湿疹性皮膚炎
目次
定義と概要
湿疹性皮膚炎は、かゆみを伴う紅斑や丘疹、浸出、鱗屑などを示す炎症性皮膚疾患の総称で、急性から慢性まで経過し得ます。臨床ではアトピー性皮膚炎が代表的で、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎なども湿疹群に含まれます。症状は寛解と増悪を繰り返し、生活の質に大きな影響を与えます。
アトピー性皮膚炎は年齢によって好発部位が異なり、乳幼児では顔や体幹、小児以降は肘窩・膝窩など屈曲部に出やすいのが特徴です。慢性化すると苔癬化(皮膚が厚く硬くなる)を生じ、掻破で二次感染のリスクが高まります。
世界的に小児の10~20%、成人の1~10%が罹患するとされ、日本でも同程度の有病率が報告されています。疾患負荷は睡眠障害、学業・労働生産性低下、精神的ストレスなど多面的です。
診断は臨床的所見と病歴に基づき、単一の決定的検査はありません。除外診断として接触皮膚炎や疥癬、乾癬などの鑑別が必要で、必要に応じてパッチテストや培養検査を行います。
参考文献
症状と臨床像
急性期には紅斑、丘疹、小水疱、浸出・痂皮が主体で、強いかゆみが伴います。慢性期には乾燥、鱗屑、色素沈着や色素脱失、苔癬化が目立ち、掻破と炎症の悪循環が持続します。
乳児では頬部の滲出性湿疹から始まり、小児期には屈曲部の乾燥性病変が中心となります。思春期以降は手湿疹や頭頸部皮疹が持続・再燃することが多く、職業性曝露が増悪因子になることもあります。
かゆみは睡眠の質に直結し、日中の活動性や集中力を低下させます。痒覚神経の過敏化やヒスタミン以外の神経ペプチド、サイトカイン(IL-31等)が関与し、抗ヒスタミン薬のみでは不十分なことが少なくありません。
二次感染として黄色ブドウ球菌の異常増殖や単純ヘルペスウイルスによる伝染性膿痂疹、カポジ水痘様発疹症を合併し得ます。皮膚バリア破綻と微生物叢の乱れ(ディスバイオーシス)が基盤にあります。
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発生機序(病態)
病態は三本柱で説明されます。第一は皮膚バリア機能障害で、角質タンパク質フィラグリン欠損や脂質異常により経皮水分喪失が増加し、刺激物・アレルゲンが侵入しやすくなります。
第二は免疫学的異常で、急性期はTh2優位(IL-4, IL-13, IL-31)が中心、慢性期にはTh1/Th17/Th22も関与します。これらのサイトカインが痒み神経や角化細胞に作用し、炎症と掻破の悪循環を強化します。
第三は皮膚マイクロバイオームの破綻です。黄色ブドウ球菌の増殖と多様性低下がしばしば観察され、毒素やスーパー抗原が炎症を促進します。適切なスキンケアは多様性を回復しうることが示唆されています。
遺伝と環境の相互作用が本質で、遺伝率は概ね60~80%と推定されますが、都市化・大気汚染・低湿度・硬水・ストレスなどの環境因子が発症や増悪に強く影響します。
参考文献
- Nature Genetics: Multi-ancestry GWAS of atopic dermatitis (Paternoster et al., 2015)
- The Lancet review on AD pathogenesis
遺伝的要因
代表的な関連遺伝子はFLG(フィラグリン)で、機能喪失変異がバリア破綻と早期発症、重症化、難治化に関連します。FLG変異は人種により異なり、欧米で報告の多い変異と東アジアでの変異は頻度が異なります。
免疫関連ではIL4、IL13、IL4R、TSLP、OVOL1、CARD11などが候補として同定されています。多遺伝子性で、単一変異で全てが説明されるわけではありません。
双生児研究から推定される遺伝率は60~80%で、家族歴のある子は発症リスクが2~3倍高くなります。ただし遺伝素因があっても適切な環境管理で発症や重症化を抑えられます。
ゲノムワイド関連解析は多数の感受性座位を特定し、バリア・免疫・神経感作の経路が集約的に関与することが裏づけられています。将来の個別化医療や予防標的探索に寄与します。
参考文献
環境要因・治療・予防
環境要因には乾燥気候、低湿度、温度変化、空気汚染、タバコ煙、ダニ・ペット皮屑、刺激性洗剤、硬水、ストレス、睡眠不足、感染などが挙げられます。職業性曝露(洗浄作業、金属、樹脂)も手湿疹を誘発します。
治療は基礎に保湿(毎日、十分量)と刺激回避、増悪時に外用ステロイドや外用カルシニューリン阻害薬を使い分けます。中等~重症には光線療法、シクロスポリン、メトトレキサート、生物学的製剤(デュピルマブ、トラロキヌマブ)やJAK阻害薬(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)を選択します。
早期対応として、かゆみ・典型分布・慢性経過の三徴を意識し、再燃を繰り返す場合は早めに皮膚科受診を。接触皮膚炎疑いではパッチテスト、二次感染疑いでは培養検査を併用します。IgEや特異的IgEは重症度指標ではなく、必要時に限定して実施します。
予防はスキンケアの徹底、適温・加湿、刺激の少ない洗浄・洗濯、汗対策、ストレスと睡眠の管理、爪管理など。乳児期の保湿による一次予防効果は研究で賛否があり、最新エビデンスに基づき個別に判断します。
参考文献

