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片頭痛(前兆なし)

目次

定義と診断基準

片頭痛(前兆なし)は、拍動性の頭痛が繰り返し起こる一次性頭痛の一つで、視覚などの神経症状である前兆を伴わないタイプを指します。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、4~72時間持続し、片側性で日常動作で悪化しやすく、悪心や光・音への過敏のうち少なくとも1つを伴う反復性頭痛として定義されています。

診断は病歴聴取が中心で、神経診察や画像検査は二次性頭痛が疑われる場合に限定されます。前兆のない片頭痛と緊張型頭痛や副鼻腔炎による頭痛などの鑑別が重要で、発作の性状、随伴症状、誘因、生活への影響を整理することが役立ちます。

ICHD-3では「発作が5回以上」「未治療または治療が無効の場合に4~72時間持続」「片側性・拍動性・中等度~重度・日常動作で増悪のうち2項目以上」「悪心/嘔吐または光過敏・音過敏のいずれか」の基準を満たすことが求められます。

前兆のある片頭痛とは異なり、視覚のちらつきや感覚異常、言語障害といった可逆的な神経症状は発作前に出現しませんが、発作前の倦怠感や欠伸などの前駆症状や、発作後の倦怠・集中困難といった回復期症状はしばしばみられます。

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症状と経過

典型的には、頭の片側に拍動性の痛みが生じ、身体活動で悪化します。痛みは中等度から重度で、仕事や学業、家事を中断させることもあります。悪心や嘔吐、光過敏、音過敏が伴いやすく、暗い静かな場所で休むと多少楽になります。

発作は多くが4~72時間で自然軽快しますが、治療のタイミングが早いほど抑えやすくなります。月経周期、睡眠不足、ストレス、空腹、特定の飲食物、天候の変化などが誘因として報告されています。

前駆期(数時間~2日前)にはあくび、食欲の変化、集中困難、気分変動などが起こり、回復期(発作後数時間~2日)には倦怠感や軽い頭痛、思考のもやもや感が続くことがあります。

こうした時間経過を把握するには頭痛ダイアリーが有用です。ダイアリーに、日時、強さ、随伴症状、服薬、誘因候補を記録することで、診断と治療選択に役立ちます。

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病態生理

前兆のない片頭痛では、三叉神経血管系の過敏化が中で、硬膜血管周囲の知覚神経末端からCGRPなどの神経ペプチドが放出され、無菌性炎症と痛み伝達が増強されます。脳幹(青斑核、背側縫線核、三叉神経核複合体)の機能異常も関与します。

CGRPは血管拡張と痛覚過敏に関与し、血中上昇が発作時に観察されます。CGRP経路を標的とするモノクローナル抗体や小分子阻害薬が有効であることは、病態におけるCGRPの重要性を支持します。

前兆のある片頭痛では皮質拡延性抑制(CSD)が重要と考えられますが、前兆のない片頭痛ではCSDの関与は限定的とみられ、むしろ脳幹・視床・皮質間のネットワーク異常や痛覚制御の破綻が示唆されています。

反復する発作により中枢感作が進むと、両側化、体動での増悪、皮膚のアロディニアなどが目立ち、急性期治療の反応も低下しやすくなります。慢性化予防の観点から、早期の適切な治療と過量服薬の回避が重要です。

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遺伝学と環境要因

片頭痛は多因子疾患で、遺伝的素因と環境因子が相互作用して発症します。双生児研究では遺伝率は概ね40~60%とされ、残りは非共有環境要因によると推定されています。家族歴はリスク上昇の強い手掛かりです。

大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、TRPM8、LRP1、TSPAN2、PHACTR1など多数の感受性遺伝子座が同定されています。ただし効果量は小さく、一般的な片頭痛は単一遺伝子で説明されません。

環境因子としては、睡眠不足や過剰、心理社会的ストレス、女性ホルモン変動、脱水、空腹、アルコールや一部の食品、天候・気圧変化、過量のカフェインや離脱、視覚・嗅覚刺激などが挙げられます。

誘因は個人差が大きく、同じ人でも状況により変化します。したがって、誘因の有無は診断要件ではなく、再現性のあるパターンを本人の記録で確かめ、必要に応じて生活調整や予防薬を組み合わせます。

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治療と予防

急性期治療は早期・十分量が原則で、軽~中等度にはアセトアミノフェンやNSAIDs、中等度~重度や前述が無効の場合はトリプタンが推奨されます。悪心には制吐薬を併用します。新規薬としてCGRP受容体拮抗薬(ゲパント)やジタンも選択肢です。

月に発作が4日以上、生活支障が大きい、急性期薬の使い過ぎが心配、といった場合は予防療法を検討します。β遮断薬、トピラマート、アミトリプチリン、アンジオテンシン受容体拮抗薬などの従来薬に加え、CGRP経路を標的とするモノクローナル抗体やアトゲパンなどが有効です。

慢性片頭痛ではボツリヌス毒素Aの効果が示されています。非薬物療法として、規則的な睡眠・食事、適度な運動、ストレス対処(認知行動療法など)、カフェインの節度ある摂取、マグネシウムやリボフラビン等の補助療法も検討されます。

薬剤の使い過ぎによる頭痛(MOH)を避けるため、急性期薬の使用日数は月10日(トリプタン等)または15日(アセトアミノフェン/NSAIDs)未満に抑える目安が推奨されます。治療計画は専門医と個別化して立てることが重要です。

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