球面度数(左目)
目次
定義と測定
球面度数(Sphere, SPH)は眼鏡やコンタクトレンズ処方に記載される屈折矯正力で、単位はD(ジオプトリー)です。マイナス値は近視、プラス値は遠視を表します。左目はOS(oculus sinister)と表記され、右目(OD)とは別個に測定・記載されます。
測定はオートレフラクトメータや主観的屈折検査(フォロプターとテストレンズ)で行います。小児では調節の影響を除くためシクロプレジック(調節麻痺下)での屈折検査が推奨されます。
球面度数は乱視成分(円柱度数:CYL)や軸(AXIS)と合わせて視力に影響し、SとCの合成として球面等価(SE = S + C/2)が研究や疫学で用いられます。
度数の決定は見え方だけでなく、両眼視機能、作業距離、年齢、瞳孔径、夜間の見え方なども考慮して最終的な処方に反映されます。
参考文献
症状と日常生活への影響
球面度数の異常は屈折異常として自覚されます。近視では遠方がぼやけ、遠視では近方作業で眼精疲労や頭痛、かすみが生じやすくなります。度数が左右で大きく異なる不同視では複視やめまい、学業・仕事効率の低下につながることがあります。
小児では見えづらさの訴えが乏しいため、テレビや本に近づく、目を細める、姿勢が悪いなどの行動で気付かれることが多いです。未矯正の高遠視は弱視や斜視のリスクになります。
成人では夜間や薄暗い環境で見えにくさが増すことがあり、運転の安全にも関わります。適切な矯正は生活の質(QOL)と学業・労働生産性を改善します。
コンタクトレンズの不適切な度数や装用は乾燥感・角膜障害のリスクを高めるため、定期検診で度数とフィッティングの確認が重要です。
参考文献
発生機序と生物学的背景
屈折異常は、眼軸長(眼の前後長)と角膜・水晶体の屈折力の不一致によって生じます。眼軸が長すぎると近視、短すぎると遠視になります。球面度数はこの不一致をレンズで補正する量を表現します。
眼は幼少期に正視化(エメトロピゼーション)というフィードバック機構で成長しますが、近業負荷や環境光、遺伝要因の相互作用で過成長(軸性近視)や不足成長が起こり得ます。
網膜・脈絡膜・強膜のシグナル伝達(ドーパミン、アトロピンが作用するムスカリン受容体系、レチノイド経路など)が眼軸成長の調節に関与します。
乱視や高次収差、調節ラグも網膜に結像する像の性質を変え、成長シグナルに影響すると考えられています。
参考文献
遺伝・環境の寄与と関連遺伝子
屈折異常の遺伝率は双生児・家族研究でおおむね50〜80%と推定されています。ただし集団や年齢により幅があり、環境の影響も大きいことが強調されています。
GWASではGJD2、RASGRF1、PAX6、PRSS56、LAMA2など多遺伝子が同定され、強膜リモデリングや神経伝達、眼球成長に関与する経路が示唆されています。
遺伝的素因があっても、近業時間の長さ、教育年数、屋外活動の少なさなどの環境因子が発症・進行リスクを大きく左右します。
臨床では家族歴の聴取とともにライフスタイルの評価・介入が重要で、遺伝子検査は一般診療では必須ではありません。
参考文献
予防・早期発見・治療
予防では、屋外活動を1日2時間程度確保することが小児の近視発症を有意に抑制することがRCTで示されています。近業は「20-20-20ルール」(20分ごとに20秒、6m先を見る)などの休憩が推奨されます。
早期発見は学校健診や定期眼科受診、オートレフ/シクロプレジック屈折検査で行います。小児の不同視・高遠視は弱視予防の観点から早期矯正が重要です。
治療は眼鏡・コンタクトによる矯正のほか、小児の進行抑制としてオルソケラトロジーや低濃度アトロピン点眼(0.01〜0.05%)、多焦点ソフトコンタクトなどにエビデンスがあります。
屈折矯正手術(LASIK/PRK/SMILE)は成人で屈折が安定してから検討します。日本では多くが自由診療で、定期検診による度数管理が術後も推奨されます。
参考文献

