種類

眼がんは、眼球そのもの(網膜、ぶどう膜=虹彩・毛様体・脈絡膜)や結膜、眼瞼、眼窩(眼球周囲の組織)に発生する悪性腫瘍の総称です。成人の一次性眼内悪性腫瘍ではぶどう膜黒色腫(ぶどう膜メラノーマ)が最も多く、小児では網膜芽細胞腫が代表的です。結膜の扁平上皮癌や、悪性リンパ腫、他臓器が原発の転移性腫瘍も「眼のがん」に含まれます。

発症頻度は全がんの中で非常に低く、先進国でも人口10万人あたりおおむね0.5〜1例程度と推定されます。人種や地理的条件によって分布が異なり、ぶどう膜黒色腫は白色人種に多く、東アジアでは稀です。一方、結膜の扁平上皮癌は紫外線の強い地域や免疫不全の頻度が高い地域で相対的に多くみられます。

診断は問診・視診・眼底検査・画像検査(眼底写真、超音波、光干渉断層計、造影、MRI/CT)などを組み合わせて行います。病変の部位と性状によっては生検で確定診断を行いますが、ぶどう膜黒色腫では典型例では画像と臨床所見で診断されることが少なくありません。

治療は腫瘍の種類・大きさ・位置と視機能の温存可能性、転移リスクを総合して選択されます。局所治療(眼球温存をめざす小線源治療=プラークブラキセラピー、陽子線、レーザー温熱凝固など)、眼球摘出、全身療法(化学療法、分子標的薬、免疫療法)、動注療法(網膜芽細胞腫)などが用いられます。

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遺伝的背景

遺伝的要因は腫瘍のタイプにより大きく異なります。小児の網膜芽細胞腫はRB1遺伝子変異が原因で、約40〜45%が胚細胞系列(生殖細胞)変異による遺伝性です。遺伝性例では両眼発症や多発、二次がんのリスク上昇が知られており、家族歴の評価と遺伝カウンセリングが重要です。

成人のぶどう膜黒色腫では、腫瘍内の体細胞変異としてGNAQやGNA11、BAP1、SF3B1、EIF1AXなどが高頻度に認められ、転移リスクや予後に関係します。一方、家族性のぶどう膜黒色腫は稀で、BAP1腫瘍素因症候群など特定の遺伝素因がある場合に発症リスクが高まります。

結膜の扁平上皮癌では遺伝よりも環境因子(紫外線、ヒトパピローマウイルス[HPV]、免疫抑制)が主に関与すると考えられ、腫瘍の分子異常としてはp53経路の変化などが報告されています。悪性リンパ腫は眼窩・結膜に生じることがあり、全身疾患の一部として生じる場合もあるため血液内科的評価が必要です。

これらの遺伝的背景は診断の確からしさ、予後予測、治療選択(例:転移リスクに基づくサーベイランス計画、臨床試験適格性)に影響します。遺伝学的検査は専門家のカウンセリングのもと適応を検討します。

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環境因子と危険因子

皮膚や結膜と同様に、紫外線曝露は結膜の扁平上皮癌や結膜メラノーマのリスク要因です。高緯度・高地や屋外労働、十分な紫外線対策の欠如などが関与し、サングラスや帽子による防護が推奨されます。

ぶどう膜黒色腫に対する紫外線の関与は限定的ですが、淡色の虹彩(青・緑)、白い皮膚、日焼けしやすい体質などの表現型がリスク増加と関連します。溶接など特定の職業曝露や、眼皮膚白皮症、眼皮膚メラノーシス(太田母斑)などもリスク上昇と関連します。

免疫抑制状態(HIV感染、臓器移植後など)は結膜扁平上皮癌のリスクを高めます。またHPV感染の関与が示唆される地域もあります。喫煙やアルコールは眼がん全体の主要因とはみなされていませんが、全身の健康保護の観点から回避が勧められます。

小児の網膜芽細胞腫では環境因子の寄与は限定的で、主としてRB1変異が原因です。ただし、遺伝性例の早期発見には家族の意識向上と定期的な眼科フォローが重要です。

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診断と治療

診断は視力・眼圧・細隙灯顕微鏡検査、散瞳眼底検査、超音波、生体染色、OCT、蛍光眼底造影などの眼科的検査に加え、腫瘍の広がり評価のためのMRI/CTを行います。転移検索として肝臓を中心に腹部画像や血液検査が必要になることがあります(ぶどう膜黒色腫では肝転移の頻度が高い)。

ぶどう膜黒色腫の局所治療は、腫瘍径と部位に応じてプラークブラキセラピー(I-125やRu-106など)、陽子線治療、経瞳孔温熱療法、レーザー治療などが選択されます。腫瘍が大きい、疼痛や続発緑内障を伴う、あるいは視機能温存が困難な場合は眼球摘出が検討されます。

網膜芽細胞腫では全身化学療法(カルボプラチン、エトポシド、ビンクリスチン)をベースに、眼局所治療(レーザー、冷凍凝固、熱凝固、局所化学療法)、動注化学療法(眼動脈内メルファラン)や硝子体内メルファラン投与が用いられます。近年は眼球温存率の向上が報告されています。

転移性ぶどう膜黒色腫では肝指向性の治療(肝動注化学療法や区域治療)、全身療法として免疫療法や分子標的薬が検討されますが、皮膚黒色腫と比べ効果は限定的です。臨床試験参加や専門施設での治療選択が重要です。

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疫学・罹患率と日本の状況

世界的に眼と付属器のがんは希少で、GLOBOCANの推定では発生率は概ね低位にとどまります。米国SEERでは眼と眼窩のがんの発生は人口10万人あたり約0.6例/年と報告されています。これは主要ながんと比べ桁違いに少ない頻度です。

人種差が明瞭で、ぶどう膜黒色腫は白色人種で多く、アジア系では少ないことが多数の疫学研究で示されています。日本では一次性ぶどう膜黒色腫は非常に稀で、結膜悪性腫瘍や転移性腫瘍の割合が相対的に高い施設もあります。

年齢分布は腫瘍型に依存します。網膜芽細胞腫は多くが5歳未満で発症し、ぶどう膜黒色腫は中高年に多く、結膜扁平上皮癌は高齢者に多い傾向です。性差は腫瘍型により異なりますが、ぶどう膜黒色腫では男性がやや多いとされます。

日本では「希少がん」として専門センターでの集学的診療が推奨されます。患者支援や情報提供として国立がん研究センターのがん情報サービスや希少がんセンターの情報が有用です。

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