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推定糸球体濾過率

目次

概要と臨床的意義

推定糸球体濾過率(estimated Glomerular Filtration Rate, eGFR)は、腎臓のろ過機能を血液検査の結果から数式で見積もる指標です。腎臓がどれだけ老廃物をろ過できているかを示し、慢性腎臓病(CKD)の診断・重症度分類・予後予測の中心指標として使われます。

eGFRは単位としてmL/分/1.73m²で表され、体表面積1.73m²に標準化されています。一般に60 mL/分/1.73m²未満が3か月以上続くとCKDの一要件を満たします。アルブミン尿(尿蛋白)と組み合わせることで腎リスク層別化が可能です。

日本では血清クレアチニン値やシスタチンC値、年齢、性別などを用いた推定式が広く利用されます。人種・民族差や筋肉量の違いを考慮するため、国・地域で最適化した式が推奨されてきました。近年は『人種係数』を用いない国際式も整備されています。

eGFRは腎疾患の診断だけでなく、薬の用量調整や造影剤使用時のリスク評価、手術・心血管イベントのリスク評価にも用いられます。繰り返し測定により腎機能の経時的な変化を把握し、予防や治療の効果判定にも役立ちます。

参考文献

計算式と測定原理

eGFRは、腎糸球体でのろ過機能(真のGFR)を直接測る代わりに、血清クレアチニン(Scr)やシスタチンC(Scys)と年齢・性別などを説明変数として回帰式で推定します。代表的なのがCKD-EPI式で、2021年には人種係数を用いない新式が公表されました。

クレアチニンは筋肉由来の代謝産物で、筋肉量や食事、薬剤の影響を受けます。そのため、筋肉量の少ない高齢者や特定の体格の方では、クレアチニン単独よりもシスタチンC併用式が精度に優れることがあります。

日本人に最適化されたeGFRクレアチニン式(Matsuoら)は、194 × Scr^-1.094 × 年齢^-0.287(女性は×0.739)で表され、国内臨床で広く用いられてきました。施設によってはシスタチンCベースの式や併用式も併用されています。

真のGFRを直接測るにはイヌリンクリアランスや放射性トレーサーを用いた測定が必要ですが、臨床現場では簡便で再現性のあるeGFRが標準です。推定である以上、測定誤差やバイアスがあり、臨床判断では尿所見や画像などと統合的に評価します。

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影響因子(遺伝と環境)

eGFRの個人差には遺伝と環境の双方が関与します。家系・双生児研究ではeGFRの家族内集積が示され、家族ベースの『遺伝率』は概ね30〜50%と報告されます。一方、ゲノムワイド研究に基づくSNP遺伝率はより低く、eGFRcreaでおおむね5〜10%前後です。

遺伝学的にはUMOD、SHROOM3、GATM、SLC7A9など多数の座位がeGFRに関連し、腎発生、尿細管機能、クレアチニン生成・分泌経路などに関わります。ただし一つ一つの効果は小さく、多遺伝子性が特徴です。

環境・生活習慣では加齢、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、高食塩、NSAIDsなど腎血行動態に影響する薬剤、脱水、激しい運動直後の採血、肉類の大量摂取や筋肉量の変化がeGFR推定値に影響します。

特にクレアチニンベースのeGFRは筋肉量に依存するため、サルコペニアやボディビルなど体格の偏りがある場合、シスタチンCで補正すると真の腎機能評価に近づくことがあります。

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疫学(低eGFR/CKDの有病率)

eGFRは指標であり『罹患率』の対象ではありませんが、臨床的にはeGFR<60 mL/分/1.73m²(G3以上)を含む慢性腎臓病(CKD)の有病率が用いられます。世界では成人の約9.1%がCKDと推定され、地域差があります。

日本では約1,330万人、成人の約1/8がCKDと推定されます。高齢化の進行に伴い、G3a(45–59)やG3b(30–44)のステージに属する方が増えています。アルブミン尿の合併は心血管リスクも高めます。

CKDの有病率は年齢とともに上昇し、男女差も観察されます。男性はアルブミン尿が多く、女性は高齢でeGFR低下が目立つなど、指標の分布に特徴がみられます。

これらの疫学データは方 法や母集団に依存します。スクリーニングプログラムや保健事業の充実により早期発見が進めば、見かけの有病率は変動する可能性があります。

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早期発見・予防・公的支援

CKDの早期発見には、eGFRと尿アルブミン/クレアチニン比(ACR)の併用が推奨されます。3か月以上の持続的な低eGFRやアルブミン尿があればCKDの診断に至ります。糖尿病や高血圧の方は定期的な検査が重要です。

予防では、血圧管理、糖尿病の良好なコントロール、禁煙、食塩制限、適正体重の維持、腎毒性薬剤(NSAIDsなど)の乱用回避、造影剤使用時のリスク管理が重要です。

日本では特定健康診査(特定健診)や各種健診で血清クレアチニンからeGFRが算出されることが多く、保険診療での検査費用は公的医療保険の対象です。早期の腎専門医受診につながる体制整備が進められています。

治療や透析に関わる医療費は高額となるため、高額療養費制度などの公的支援が利用できます。重症化予防のため、早期からの生活習慣改善と定期検査の継続が重要です。

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