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片頭痛(前兆あり)

目次

用語の概要

片頭痛(前兆あり、migraine with aura)は、頭痛発作の前または同時に、視覚・感覚・言語などの神経症状(前兆)が一時的に出現し、その後に拍動性で中等度から重度の頭痛を伴う一次性頭痛疾患です。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、前兆症状が5分以上かけて徐々に広がり、個々の症状が5〜60分持続し、通常は前兆開始から60分以内に頭痛が起こることなどが診断の要件とされています。

前兆は完全に可逆的であることが特徴で、典型的にはギザギザの光や暗点などの視覚症状が最も多く、次いで片側のしびれや言葉が出にくい失語、稀に運動症状を伴います。発作は日常生活に支障を来し、悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴うことが少なくありません。

有病率は地域差があるものの、片頭痛全体で成人の約10〜15%と報告され、そのうち前兆を伴うタイプは約20〜30%と推定されます。思春期以降に女性で増加し、働き盛りの年代にピークを迎えるため、個人と社会の負担が大きい疾患です。

前兆あり片頭痛は、脳梗塞などの二次性疾患と症状が紛らわしい場合があるため、初発時やパターンが変化した場合は医療機関での評価が推奨されます。治療は急性期の鎮痛・特異的治療と、再発予防のための予防療法、生活習慣の整えや誘因管理を組み合わせて行います。

参考文献

症状と診断の要点

前兆症状は完全に可逆的で、視覚(閃輝暗点、スコトマ、ジグザグ線)、感覚(しびれ、低感覚)、言語(失語)などが単独または組み合わさって出現します。多くは5分以上かけてゆっくり広がり、60分以内に消失します。前兆の後に片側性で拍動性、日常活動で増悪する頭痛が4〜72時間続くのが典型です。

ICHD-3では、少なくとも2回の発作で定義された特徴を満たし、他の疾患で説明できないことが必要です。片頭痛関連の随伴症状として悪心・嘔吐、光過敏、音過敏がよくみられます。月経関連や片頭痛既往、家族歴も診断の参考になります。

脳卒中のTIAやてんかん発作などとの鑑別が重要です。特に初めての前兆、最悪の頭痛、神経脱落症状が持続する場合、50歳以降の新規発症、発熱や項部硬直を伴う場合は、緊急評価(画像検査等)が必要です。

診断補助として、頭痛日誌やID-Migraine質問票、MIDASなどの評価ツールが役立ちます。反復する典型的な経過で神経学的診察が正常な場合、画像検査は必須ではありませんが、臨床判断により行われます。

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発生機序(病態生理)

前兆の主因は大脳皮質で生じる皮質拡延性抑制(cortical spreading depression: CSD)と考えられています。これは数mm/分の速度で広がる脱分極の波で、一過性の神経・グリア活動の変化と血流変化を伴い、視覚野に生じると特徴的な視覚前兆が出現します。

頭痛痛覚は三叉神経血管系の活性化により生じ、硬膜血管周囲でCGRPやサブスタンスPなどの神経ペプチドが放出され、無菌性炎症と血管拡張が起き、痛み信号が脳幹・視床・皮質へ伝達されます。

脳幹(青斑、縫線核)や視床下部の機能異常も示唆され、前駆症状や概日リズムとの関連、発作の閾値調節に関与します。感作現象により光や音、においへの過敏が強まることがあります。

遺伝的素因によりイオンチャネル機能、神経伝達、血管内皮機能の微妙な差異が生じ、CSDや三叉神経血管系の過活動が起こりやすくなると考えられています。これらの理解はトリプタンやCGRP関連薬などの標的治療の開発につながりました。

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遺伝的要因

双生児研究では片頭痛の遺伝率はおおむね40〜60%と推定され、共有環境の寄与は小さく、非共有環境(個人特有の環境)の影響が残りを占めると示唆されています。前兆の有無で遺伝率は大きくは変わらないか、前兆ありでやや高いとする報告もあります。

一般的な片頭痛(前兆ありを含む)は多因子性で、数十〜百以上のゲノム座位が関与するポリジーン疾患です。近年の大規模GWASは血管・平滑筋、グルタミン酸シグナル、シナプス機能などに関連する多数の遺伝子座を同定しています。

まれな一部の前兆性片頭痛として家族性片麻痺性片頭痛(FHM)があり、CACNA1A、ATP1A2、SCN1Aなどのイオンチャネル・ポンプ遺伝子の機能変化が原因となります。これらは重篤な前兆(運動麻痺)を呈するが、一般的な片頭痛とは異なるモノジェニック疾患です。

遺伝学的知見は病態の理解や新規薬剤の標的選定に寄与していますが、個々人のリスク予測や診断に直接用いるにはまだ限定的で、環境要因やライフスタイルと組み合わせた包括的管理が重要です。

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予防と治療

急性期治療は早期・適切量が原則で、NSAIDsやアセトアミノフェン、トリプタンが第一選択となります。悪心には制吐薬を併用します。前兆自体を止める薬は限られますが、頭痛相の重症化を抑えることは可能です。

予防療法は月に4日以上の発作やQOL低下がある場合に検討し、β遮断薬、抗てんかん薬、三環系抗うつ薬、CGRPモノクローナル抗体、CGRP受容体拮抗薬(gepants)などから個々の状況に合わせて選択します。

生活面では規則正しい睡眠・食事、適度な有酸素運動、脱水回避、過度のカフェイン・アルコールを避けること、ストレス対処、ブルーライトや強いにおいなどの誘因管理が重要です。マグネシウムやリボフラビン、CoQ10などの補助療法に一定のエビデンスがあります。

日本では多くの急性期薬と予防薬が保険適用で使用可能です。治療は合併症、妊娠、服薬相互作用、過量服薬頭痛(MOH)の回避などを考慮し、医療者と相談して計画的に進めます。

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