末梢動脈疾患
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概要
末梢動脈疾患(PAD)は、主に動脈硬化により下肢などの末梢の動脈が狭くなる、または詰まることで血流が不足する病気です。歩行時のふくらはぎの痛みやだるさ(間欠性跛行)が代表的な症状で、進行すると安静時痛や潰瘍、壊疽を生じます。心筋梗塞や脳卒中と同じ動脈硬化性疾患の一部であり、全身の心血管リスクと強く関連します。
世界での患者数は高齢化や糖尿病の増加とともに増えており、推計では2億人以上が罹患しています。加齢とともに頻度が上昇し、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病などが主な危険因子です。日本でも高齢社会の進行に伴い患者が増加しており、早期発見と包括的管理が重要です。
診断には上腕と足首の血圧比を測る足関節上腕血圧比(ABI)が広く用いられます。問診や脈の触診、ドプラ検査、画像検査(超音波、CTA、MRA、血管造影)を組み合わせて重症度と病変部位を評価します。治療は生活習慣の是正、運動療法、薬物治療、血行再建術を組み合わせます。
PADは無症状のことも多く、症状がないからといって安心できません。ABIでのスクリーニングは一部の高リスク群で有用とされ、また禁煙や適切な運動、食事、血圧・脂質・血糖の管理が発症予防と進行抑制に寄与します。患者さん自身が足の観察やフットケアを行うことも重要です。
参考文献
- CDC: Peripheral Artery Disease (PAD)
- 2024 AHA/ACC Guideline for the Management of Patients With Lower Extremity Peripheral Artery Disease
- NHLBI: Peripheral Artery Disease
症状と重症度
典型的な症状は歩行時のふくらはぎの痛みやだるさで、休むと数分で軽快する間欠性跛行です。階段や上り坂で症状が出やすく、進行すると短い距離でも症状が出現します。病変部位により太ももや臀部の痛み、勃起不全を伴うこともあります。
重症虚血(CLTI)に進展すると、安静時痛や足趾の潰瘍、壊疽が現れ、感染を併発すると切断の危険が高まります。糖尿病や腎不全患者では末梢神経障害のため痛みが乏しく、潰瘍から気づくケースが少なくありません。早期発見が予後に直結します。
皮膚の冷感、蒼白や紫斑、体毛の減少、爪の変化、足背・後脛骨動脈の脈拍低下なども重要な身体所見です。左右差や運動負荷での変化を確認し、症状と一致しない場合は鑑別診断(脊柱管狭窄症、静脈疾患など)も考慮します。
重症度は症状と客観的指標で評価します。間欠性跛行の歩行距離、ABIや足趾上腕血圧比(TBI)、皮膚灌流圧(SPP)、経皮酸素分圧(TcPO2)などを総合し、治療方針(運動・薬物・血行再建)を決定します。
参考文献
診断と検査
初期評価では危険因子の洗い出し、間欠性跛行の有無、足の皮膚や潰瘍の状態の確認、末梢脈拍の触診を行います。ABIは非侵襲的で再現性が高く、0.90未満でPADを示唆します。石灰化でABIが偽高値になる場合はTBIや波形解析を併用します。
超音波ドプラは病変の部位と重症度の推定に有用で、血流速度や波形から狭窄の程度を評価できます。CTAやMRAは解剖学的情報に優れ、血行再建術の計画に役立ちます。最終的な評価や治療を兼ねる場合には血管造影が選択されます。
運動負荷試験やトレッドミルテストは歩行耐容能の客観的評価に用いられます。重症虚血では組織灌流の指標(SPP、TcPO2)や創傷評価を行い、感染や骨髄炎の有無の確認も重要です。
無症状の一般集団への一律スクリーニングは、現時点では利益が明確でないとする推奨もあります。一方で高リスク群(65歳以上、または50〜64歳で糖尿病・喫煙・腎疾患など)はABI評価が推奨されます。
参考文献
- USPSTF: Screening for Peripheral Artery Disease With the Ankle-Brachial Index
- 2024 AHA/ACC PAD Guideline
リスク因子(環境・遺伝)
最も強い環境要因は喫煙で、PADの発症と進行、切断リスクの上昇に直結します。禁煙は単独で歩行能力の改善やイベント抑制に寄与します。糖尿病、高血圧、脂質異常、慢性腎臓病、炎症性疾患、身体活動不足、肥満も重要なリスク因子です。
遺伝的要因としては、冠動脈疾患と共通する9p21領域、脂質代謝関連(LPA、LDLR、PCSK9など)、血圧や凝固関連の多因子遺伝が報告されています。特にLPA遺伝子変異に基づく高リポ蛋白(a)血症はPADリスクの上昇と関連します。
メンデルランダム化研究や大規模ゲノム研究により、LDLコレステロールやリポ蛋白(a)の遺伝的上昇がPADリスクを因果的に高める可能性が示唆されています。遺伝だけで決まる病気ではなく、環境要因管理が予防の要です。
家族歴はリスク層別化に有用ですが、個々の遺伝子検査の臨床応用は限定的です。標準的な心血管リスク管理(禁煙、脂質・血圧・血糖管理、運動)が最も確かな予防・治療戦略です。
参考文献
- Klarin et al. Genetics of peripheral artery disease in the Million Veteran Program. Nature Medicine
- AHA/ACC PAD Guideline 2024
治療(運動・薬物・血行再建)
第一は動脈硬化の包括的管理です。禁煙、高強度スタチン、降圧薬(ACE阻害薬/ARBなど)、糖尿病の厳格管理、抗血小板療法(クロピドグレルまたはアスピリン)、リスクに応じた二次予防を行います。
症状改善には監視付き運動療法(SET)が有効で、歩行距離を伸ばしQOLを改善します。薬物ではシロスタゾールが間欠性跛行の歩行距離延長に有効とされます。痛みや潰瘍を伴う重症例では血行再建を検討します。
血行再建はエンドバスキュラー治療(バルーン、ステント、薬剤コーティングデバイスなど)と外科的バイパス術があります。解剖学や病変長、患者背景によって選択し、創傷治癒と肢救済を目指します。術後の二次予防継続が重要です。
心血管イベントと下肢イベントの抑制には、適切な患者でリバーロキサバン2.5mg 1日2回+アスピリンの併用が有用と示されています(COMPASS、VOYAGER PAD)。出血リスクを考慮しながら個別化します。
参考文献

