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急性リンパ芽球性白血病

目次

用語の定義と概要

急性リンパ芽球性白血病(ALL)は、未熟なリンパ系の細胞(リンパ芽球)が骨髄で異常に増える血液がんです。B細胞系とT細胞系に大別され、増殖した芽球が正常造血を圧迫することで貧血や感染、出血傾向などを引き起こします。病気の進行は急速で、早期の診断と治療開始が重要です。

ALLは小児がんで最も多い一方、成人にも発症します。小児では治癒率が大幅に向上し現在では80〜90%が長期生存可能ですが、成人では分子異常や併存症の影響もあり治療成績は小児ほど高くありません。リスク層別化と治療法の進歩が鍵となっています。

診断には血液検査と骨髄検査が必須で、形態学、フローサイトメトリー、染色体・遺伝子解析により病型やリスクを決定します。中枢神経系浸潤の評価も行い、必要に応じて腰椎穿刺で髄液検査を実施します。こうした情報が治療の個別化を支えています。

治療は段階的(寛解導入、地固め、維持)に行われ、症例により分子標的薬や免疫療法、造血幹細胞移植が追加されます。中枢神経系への再発予防として髄腔内投与や全身高用量メトトレキサートが用いられます。治療中は支持療法と副作用管理が極めて重要です。

参考文献

症状と診断

主な症状は、貧血による倦怠感や息切れ、血小板減少による皮下出血・鼻出血、好中球減少に伴う発熱や感染反復です。骨痛や関節痛、肝脾腫やリンパ節腫大も見られます。乳児やT細胞性では縦隔腫瘤による呼吸苦を呈することがあります。

血液検査では白血球数の増減いずれもあり得ますが、末梢血や骨髄に芽球が出現します。貧血と血小板減少がしばしば同時にみられます。骨髄穿刺で芽球割合が一定以上あることで診断基準を満たします。

フローサイトメトリーで細胞表面抗原を解析し、B系かT系か、成熟度などを同定します。染色体型解析と遺伝子検査でETV6::RUNX1、BCR::ABL1、KMT2A再構成、高二倍体などの分子異常を同定し、予後と治療選択に反映します。

中枢神経系浸潤の評価として腰椎穿刺で髄液検査を行い、必要に応じて画像検査も行います。これらの診断情報に基づき、リスク層別化と治療計画の作成が行われ、微小残存病変(MRD)の測定が治療反応性の重要な指標となります。

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発生機序と分子異常

ALLは多段階の発がん過程をたどると考えられ、胎児期あるいは早期小児期に初期事象(一次変異)が起こり、その後の二次的変化により白血病が顕在化するモデルが支持されています。特に小児B前駆細胞性ALLではこの仮説がよく研究されています。

代表的な分子異常には、ETV6::RUNX1融合、KMT2A(旧MLL)再構成、高二倍体(高ハイパーディプロイディ)、TCF3::PBX1、BCR::ABL1陽性などがあり、これらは予後や治療選択に直結します。IKZF1欠失などは不良予後因子として知られます。

T細胞性ALLではNOTCH1変異やCDKN2A/B欠失などが頻出し、分子標的の研究が進んでいます。こうした異常はシグナル伝達、転写制御、細胞周期制御などの破綻を通じて芽球の増殖・生存優位性をもたらします。

微小残存病変(MRD)は発生機序そのものではありませんが、腫瘍細胞の生物学的ふるまいと治療感受性を反映するため、分子異常と併せたリスク層別化の中核となります。これにより化学療法の強度や移植適応が最適化されます。

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リスク因子(遺伝・環境)

遺伝的素因としてはダウン症候群におけるALLリスク上昇が知られ、またETV6、PAX5、IKZF1などの生殖細胞系列変異が家族性・素因性ALLに関与します。ただし大多数の患者は遺伝性ではなく、家族全体の遺伝率は高くありません。

環境因子では高線量の電離放射線曝露が白血病リスクを高めることが確立しています。原爆被爆者の長期追跡研究でもリスク上昇が示されています。一方、低線量の医療被曝については利益とリスクの慎重なバランスが重要です。

農薬や有機溶剤、受動喫煙などへの曝露は一部の疫学研究で関連が示唆されますが、因果関係の確立には至っていません。妊娠中や幼少期の環境要因に関しては質の高い研究の蓄積が必要です。

感染と免疫成熟のタイミングに関する「遅延感染仮説」は小児B前駆細胞性ALLの一部で説明力があるとされますが、予防介入に直結するエビデンスは限定的です。生活上の一般的な感染予防やワクチンは推奨されます。

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治療と予後

標準治療は多剤併用化学療法で、寛解導入、地固め、維持療法の三相構成が一般的です。髄腔内化学療法や全身高用量メトトレキサートで中枢神経系再発を予防します。副作用管理として感染予防、支持療法が重要です。

フィラデルフィア染色体陽性(BCR::ABL1陽性)ALLでは、チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ、ダサチニブ、ポナチニブ等)を化学療法に併用します。再発・難治例ではブリナツモマブ、イノツズマブ、CAR-T(ティサゲンレクルユーセル)などの免疫療法が選択肢です。

高リスク群や再発例では同種造血幹細胞移植が検討されます。治療強度はMRDや分子異常に応じて個別化され、過不足のない強度設定が長期毒性の軽減と治癒率の向上の両立に寄与します。

小児では長期無病生存が80〜90%に達する一方、成人では40〜60%程度とされます。高齢者や併存症を持つ患者では低強度レジメンや抗体療法中心の戦略が用いられ、治療目標も個別に設定されます。

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