片頭痛
目次
定義と特徴
片頭痛は、拍動性で中等度から重度の頭痛発作を反復する神経疾患で、多くは悪心や嘔吐、光や音に過敏になる随伴症状を伴います。世界の成人人口の1割強が罹患し、日常生活や労働生産性に大きな影響を及ぼすことが知られています。発作は数時間から数日に及び、動くと悪化するのが典型的です。
片頭痛には前兆(オーラ)を伴うタイプと伴わないタイプがあり、前兆は視覚のチカチカや視野欠損、感覚のしびれ、言葉が出にくいなど一過性の神経症状として発作に先行して現れます。発作は月に数回から年に数回まで個人差が大きく、慢性化して月15日以上頭痛が続くこともあります。
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、片頭痛の診断基準が明確に定義されており、発作の回数、持続時間、随伴症状、活動により悪化するかなどが評価されます。画像検査は二次性頭痛の除外に用いられ、片頭痛そのものの確定には臨床基準が中心です。
片頭痛は遺伝的素因と環境要因が組み合わさって発症します。生活習慣、ストレス、ホルモン変動などの誘因が、脳の痛みネットワークを過敏化させることで発作が誘発されると考えられており、個々の誘因は人により異なります。
参考文献
- Headache disorders – WHO Fact Sheet
- The International Classification of Headache Disorders 3rd edition (ICHD-3)
症状と亜型
典型的な片頭痛発作は、片側性の拍動性頭痛、日常動作での増悪、悪心・嘔吐、光過敏や音過敏のうち少なくともいくつかを伴います。小児では両側性頭痛や消化器症状が目立つこともあり、年齢により表現型が異なるのが特徴です。
前兆(オーラ)を伴う片頭痛では、視覚的ジグザグや暗点などの視覚症状が最も一般的で、5分以上かけて徐々に進行し、通常は60分未満で消失します。感覚異常や言語障害が伴う場合もありますが、持続的神経脱落症状が残る場合は別の疾患を疑います。
慢性片頭痛は3カ月以上にわたり月15日以上の頭痛日数があり、そのうち少なくとも8日は片頭痛の特徴を満たすと定義されます。薬剤の過量使用頭痛(MOH)を合併していることも少なくなく、急性期薬の使い過ぎには注意が必要です。
発作間欠期にも「前駆症状」と呼ばれる倦怠感、あくび、頸部こわばり、集中困難などが現れることがあり、これらが発作予兆としてセルフマネジメントに活用されることもあります。
参考文献
発生機序
片頭痛は、三叉神経血管系の活性化と、それに伴う血管周囲での神経原性炎症が中心的役割を果たすと理解されています。ペプチドであるCGRPの放出が痛み伝達と血管拡張を促進し、これが臨床的頭痛に結びつきます。
前兆を伴う片頭痛では、大脳皮質における皮質拡延性抑制(CSD)と呼ばれる脱分極波が視覚皮質などを伝播し、一過性の神経症状を生じると考えられています。CSDは三叉神経系を二次的に活性化し、頭痛相に移行します。
脳幹の疼痛調節核(青斑核、背側縫線核など)の機能異常や、視床・視床下部のネットワーク変化も関与が示唆されています。これらの中枢機構の易刺激性が、誘因に対する過敏な応答を生み出します。
遺伝的素因がイオンチャネルやシナプス機能、血管機能に影響を与え、環境要因と相互作用して発作閾値を下げる多因子モデルが支持されています。近年はCGRP経路を標的とした治療効果が、病態仮説の妥当性を裏づけています。
参考文献
遺伝要因と環境要因
双生児研究から、片頭痛の遺伝率は概ね40〜60%と推定され、残余は共有・非共有環境の影響と解釈されます。家族歴は強いリスク因子で、第一度近親者に片頭痛があると発症リスクが有意に高まります。
まれな家族性片麻痺性片頭痛(FHM)では、CACNA1A、ATP1A2、SCN1Aなどの単一遺伝子変異が原因となることがあり、イオンチャネルやポンプ機能の異常が病態に直結します。
一般的な片頭痛では多遺伝子性で、近年の大規模ゲノム解析は100を超える感受性座位を同定しました。神経シナプス機能、血管平滑筋、グリア、脳血管接合部など複数経路の関与が示されています。
環境要因には、睡眠不足や不規則な生活、心理的ストレス、ホルモン変動、飲酒や特定食品、気圧変化、強い感覚刺激などが含まれます。個人ごとの誘因の同定と回避・対処が重要です。
参考文献
- Twin studies on migraine heritability (Cephalalgia, 2003)
- Hautakangas et al., Nature Genetics 2022 (Migraine GWAS)
- GeneReviews: Familial Hemiplegic Migraine
診断と治療
診断はICHD-3の臨床基準に基づき、発作の反復性、随伴症状、誘因、発作間の状態などを聴取します。二次性頭痛を疑う警告徴候(突然の発症、神経脱落症状の持続、発熱、がん・免疫不全既往など)があれば画像検査を行います。
急性期治療にはNSAIDsやトリプタン、制吐薬が用いられ、重症例ではジタンやゲパント系(国・地域により承認状況が異なる)が選択肢となります。早期に適切量で使用することが効果と薬剤過量使用の予防に重要です。
予防療法は発作頻度・重症度・障害度が高い場合に検討し、β遮断薬、抗てんかん薬、三環系抗うつ薬、CGRP関連抗体などがエビデンスを有します。慢性片頭痛にはA型ボツリヌス毒素も有効です。
非薬物療法として、規則正しい睡眠・食事・運動、カフェインの一定化、リラクゼーションや認知行動療法、神経刺激デバイスの活用が補助的に推奨されます。頭痛日誌は誘因同定と治療最適化に有用です。
参考文献

