扁平足(後天性)
目次
定義と概要
扁平足(後天性)は、思春期以降に足の土踏まず(内側縦アーチ)が徐々に低下・消失し、踵が外に倒れ(後足部外反)、前足部が外側へ流れる(外転)ことで足全体が潰れていく状態を指します。近年は「進行性内側崩れ足(Progressive Collapsing Foot Deformity; PCFD)」と総称されることもあり、成人期に獲得される扁平足という意味で成人期後天性扁平足(AAFD)とも呼ばれます。
最大の原因は後脛骨筋腱機能不全(Posterior Tibial Tendon Dysfunction; PTTD)で、腱の変性や部分断裂によって内側アーチを支える力が弱まり、靭帯(特にスプリング靭帯)にも過負荷がかかることで足部の支持構造が連鎖的に破綻します。結果として、立位・歩行時の荷重線が内側から外側へ移動し、足部の形態と機能が徐々に変化します。
病態は柔らかく矯正可能な段階から、関節が拘縮して硬い変形へ移行する段階まで連続的で、古典的にはJohnson & Strom分類(後にMyersonが拡張)でI~IV期に区分されます。I期は腱炎主体、II期は可逆的変形、III期は関節拘縮を伴う固定変形、IV期は足関節内反不安定性の合併が特徴とされます。
先天的な扁平足(幼児の柔らかい扁平足など)とは区別され、後天性は生後の生活や加齢、腱・靭帯の変性といった要因が重なって発症します。症状は痛みだけでなく、歩行距離の低下や疲れやすさ、靴の変形・摩耗パターンの変化など機能面にも及び、放置すると日常生活の質(QOL)に大きく影響します。
参考文献
- AAOS OrthoInfo: Progressive Collapsing Foot Deformity (Adult Acquired Flatfoot)
- StatPearls: Posterior Tibial Tendon Dysfunction
- PM&R KnowledgeNow: Adult Acquired Flatfoot Deformity
症状と日常生活への影響
初期には内くるぶし(後脛骨筋腱走行部)の痛みや腫れ、立ち仕事や長距離歩行での疲労感が目立ちます。足の内側がだるく重い、土踏まずが落ちてきた気がする、といった自覚が典型的で、朝よりも夕方に症状が強まることがよくあります。
進行すると、後方から足を見ると小趾側の指が多く見える「Too many toes sign」が陽性になり、片脚でかかと上げ(single heel rise)ができない/踵が内側へ入らないなどの機能障害が現れます。靴の内側縁が擦れたり、中敷きが偏って凹むなどの外見的変化も合併します。
さらに変形が固定化してくると、足の外側(距骨下関節や踵立方関節付近)に疼痛が出現することがあり、歩行速度の低下、坂道・階段の上り下り困難、スポーツ復帰の遅延など、活動性全体に影響が及びます。
重症化例では、足関節内側の不安定性や内側足関節の疼痛が加わり、通勤・家事・介護など日常動作の持続が困難になります。早期に適切な保存療法を行うことで痛みや機能低下の進行を抑えられる可能性があるため、症状の段階で受診することが重要です。
参考文献
- Cleveland Clinic: Posterior Tibial Tendon Dysfunction (PTTD)
- AAOS OrthoInfo: Progressive Collapsing Foot Deformity
- StatPearls: Posterior Tibial Tendon Dysfunction
発生機序(病態生理)
病態の中核は後脛骨筋腱の変性です。腱は加齢・反復負荷・血流の相対的乏血などでコラーゲン配列が乱れ、伸びやすく脆弱になります。これにより距舟関節の安定化作用が低下し、距骨が内側・下方へ傾くことで内側縦アーチが崩れやすくなります。
腱の支持機構であるスプリング靭帯や三角靭帯にも二次的損傷が及び、距舟関節の被覆率低下(タロナビキュラーアンクリカバリング)や距骨下関節の過回内が進行します。足部は外側へ偏位し、前足部は代償的に回内・外転します。これらの変化が「進行性」に起こる点が特徴です。
変形が進むと骨配列の再建だけでは矯正困難となり、硬い扁平足へ移行します。III期では距骨下関節や横足根関節の拘縮・関節症性変化が見られ、IV期では三角靭帯の機能不全により足関節の内反不安定性が加わります。
力学的には、下腿三頭筋の短縮(ヒラメ筋・腓腹筋のタイトネス)が距骨下関節の回内と前足部外転を助長し、内側柱にさらなる負荷をかけます。これらが複合して、痛みと機能障害、変形進行の悪循環が形成されます。
参考文献
- Bluman EM et al. Adult acquired flatfoot deformity. J Am Acad Orthop Surg. 2007.
- AAOS OrthoInfo: Progressive Collapsing Foot Deformity
- StatPearls: Posterior Tibial Tendon Dysfunction
危険因子と環境要因
発症には遺伝よりも環境・生活習慣要因の寄与が大きいと考えられています。代表的な危険因子は、肥満、長時間の立位・歩行、反復する高負荷の運動、加齢、女性(特に中高年)などです。これらは後脛骨筋腱や内側靭帯に慢性的な機械的ストレスを与えます。
全身性疾患もリスクを高めます。糖尿病や関節リウマチ、甲状腺機能低下症、腎疾患などは腱・靭帯の質を低下させ、腱癒合の遅延や変性の進行を助長します。副腎皮質ステロイドの全身投与や腱周囲注射の反復も腱脆弱性の要因として報告されています。
外傷歴(内果周囲の捻挫や腱鞘炎の遷延)、不適切な靴(内側サポートの乏しい摩耗した靴)も負荷偏在を生み、症状を悪化させます。扁平足傾向や靭帯弛緩性の体質が背景にある場合には、同じ負荷でも発症しやすい可能性があります。
一方で、明確な遺伝子異常が単独で成人後天性扁平足を規定するというエビデンスは乏しく、家族歴よりも獲得要因の関与が強いと整理されています。したがって、体重管理や活動量の調整、適切なフットウェアの選択といった環境調整が予防・再発防止の中心になります。
参考文献
- Cleveland Clinic: PTTD Risk Factors
- PM&R KnowledgeNow: Adult Acquired Flatfoot Deformity
- StatPearls: Posterior Tibial Tendon Dysfunction
診断と検査
問診では発症時期、痛みの部位と性質、活動量や靴の種類の変化、既往歴(糖尿病・関節炎・ステロイド使用など)を確認します。視診ではアーチの低下、踵の外反、足指の見え方、靴底の摩耗パターンを評価します。
機能評価として、片脚での踵上げテスト(single heel rise)で踵が内側へ入るか、回数と痛みをチェックします。Too many toes sign(後方視で外側の趾が多く見える)や、足部可動域、アキレス腱・腓腹筋のタイトネスも重要な所見です。
画像検査は荷重位X線が基本で、距舟関節の被覆、距骨の傾き、Meary角などを評価します。MRIは腱の変性・部分断裂、スプリング靭帯損傷の描出に有用で、超音波は動的観察や腱鞘炎の評価に適しています。
病期分類に基づいて治療方針が決まるため、柔らかい変形のうちに診断することが重要です。自己判断が難しい場合は、整形外科(足の外科)での評価が推奨されます。
参考文献
- AAOS OrthoInfo: Progressive Collapsing Foot Deformity
- StatPearls: Posterior Tibial Tendon Dysfunction
治療(保存療法と手術)
初期~中等度では保存療法が第一選択です。活動量の調整、NSAIDsや湿布などの疼痛コントロール、短期の免荷・固定(ブーツやギプス)、内側アーチを支える足底板(カスタムインソール)やAFO装具の併用、理学療法(後脛骨筋強化、腓腹筋・ヒラメ筋ストレッチ、バランス訓練)を組み合わせます。
保存療法の効果が乏しい、あるいは変形が進行・固定している場合は手術が検討されます。I期では腱鞘切開や滑膜切除、II期では後脛骨筋腱の修復・FDL腱移行、踵骨内側移動骨切りや外側柱延長、スプリング靭帯修復、腓腹筋延長などの骨・軟部組織手技を組み合わせます。
III期では距骨下関節や三関節の関節固定(関節温存が困難な場合)、IV期では三角靭帯再建や足関節固定・置換の検討など、足首のアライメントも含めた再建が必要になります。術後は装具と理学療法を通じた段階的荷重・筋力再建が重要で、回復には数か月を要します。
注射療法は疼痛緩和の一助となる場合がありますが、腱内のステロイド注射は腱断裂リスクを高める可能性があり慎重な適応判断が必要です。いずれの治療も、患者さんの年齢・活動性・合併症・目標に合わせた個別化が鍵になります。
参考文献

