旨味感受性
目次
旨味感受性の概要
旨味感受性とは、グルタミン酸や核酸(IMP、GMP)に由来する味をどの程度強く感じるかという個人差を指します。旨味は甘味・塩味・酸味・苦味に次ぐ第五の基本味で、だしや熟成食品の美味しさに深く関わります。日常の食嗜好や食事満足度にも影響します。
この感受性は連続的な分布を示し、人によって検出閾値や強度評価が大きく異なります。いわゆる「うま味に敏感」な人は少量のだしでも満足しやすく、鈍感な人は濃い味を好みやすい傾向が報告されています。
旨味の生理的役割としては、アミノ酸由来の栄養指標を素早く検知し、唾液分泌や消化管反応を促すことが示されています。これにより食事の消化吸収効率や満足感の制御に寄与すると考えられています。
感受性は固定的ではなく、加齢、健康状態、喫煙、薬剤、口腔環境、食経験などの要因で変動します。したがって、生得的要因に加えて生活習慣や環境による可塑性が大きい特性といえます。
参考文献
受容体と発生機序
旨味は主に味蕾のI型・II型細胞に発現する受容体で検知されます。代表的なのはT1R1/T1R3というヘテロ二量体受容体で、L-グルタミン酸やアスパラギン酸を結合し、細胞内のGタンパク質経路を活性化します。
T1R1/T1R3以外にも、味蕾に発現する代謝型グルタミン酸受容体(mGluR4、mGluR1)が旨味検知に関与する証拠があります。これらは異なる濃度域や条件で機能し、複合的にうま味体験を形作ると考えられています。
細胞内シグナルはPLCβ2→IP3→Ca2+上昇→TRPM5活性化といった共通経路に収束し、神経伝達物質放出を介して味覚神経に情報が伝達されます。核酸(IMP/GMP)はT1R1/T1R3にアロステリックに作用し、グルタミン酸応答を相乗的に増強します。
この相乗効果が、和風だしなどで実感される「コク」や持続性のあるうま味の基盤です。分子レベルの理解は、個人差の機序解明や食品設計、栄養支援への応用可能性を広げています。
参考文献
- Zhao et al. The receptors for mammalian sweet and umami taste. Nature (2003)
- Chaudhari & Roper. The cell biology of taste receptors. J Cell Biol (2010)
遺伝要因と環境要因の相対寄与(比率)
双生児研究などから、味覚強度や検出閾値には遺伝と環境の双方が寄与することが示されています。旨味に特化した推定は研究により幅がありますが、中等度の遺伝寄与が示唆されています。
若年成人を対象にした双生児研究では、MSGの強度知覚や嗜好に対して概ね30〜50%程度の遺伝率が報告され、残りは共有・非共有環境の影響とされます。測定法や対象により推定は変動します。
加齢や喫煙、口腔・全身の健康状態、食経験は環境要因として大きく、特に加齢は味覚全般の低下に寄与します。こうした可塑的要因が大きい点が旨味感受性の特徴です。
したがって、便宜的な比率として遺伝3〜5割:環境5〜7割程度と理解すると実務的です。ただし個人レベルでは要因が相互作用するため、単純な配分では説明しきれません。
参考文献
- Keskitalo et al. Genetic and Environmental Contributions to Taste Preferences and Tasting (Chem Senses, 2007)
- Duffy VB. Individual differences in taste: implications. Physiol Behav (2007)
遺伝的背景(関連遺伝子と多型)
旨味受容の中心であるTAS1R1およびTAS1R3遺伝子には多型が存在し、受容体の感度やシグナリング効率に差を生む可能性が報告されています。これが個人差の一因と考えられます。
一部の研究では、TAS1R1やTAS1R3のアミノ酸置換やプロモーター領域の多型が、MSGの検出閾値や強度評価と関連することが示唆されています。ただし効果量は中等度で再現性の検証が進行中です。
mGluRファミリー(GRM1, GRM4)の発現やスプライシングバリアントも味蕾で確認され、機能差が旨味応答の幅を生む可能性があります。多遺伝子・多経路性が特徴です。
現時点では、特定の単一変異で旨味感受性の大半を説明できるという段階ではなく、複数の遺伝子と環境が相加・相乗的に作用するポリジーン形質として理解されています。
参考文献
- Raliou et al. Functional variability in human umami receptor genes. Chem Senses (2011)
- Nelson et al. Mammalian sweet and umami receptors. Cell (2002)
環境要因・測定・実践
喫煙、上気道感染、口腔乾燥、薬剤(抗ヒスタミン薬、抗うつ薬など)、亜鉛不足、放射線治療、口腔衛生不良などは味覚低下の一般的要因で、旨味にも影響します。生活習慣の調整は有効です。
旨味感受性の評価には、MSGやグアニル酸を用いた三点識別法(3-AFC)や検出閾値測定、強度評定スケールが用いられます。標準化プロトコルに従うことで再現性が高まります。
食経験は学習により嗜好と知覚を変え得ます。だしの活用、減塩食への旨味付与は食塩摂取を抑えつつ満足感を維持する実践として役立ちます。
予防・維持として、禁煙、口腔ケア、十分な水分と唾液分泌促進、栄養バランス(とくに亜鉛・鉄)、薬剤の副作用確認が推奨されます。問題が続く場合は耳鼻咽喉科で相談を。
参考文献

