熱ショック27 kDaタンパク質(HSP_27)血清濃度
目次
用語の定義と背景
HSP27(遺伝子名HSPB1)は、ストレス条件下で発現が増える小型シャペロンの一つで、主に細胞質に存在します。血清中にも検出されますが、その多くはストレス応答や細胞外小胞(エクソソーム)を介した放出に由来すると考えられています。血清濃度は研究目的で測定されることが多く、一般臨床検査としての標準化は未確立です。
HSP27は、熱、酸化ストレス、炎症性サイトカイン、機械的刺激などに反応して誘導され、蛋白質凝集の防止、アクチン細胞骨格の安定化、アポトーシス抑制などに関わります。これらの機能は細胞内での役割が中心ですが、血中に放出されたHSP27は免疫系の制御や組織恒常性への関与が示唆されています。
血清濃度という観点では、HSP27は恒常的に一定というよりも、急性・慢性のストレス負荷によって変動しやすい可塑的な指標です。測定法や前処理の違いでも値が異なりうるため、解釈には方法論的な留意点が欠かせません。
名称の27 kDaはHSP27のモノマーの分子量に由来しますが、生体内ではリン酸化状態とオリゴマー化が機能に影響します。特にp38 MAPK–MAPKAPK2経路によるリン酸化はオリゴマーのダイナミクスと結合相手を変え、細胞応答を調整することが知られています。
参考文献
測定法と前分析的要因
HSP27の血清濃度は主にサンドイッチELISAで定量されます。特異的抗体を用い、標準曲線から濃度に換算する原理で、比較的高い感度とスループットを備えます。一方でキット間で認識エピトープや較正標準が異なるため、絶対値の相互比較には注意が必要です。
ウエスタンブロットは半定量的ながら分子量やリン酸化状態の確認に有用です。多重化ビーズアッセイやターゲット型質量分析(SRM/MRM)も研究で用いられ、複数タンパク質の同時測定や同位体標識による正確な定量が可能です。
前分析的要因として、採血時の急性ストレス、運動、感染、採血管の種類、室温放置時間、遠心条件、凍結融解回数などが結果に影響します。プロトコルの標準化とQCサンプルの併用が重要です。
同一個人内の経時変動が大きい可能性があるため、解釈では単回測定よりも複数回の縦断的データが望ましいです。臨床応用を目指す研究では、測定ばらつきの定量(CV)や再現性の評価を事前に行うことが推奨されます。
参考文献
生理機能とシグナル伝達
HSP27は小型熱ショックタンパク質として、変性しやすいクライアント蛋白の凝集を防ぎ、フォールディングを助けます。これにより、ストレス時の細胞毒性を軽減し、細胞生存を支えます。
アクチン細胞骨格の重合・脱重合の制御にも関わり、細胞移動、形態維持、バリア機能に影響します。内皮細胞や平滑筋細胞でのHSP27の変化は、血管反応性や透過性にも関係します。
p38 MAPK経路により活性化されるMAPKAPK2/3がHSP27のSer15, Ser78, Ser82をリン酸化し、オリゴマーサイズと相互作用ネットワークを変えます。これが抗アポトーシスや炎症応答の微調整に繋がります。
細胞外のHSP27は、受容体や補体・DAMPシステムを介して免疫応答を修飾すると考えられていますが、HSP70/90ほどエビデンスは豊富ではありません。今後の研究でメカニズムの精緻化が期待されます。
参考文献
- Hsp27 is a substrate of MAPKAP kinase 2
- The Heat Shock Response: Biology and Medicine (CSH Perspectives)
臨床的意義と解釈の枠組み
血清HSP27は様々なストレス状態で変動します。炎症、熱負荷、組織障害、悪性腫瘍、代謝性疾患、心血管イベントなどで上昇や低下が報告されていますが、方向性は疾患や測定系により異なります。したがって単独での診断マーカーというより、病態把握の補助指標として位置づけられます。
基準範囲は確立しておらず、各研究はキットや集団特性に依存した値を報告します。解釈には対照群やベースラインとの比較が不可欠です。
リスク層別化では、他の炎症マーカー(CRP、IL-6)、組織障害マーカー、臨床指標と合わせた多変量モデルの一要素として用いるのが妥当です。
臨床導入に向けては、前向きコホートでの独立予測能、測定再現性、カットオフの外部検証、コスト・ターンアラウンドタイムなどの実装要件の検討が求められます。
参考文献
- Genetic regulation of the human plasma proteome (Nature, 2018)
- Heat shock proteins as danger signals (FEBS J, 2007)
遺伝・環境要因と個体差
HSP27は誘導性のストレス応答蛋白であるため、環境・生活・病態の影響が大きいと考えられます。一方でHSPB1遺伝子座や調節領域の多型が基礎発現や応答性に影響する可能性もあります。
血漿プロテオーム全体では、遺伝的要因による濃度変動の寄与はタンパク質により幅があり、平均的には中等度(例:ヘリタビリティが0.1〜0.3程度)と報告されています。HSP27特異の厳密な推定は未整備です。
したがって現時点の実務では、同一個人の縦断的変化や環境要因の統制(採血条件の統一、急性疾患の除外)に重点を置くべきです。
将来的には大規模プロテオームGWASやpQTL解析により、HSP27の遺伝・環境寄与の定量化が進むと期待されます。
参考文献

