甘み摂取傾向
目次
定義と背景
甘み摂取傾向とは、個人が砂糖や甘味飲料、菓子など甘い味の食品を好み、選び、摂る傾向の強さを指す概念です。味覚の感受性だけでなく、快・報酬系、学習や文化、入手可能性、社会的文脈など多層の要因で決まります。
ヒトは甘味をエネルギー源の手掛かりとして進化的に好みやすい一方、現代では精製糖や超加工食品が豊富で、嗜好が実際の摂取量に直結しやすい環境が整っています。このため個人差が健康影響に反映されやすくなっています。
味覚受容体(TAS1R2/TAS1R3)による舌での検知に加え、摂糖で肝・脂肪組織から分泌される内分泌因子FGF21などが脳の摂食回路にフィードバックし、甘み嗜好と摂取行動を調節します。遺伝的差もこのループに影響します。
公衆衛生上は、自由糖の過剰摂取が体重増加、う蝕、代謝異常のリスクを高めることが示され、各国でガイドラインが整備されています。甘み摂取傾向はそのリスク管理や個別化栄養の手掛かりとなります。
参考文献
- WHO Guideline: Sugars intake for adults and children
- Harvard T.H. Chan School of Public Health – Added Sugar
- FGF21 Is a Sugar-Induced Hormone Associated with Sweet Taste Preference (Cell Metab, 2017)
遺伝と環境の相対寄与
双生児・家族研究では、甘味の感じ方や好み・摂取習慣には中等度の遺伝率が示され、概ね30〜50%が遺伝、残りは環境要因と推定されます。表現型は連続的で、単一遺伝子で決まるものではありません。
環境側には、幼少期の味経験、家庭や文化の食習慣、食品の可用性やマーケティング、価格、学校や職場の給食環境、睡眠不足やストレスなどが関与し、生涯を通じて変化し得ます。
遺伝と環境は相互作用します。例えば甘味受容や内分泌シグナルの感受性に遺伝差があると、同じ環境下でも報酬の感じ方や満足感が異なり、結果として摂取量の差が生じます。
したがって割合は集団や年齢で変動し得ます。児童期は環境の影響が相対的に大きく、成人では遺伝寄与がやや高まるという報告もありますが、介入による修正可能性は全年齢で残ります。
参考文献
- Twin studies of taste intensity and preference (Hwang et al., Twin Res Hum Genet, 2015)
- FGF21 and sweet preference – physiological evidence (Cell Metab, 2017)
- WHO Guideline: Sugars intake for adults and children
関与する主要遺伝子と変異
TAS1R2/TAS1R3は甘味受容体を構成し、特にTAS1R3プロモーター多型はショ糖感受性の個人差と関連します。感受性が低いと同じ甘さを得るためにより多く摂る人がいる一方、行動は環境でも左右されます。
肝臓・脂肪組織由来ホルモンFGF21は糖負荷で誘導され、脳へ作用して甘味嗜好や糖摂取を抑えるフィードバック因子です。FGF21遺伝子の一般的多型は砂糖・甘味飲料の摂取傾向と関連づけられています。
FGF21の共受容体KLB(β-Klotho)やシグナル経路の変異も、甘味やアルコールなどの嗜好に関与する報告があります。これらは中枢の報酬回路への内分泌入力を変調します。
他にも味覚伝達や代謝関連遺伝子(例:糖輸送やドーパミン系)の候補が示されていますが、効果量は概して小さく、多遺伝子・多因子性が前提です。個々の変異は確率をわずかに動かす程度と理解されます。
参考文献
- TAS1R3 promoter polymorphism and sucrose sensitivity (Curr Biol, 2009)
- FGF21 Is a Sugar-Induced Hormone Associated with Sweet Taste Preference (Cell Metab, 2017)
- Common variants in the FGF21/KLB pathway and nutrient preferences (Nat Commun)
健康影響と結果の解釈
甘み摂取傾向が高いことは、過剰な自由糖摂取による体重増加や脂肪肝、2型糖尿病リスク、う蝕の蓄積に間接的に寄与し得ますが、同じ嗜好でも食環境と選択次第で健康結果は大きく異なります。
嗜好は摂取量の十分条件ではありません。栄養教育、食品ラベリング、入手可能性の調整、家庭や職場の規範などが行動を強く左右します。したがって個人差の理解は、環境整備とセットで活用すべきです。
エネルギー等量の範囲でも、液体の糖(甘味飲料)は満腹感が低く過剰摂取につながりやすい点に注意が必要です。自由糖は総エネルギーの10%未満、可能なら5%未満が推奨されています。
研究の解釈では、横断研究の関連と因果を混同しないこと、報告バイアスや交絡(活動量、睡眠、所得など)を考慮することが重要です。ランダム化介入の証拠も併せて評価します。
参考文献
- WHO Guideline: Sugars intake for adults and children
- Dietary sugars and body weight: systematic review and meta-analyses (BMJ, 2013)
- Harvard T.H. Chan School of Public Health – Added Sugar
評価・介入・実践上のポイント
個人レベルでは、飲料からの自由糖を最優先で削減し、食物繊維やたんぱく質を先に摂る、甘味の段階的希釈・薄味化、睡眠・ストレス管理などで嗜好と摂取を現実的に調整できます。
食品環境の工夫(無糖飲料の常備、小包装、見えない場所に保管、職場の自販機の構成見直し)も有効です。家庭内の規範形成やモニタリングは長期的変化を後押しします。
医療・公衆衛生では、WHOや学会の推奨に沿って自由糖の上限を示しつつ、患者の嗜好と文化的背景に配慮した目標設定とフィードバック(例:飲料の置き換え、買い物リストの改善)を行います。
政策レベルでは、課税・広告規制・学校給食基準・前面表示などの複合介入が効果的です。超加工食品中心の食環境はエネルギー過多を促すため、構造的対策が重要です。
参考文献

