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最大呼気流量(PEF)

目次

定義と測定の基本

最大呼気流量(Peak Expiratory Flow; PEF)は、できるだけ大きく息を吸い込んだ後、一気に強く吐き出したときに得られる呼気の最大流速を示す指標です。専用のピークフローメーターを用い、自宅や診療所で短時間に繰り返し測定できます。値は気道の通りやすさを反映し、気道が狭いほど低下します。

PEFは身長・年齢・性別などの身体的要因の影響を強く受けるため、個人内のベースライン(自己最良値)や予測値と比較して評価するのが一般的です。朝と夜で差が出る日内変動や、日ごとのばらつきを記録することで、気道の不安定性を把握できます。

測定の際は、立位で深く吸気し、口でしっかりマウスピースをくわえ、できる限り最初から勢いよく呼出します。少なくとも3回測定し、最も高い整合する値を採用します。咳や舌のかみ込み、漏れは過小評価の原因となるため注意が必要です。

PEFはスパイロメトリーに比べ装置が簡便で安価ですが、努力依存性が高く、誤差が生じやすいという限界もあります。したがって、単独ではなく症状や他の肺機能検査と合わせて解釈されることが推奨されます。

参考文献

臨床での活用と解釈

PEFは主に喘息の自己管理とモニタリングに用いられ、増悪の早期兆候(PEFの低下や変動の増大)を捉えるのに有用です。個人の最良値に対する割合(ゾーン管理)で、緑・黄・赤の行動計画を立てる方法が広く用いられています。

日内変動は(最高値−最低値)/平均値×100%で表すことができ、成人で概ね10%超の変動が持続する場合、気道過敏性や不安定性が示唆されます。長期の平均値の低下は気道リモデリングやコントロール不良の可能性を示します。

増悪時にはPEFが急低下し、薬物吸入後に回復する反応性が確認できる場合があります。救急外来では重症度の目安として用いられ、治療反応の追跡にも役立ちます。ただし、重症例で努力が十分にできないと過小評価のリスクがあります。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)ではFEV1が標準的指標ですが、PEFも気道閉塞の程度を反映する補助的指標として使われます。いずれの疾患でも、PEFは症状・聴診・酸素化・スパイロメトリーなどと統合して判断することが重要です。

参考文献

PEFに影響する遺伝的・環境的因子

PEFは遺伝と環境の双方に影響されます。身長・胸郭の大きさ・気道径など解剖学的特性は遺伝的背景の影響を受け、肺機能の基礎水準に関与します。双生児・家系研究やゲノム解析は、肺機能指標の遺伝率がおおむね中等度(30–60%)であることを示しています。

肺機能関連の遺伝子として、HHIP、AGER、FAM13A、MMP12、GST系、ADRB2多型などが報告され、気道構造や炎症、気管支拡張薬反応性に関与します。喘息関連のORMDL3/GSDMBなども、間接的にPEFの水準や変動に影響し得ます。

環境因子としては喫煙(能動・受動)、大気汚染(PM2.5、NO2)、職業性曝露(粉じん、有機物、イソシアネートなど)、アレルゲン、ウイルス感染、冷気、運動不足、肥満などが挙げられます。これらは気道炎症や収縮を介してPEFを低下させます。

成長・加齢も大きな規定因子です。思春期にかけて肺機能は増加し、その後加齢とともに低下します。小児では身長の伸びに伴いPEFが上がり、成人以降は喫煙や慢性炎症の影響で低下速度が加速することがあります。

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自己管理と早期発見への応用

喘息の患者さんでは、朝夕のPEFを家庭で継続記録することで、体調が悪化する前の微妙な変化を検出できます。日内変動の増大や基準値からの低下が見られたら、あらかじめ決めたアクションプランに沿って対応します。

ピークフローメーターは携帯性に優れ、学校や職場でも使えます。吸入薬のステップアップ・ダウンの判断、運動誘発性症状の評価、職業性喘息の疑いの評価(勤務日と休日の差の比較)に応用できます。

定期的なスパイロメトリーと合わせることで、PEFの努力依存性による誤りを補い、より正確な管理が可能です。また、デバイスの校正や使い方の指導を受けると測定の再現性が向上します。

デジタル機器やアプリと連携したPEF日誌は、データの共有やアラート設定に有用です。遠隔モニタリングは増悪の早期介入を促し、救急受診や入院の減少につながる可能性があります。

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限界と注意点

PEFは息を吹き出す最初の瞬間の努力に大きく依存し、測定技術やモチベーションの差で値が変わります。このため、単回測定の絶対値よりも、同じ条件での繰り返し測定の傾向を見ることが重要です。

装置間のばらつきや、規格の違いによる数値の不一致も起こり得ます。同一メーカー・同一機種で継続測定し、交換時にはベースラインの再設定を行うとよいでしょう。

重篤な増悪時には十分な吸気・呼気努力ができず、PEFが過小評価または再現性不良となることがあります。症状や酸素飽和度、呼吸数、会話困難など臨床所見を総合して重症度を判断する必要があります。

PEFは疾患そのものではなく生理学的指標であり、「治療対象」はPEFの異常を引き起こす基礎疾患(多くは喘息、時にCOPD等)です。したがって、PEFの改善は適切な疾患管理の結果として得られるアウトカムと捉えます。

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