濾胞性嚢胞
目次
定義と概要
濾胞性嚢胞は、主に卵巣でみられる機能性嚢胞の一種で、排卵前に育つ卵胞が破裂せずに液体がたまり拡張した状態を指します。多くは片側性で直径数センチにとどまり、数週間から数カ月で自然に縮小または消失します。良性であり、がんと無関係なことが大半ですが、まれに合併症を起こすことがあります。
日常診療では、超音波検査で偶然見つかることが多く、症状がないケースが多数を占めます。痛みや圧迫感などの症状が出る場合もありますが、強い痛みがない限り経過観察が推奨されます。閉経前の女性に最もよくみられ、閉経後では機能性嚢胞はまれになります。
病態としてはホルモン変動に強く影響を受けます。卵胞の成熟と排卵は視床下部‐下垂体‐卵巣軸により調整され、LHサージによって卵胞が破裂し排卵が起きます。濾胞性嚢胞はこの過程が破綻したときに形成されます。
診療ガイドラインや教科書では、濾胞性嚢胞は「良性」「自然軽快しやすい」「経過観察が基本」という三点が繰り返し強調されています。例外として、ねじれや破裂が疑われるときは緊急の対応が必要です。
参考文献
発生機序
濾胞性嚢胞は、成熟卵胞が排卵時に破裂せず、卵胞腔内に液体が貯留することで拡大して生じます。これにはLHサージの不十分さ、顆粒膜細胞の機能異常、局所の炎症など、複数の要因が関与しうると考えられています。
ホルモン療法や排卵誘発剤の使用は、卵胞の成長を促すため、時に多発性の機能性嚢胞を形成することがあります。代表例として不妊治療中の卵巣過剰刺激症候群では、多数の嚢胞様卵胞が観察されることがあります。
一方で、黄体期に形成される黄体嚢胞とは発生の時期が異なります。濾胞性嚢胞は排卵に至らなかった卵胞が主体で、エストロゲン優位な環境で持続・拡大しやすいとされます。
超音波像では、薄い壁を持つ単房性で内部エコーに乏しい「単純嚢胞」として描出されることが多く、ドップラー所見でも血流は乏しいことが一般的です。悪性所見(壁の不整、乳頭状突出など)は通常みられません。
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症状と合併症
多くの濾胞性嚢胞は無症候ですが、骨盤内の鈍痛、下腹部の張り感、性交痛、月経不規則などがみられることがあります。嚢胞が大きくなるほど、周囲臓器への圧迫感が出やすくなります。
嚢胞が急に破裂した場合には、片側の急性腹痛が出現することがあり、内出血を伴うと冷汗やふらつきなど循環動態への影響が出ることもあります。強い痛みや発熱があるときは、速やかな受診が必要です。
もう一つの重要な合併症は卵巣茎捻転です。嚢胞が一定以上の大きさになると、卵巣自体が回転し血流が途絶することがあり、激しい痛み、悪心、嘔吐を伴います。捻転は緊急手術の対象となります。
閉経後の女性で嚢胞が認められた場合、機能性嚢胞であっても慎重な評価が必要です。年齢とともに悪性腫瘍の頻度が増えるため、腫瘍マーカーや画像精査の適応が広がります。
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診断
診断の第一選択は経腟(または経腹)超音波検査です。嚢胞の大きさ、壁の厚さ、内部構造、隔壁の有無、固形成分の有無などを評価し、良悪性の目安をつけます。単純嚢胞で小型なら経過観察が標準です。
血液検査として妊娠反応(hCG)は必須です。妊娠初期の異所性妊娠や黄体嚢胞との鑑別に役立ちます。腫瘍マーカー(CA125など)は閉経後や悪性が疑われる所見時に参考として用います。
CTやMRIは超音波で不明瞭な場合や、複雑な嚢胞で悪性の可能性が示唆される場合に追加されます。MRIは嚢胞内容の性状評価に優れ、脂肪や血液成分の鑑別にも有用です。
経過観察では、月経2~3周期の間隔で再評価し、縮小傾向や消失を確認します。増大や新たな固形成分の出現があれば、方針を再検討します。
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治療と経過観察
無症候で単純な濾胞性嚢胞は、一定期間の経過観察が標準治療です。多くは自然消退するため、不要な手術を避けることが重要です。疼痛があれば鎮痛薬を使用します。
経口避妊薬は嚢胞の自然消退を早めないことが示されていますが、将来的な機能性嚢胞の新規形成を抑制する可能性があります。閉経前の避妊目的がある場合に選択肢となりえます。
嚢胞が持続・増大する、サイズが大きい(例: >5–7cm)、痛みが強い、ねじれや破裂が疑われる、悪性所見がある、などの場合は手術が検討されます。多くは腹腔鏡下で嚢胞摘出が可能です。
予後は良好で、合併症がなければ生活上の大きな制限は不要です。再発はありえますが、多くは一過性で、必要に応じて経過観察の枠組みで対応可能です。
参考文献
- Cochrane Review: Oral contraceptives for functional ovarian cysts
- AAFP: Diagnosis and Management of Adnexal Masses
予防と生活上の注意
濾胞性嚢胞は生理的変動に伴うことが多く、明確な予防法はありません。とはいえ、排卵を抑えるホルモン法(経口避妊薬、ホルモンIUDなど)は新規形成を減らす可能性があります。
不妊治療中は、排卵誘発剤の使用により嚢胞が生じやすくなるため、医師の指示のもと超音波で卵巣を定期的に評価します。過度な運動は大型嚢胞のねじれリスクを高める可能性があるため、症状やサイズに応じて調整します。
急な強い下腹部痛、発熱、嘔気・嘔吐、めまいなどがあれば、破裂や捻転の可能性があるため救急受診が必要です。自己判断で鎮痛薬のみで様子をみることは避けましょう。
閉経後に嚢胞を指摘された場合は、機能性かどうかにかかわらず、医療機関での継続的な評価が重要です。年齢に応じて方針は変わるため、専門医に相談してください。
参考文献

