成長ホルモン(GH)血清濃度
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成長ホルモン(GH)血清濃度とは
成長ホルモン(GH)は下垂体前葉から分泌されるタンパク質ホルモンで、身長の伸びや筋肉・脂肪・骨の代謝に重要な役割を果たします。血清中のGH濃度は一日を通じて脈動的に大きく変動し、特に深い眠りや運動、ストレス、低血糖などで一過性に上昇します。このため、単回の採血で得られる「ランダムGH値」だけでは、その人の恒常的なGH分泌能を正確に判断しにくいという特徴があります。
脳の視床下部から分泌されるGHRH(成長ホルモン放出ホルモン)とソマトスタチン、さらに胃から分泌されるグレリンが、下垂体のGH分泌に強い影響を与えます。肝臓などで産生されるIGF-1はGH作用の多くを媒介し、IGF-1濃度は日内変動が小さいため、臨床現場ではGH分泌の安定指標として併用されます。こうした軸の理解が、GH血清濃度の解釈に不可欠です。
GHは22kDaアイソフォームが主要ですが、20kDaなど複数のアイソフォームが存在します。市販の免疫測定法は抗体の特異性により認識するアイソフォームが異なり、測定系間で値が一致しない原因になります。近年はWHO国際標準(リコンビナント22kDa GH)へのトレーサビリティ確保など、測定のハーモナイゼーションが進められています。
生理的な年齢差や性差もGHの基礎分泌に影響します。小児や思春期では脈動の振幅が大きく、成人になると徐々に低下します。高齢化や肥満、インスリン抵抗性の進展に伴い、GH分泌は抑制されやすくなります。こうした背景を踏まえた上で、検査の目的に応じた測定タイミングと解釈が求められます。
参考文献
GH測定と結果解釈の基本
ランダム採血のGH値は強い日内変動と脈動分泌の影響を受けるため、単独では診断に不向きです。成人のGH分泌不全が疑われる場合は、インスリン低血糖試験(ITT)やグルカゴン負荷などの刺激試験でピークGHを評価します。逆に過剰分泌が疑われる場合(例
)は経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)でGHの抑制不全を確認します。刺激・抑制試験のカットオフは測定法や患者背景(年齢、肥満の程度、糖代謝)で変わります。超高感度アッセイではアクロメガリーのOGTT後GHナディアは0.4 ng/mL未満を目標とすることが一般的になりつつあります。一方、成人GH分泌不全のITTでは3〜5 ng/mL以下など、施設ごとに異なる閾値が用いられます。
IGF-1は安定した指標として有用で、年齢・性別別の基準範囲に対する標準偏差スコア(SDS)で判定します。アクロメガリーではIGF-1高値、成人GH分泌不全ではIGF-1低値が多いですが、肝機能障害、栄養状態、甲状腺機能、エストロゲン製剤などの影響も受けるため、総合判断が必要です。
測定上の留意点として、抗体の特異性、成長ホルモン結合蛋白(GHBP)の干渉、バイオチン大量摂取による免疫測定干渉などがあります。検査前にサプリメントの摂取状況を確認し、必要に応じて中止期間を設けることが推奨されます。
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正常範囲・基準と限界
GHには厳密な『空腹時正常範囲』の概念が当てはめにくく、施設と測定法ごとに報告範囲が異なります。多くの成人では無作為採血で1〜3 ng/mL未満の低い値がしばしば観察されますが、睡眠中や運動後には一過性に二桁ng/mLのピークに達することもあります。
アクロメガリーの診断・寛解判定ではOGTT後のGH抑制と、年齢・性別に対して高いIGF-1の両方を考慮します。超高感度アッセイが普及するに従い、治療目標のGH閾値は低めに再定義されてきました。
成人GH分泌不全の診断では、複数の負荷試験の結果とIGF-1、他の下垂体ホルモン、臨床症状を統合して判断します。単一の『万能』な数値は存在せず、肥満や高齢では生理的にGH反応が低下するため、カットオフの解釈を補正する必要があります。
小児では成長速度の評価とともに、GH刺激試験(しばしば2種類以上)の結果を総合して診断します。思春期発来の有無や甲状腺機能、慢性疾患の影響を除外することが前提となります。
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異常値の原因と対処
高値の主因は下垂体のGH産生腺腫によるアクロメガリー/巨人症で、手術、ソマトスタチンアナログ、GH受容体拮抗薬(ペグビソマント)などが治療選択肢です。糖負荷でGHが十分に抑制されず、IGF-1も高い場合に診断が支持されます。
低値や反応不良は先天性/後天性の下垂体・視床下部障害、頭部外傷、腫瘍治療後、重度肥満、慢性全身疾患、栄養不良などでみられます。成人GH分泌不全では体脂肪増加、筋量低下、骨密度低下、疲労感などが問題となり、適切な適応でGH補充療法が検討されます。
検査で異常が疑われたら、内分泌専門医への紹介が推奨されます。画像検査(MRI)で下垂体の評価を行い、他の下垂体ホルモン軸の評価や合併症(代謝異常、心血管リスク、睡眠時無呼吸など)のスクリーニングを併せて実施します。
治療中はIGF-1とGH(必要に応じてOGTT)のモニタリング、症状の変化、副作用、合併症の管理を継続します。治療標的はガイドラインや個別リスクに応じて設定し、測定法の違いを意識して同一アッセイで追跡することが望まれます。
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遺伝的・環境的要因
GHの瞬間的な血清濃度は睡眠、運動、食事、ストレス、低血糖、肥満などの環境要因の影響が非常に大きく、単回採血では環境要因が大半の変動を規定します。このため、『GH単回値の遺伝率』を厳密に%で表すことは難しいのが現状です。
一方で、GH-IGF軸そのものには遺伝的背景が存在し、IGF-1やIGFBP-3の循環濃度は家族・双生児研究やゲノム解析で中等度の遺伝的寄与が示されています。多数のゲノム座位がIGF-1濃度に関連し、個体差の一部を説明します。
これらの知見を踏まえると、長期的なGH-IGF軸のセットポイントには遺伝的要因が一定割合(概ね数十%)寄与し、生活習慣や体組成、加齢、内科的併存疾患など環境的・後天的因子が残りを占めると解釈するのが妥当です。
臨床的には、遺伝的素因の有無にかかわらず、睡眠の質改善、適度な運動、体重管理、栄養の最適化がGH分泌を良好に保つ実践的な手段になります。検査の前提条件の標準化も、環境要因による測定ばらつきを減らす上で重要です。
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