毛髪の色(黒髪とブロンド)
目次
概要
毛髪の色は、メラノサイトが産生するメラニン色素の種類と量の組み合わせで決まります。主なメラニンには黒〜褐色のユーメラニンと、赤〜黄のフェオメラニンがあり、黒髪はユーメラニンが豊富で光を強く吸収します。ブロンドは総メラニン量が少なく、フェオメラニンの比率がやや高いことが多いため、明るく見えます。
ユーメラニンの粒子の大きさや密度、毛髪内での分布が黒から濃茶、淡茶までの連続的な色調を生み、フェオメラニンが混ざると金色がかったニュアンスが加わります。こうした連続性のため、人の毛髪色は明確な区切りではなくスペクトラムとして理解されます。
地理的には黒髪が世界で最も一般的で、東アジア、アフリカ、先住アメリカ、南アジアなどで高頻度にみられます。ブロンドは主に北西ヨーロッパ系で多く、またメラネシアの一部集団では独立に生じた遺伝的背景によるブロンドが存在します。
毛髪色は遺伝的に規定される多遺伝子形質である一方、紫外線による退色や化学的な染毛など環境・生活によって見かけが変化することもあります。測定は主観評価の影響を受けやすく、研究では標準化された色票やデジタル解析が用いられます。
参考文献
- MedlinePlus Genetics: What determines hair color?
- Ito & Wakamatsu (2011) Human hair melanins: what we have learned and have not learned
- Sturm & Duffy (2012) Human pigmentation genes under environmental selection
- Kenny et al. (2012) Melanesian blond hair is caused by an amino acid change in TYRP1
遺伝的要因と環境的要因の比率
双生児研究や家系研究から、毛髪色の遺伝率(個体差のうち遺伝で説明される割合)は高いと推定されています。報告によって幅はありますが、おおむね0.70〜0.90の範囲で、毛髪色は強い遺伝的影響を受ける形質です。
具体的には、欧州系集団における大規模ゲノム解析で多数の関連座位が同定され、遺伝子の小さな効果が累積して色の明暗を形作ることが示されました。これは黒髪とブロンドの違いも多遺伝子の総和で説明されることを意味します。
環境的要因としては、紫外線によるフォトブリーチ、栄養状態、ホルモン、加齢、薬剤などが挙げられます。これらは毛幹中のメラニンの化学構造や見かけに影響し、季節的・年齢的な色調変化を引き起こし得ますが、遺伝的基盤を根本から変えるものではありません。
全体としての目安を示すと、遺伝的要因がおおむね70〜90%、環境・生活要因が10〜30%程度と考えるのが妥当です。ただし個人差や年齢、集団によって割合は変動し、推定値には不確実性がある点に留意が必要です。
参考文献
- Shekar et al. (2008) Quantitative genetic analyses of human hair color
- MedlinePlus Genetics: What determines hair color?
- Liu et al. (2015) Genome-wide association study identifies 8 loci for hair color in Europeans
- Ito & Wakamatsu (2011) Human hair melanins
意味・解釈
生物学的観点では、毛髪色は皮膚・毛の光学的性質に影響し、紫外線や酸化ストレスからの防御に関わるメラニンの量と種類の指標です。濃い色調は光吸収が高く、淡い色調は反射や透過が増えるため、熱・光環境との相互作用が生じます。
文化・社会的観点では、毛髪色には多様な意味づけがなされてきました。黒髪は落ち着きや伝統、ブロンドは軽やかさや若々しさなどと結び付けられることがありますが、解釈は時代・地域・個人で大きく異なります。
医学的には毛髪色そのものは疾患ではありませんが、メラニン合成経路の異常(例:眼皮膚白皮症)では非常に淡い毛髪となることがあります。こうした場合は視機能や皮膚の健康管理が重要で、専門的評価が推奨されます。
科学的に、毛髪色と性格・能力の因果的関連を示す根拠はありません。毛髪色は多様性の一側面であり、社会的なステレオタイプから独立に理解されるべきです。
参考文献
- Sturm & Duffy (2012) Human pigmentation genes under environmental selection
- MedlinePlus Genetics: What determines hair color?
- MedlinePlus Genetics: Oculocutaneous albinism
関与する遺伝子および変異
毛髪色に関与する主要な遺伝子には、MC1R、KITLG、OCA2/HERC2、SLC45A2、SLC24A5、TYR、TYRP1、ASIP、IRF4、TPCN2などがあり、多くはメラニン合成やメラノソーム輸送、シグナル伝達に関与します。各遺伝子の効果は小さいことが多く、累積して色調を規定します。
ヨーロッパ系のブロンドには、KITLG遺伝子の遠位エンハンサーにある調節的変異(例:rs12821256)が関与し、毛包でのKITLG発現をわずかに低下させることでメラニン量が減り、明るい髪色に寄与することが示されています。これは構造変異ではなく発現制御の違いが色に影響する好例です。
メラネシアの一部集団のブロンドは別起源で、TYRP1のアミノ酸置換(例:R93C)が原因であることが報告されています。これはブロンド表現型が複数の遺伝的ルートから生じ得ることを示す代表例です。
赤毛に強く関わるMC1Rは、ユーメラニン/フェオメラニン比の調整を担い、黒〜ブロンドの微妙な色調にも影響します。近年のGWASでは数十〜百以上の座位が同定され、遺伝子間相互作用や調節領域の寄与が強調されています。
参考文献
- Guenther et al. (2014) A molecular basis for classic blond hair color in Europeans
- Kenny et al. (2012) Melanesian blond hair is caused by an amino acid change in TYRP1
- MedlinePlus Genetics: What determines hair color?
- Liu et al. (2015) GWAS for hair color in Europeans
その他の知識
幼少期から思春期にかけて毛髪色が徐々に濃くなることがあり、ホルモンやメラノサイトの成熟が関わります。逆に成人以降は白髪化が進み、メラノサイト幹細胞の枯渇が主要因と考えられています。
白髪化は黒髪・ブロンドを問わず起こり、毛髪内のメラニンが失われることで光の透過・散乱が増え、白く見えます。発現速度は遺伝的背景と環境ストレスの相互作用に影響されます。
紫外線や海水、熱処理、酸化剤・還元剤を用いた整髪・染毛は毛幹の色素やタンパク質に影響し、退色や変色をもたらします。適切なヘアケアや紫外線対策は望ましい色調の維持に役立ちます。
法医学や考古学では、毛髪色やメラニン分解産物の分析が個人識別や生活史推定に応用されますが、倫理的・プライバシー上の配慮が不可欠です。予測は確率的であり、過度な断定は避けるべきです。
参考文献

