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慢性B型肝炎

目次

疾患の概要

慢性B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)への感染が6か月以上持続し、肝臓で慢性的な炎症や線維化を来す状態を指します。多くの人は無症状で経過しますが、長期的には肝硬変や肝細胞癌のリスクが高まる重要な感染症です。世界では数億人が持続感染状態にあると推定され、公衆衛生上の課題です。

HBVは主に血液・体液を介して伝播します。母子感染、性的接触、注射器の共用、医療行為における不適切な衛生が代表的な経路です。特に出生時や乳幼児期に感染すると持続感染に移行しやすい特徴があり、成人期の新規感染と比べて慢性化率が格段に高くなります。

慢性B型肝炎の自然史は一様ではなく、ウイルス量や宿主免疫反応に応じて活動性が変動します。ウイルスが静かに潜む時期と、炎症が活発化する時期を繰り返す場合もあり、定期的な検査とリスク評価が重要です。

近年は高い抗ウイルス効果を持つ酸アナログ製剤が普及し、肝硬変や肝癌への進展を大きく抑制できるようになりました。一方で、ウイルスの完全根絶は難しく、長期にわたり治療とモニタリングを継続する戦略が基本です。

参考文献

病態生理と経過フェーズ

HBVは肝細胞内でcccDNAという安定な鋳型を形成し、これがウイルス持続の基盤となります。肝障害の主因はウイルス自体の細胞毒性ではなく、ウイルスに反応する宿主免疫によるものです。このため、免疫状態の変化が病勢に強く影響します。

慢性B型肝炎は、HBe抗原の有無やHBV DNA量、ALT値の推移から、免疫寛容期、免疫活性化期、不活動性キャリア、HBe陰性の再活性化期などのフェーズに大別されます。各期で治療適応やフォローの強度が異なります。

HBVは宿主ゲノムへのDNA組込みや、ウイルスタンパク発現によって発癌経路を促進し得ます。肝硬変を経ずに肝癌を発症することもあるため、ウイルス抑制とともに画像検査による発癌サーベイランスが重要です。

免疫抑制療法や化学療法中にはHBV再活性化のリスクが上がります。既往感染者でも再活性化が起こり得るため、治療前スクリーニングと予防投与の実施が国際ガイドラインで推奨されています。

参考文献

診断と検査

診断の基本はHBs抗原の持続陽性(6か月以上)です。活動性の評価にはHBe抗原/抗体、HBV DNA量、肝逸脱酵素(ALT/AST)を組み合わせます。肝線維化の評価にはFIB-4、血清マーカー、超音波エラストグラフィなどの非侵襲的手段が普及しています。

肝癌サーベイランスはリスクのある慢性HBV患者に対して6か月毎の腹部超音波(必要に応じて腫瘍マーカー)を行うのが標準です。サーベイランスは早期発見・治療成績の向上に直結します。

免疫抑制・抗癌治療予定者では、HBs抗原やHBc抗体などのスクリーニングを事前に行い、再活性化予防の核酸アナログ投与を検討します。これは重篤な肝不全を回避するための重要な安全対策です。

日本では母子感染予防のためのスクリーニングと出生直後の免疫グロブリン・ワクチン投与が確立しています。2016年以降は乳児への定期接種が導入され、集団レベルでの新規感染予防に寄与しています。

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治療と薬物療法

治療の第一選択は高いバリアと強力な抗ウイルス効果を持つ核酸アナログ(エンテカビル、テノホビルDF/AF)です。HBV DNAの持続抑制は線維化進行と肝癌リスクを低減します。治療の目標は臨床的寛解と合併症予防です。

ペグインターフェロンは限られた症例で機能的治癒(HBs抗原消失)の可能性がありますが、副作用や適応の点で選択は慎重です。核酸アナログは一般に長期投与が必要で、腎機能や骨代謝への配慮を行いながら薬剤選択をします。

治療適応はALT上昇、HBV DNA高値、肝線維化の程度、年齢や合併症などを総合的に判断します。肝硬変患者ではHBV DNA検出時は原則として治療対象です。治療中は定期的にウイルス量と肝機能をモニタリングします。

HBs抗原陰性化の率は低く、完全根絶は困難です。cccDNAや統合HBV DNAが持続するため、治療終了の可否は慎重に検討します。新規作用機序薬(siRNA、カプシド阻害薬、治療ワクチンなど)が開発中です。

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予防と公衆衛生

最も効果的な予防はワクチン接種です。0-1-6か月のスケジュールで高い防御効果が得られ、母子感染予防では出生直後のHBIG併用が標準です。日本では2016年から乳児の定期接種が開始されました。

医療・介護現場では標準予防策の徹底が重要です。針刺しや体液曝露時のポストエクスポージャー対策として、曝露後速やかなHBVワクチンとHBIGの適切な適用が推奨されます。

性的感染予防にはコンドームの適切な使用、注射薬物使用者では針・シリンジの共有を避けるハームリダクションが有効です。家庭内では血液が付着する可能性のある日用品の共有を避けます。

公衆衛生レベルでは、周産期対策、普及啓発、検査アクセスの改善、抗ウイルス治療へのアクセス拡大が、肝癌・肝硬変による死亡の削減に直結します。世界的なWHOの戦略に沿った取り組みが進んでいます。

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