心臓発作
目次
定義と概要
心臓発作は一般に心筋梗塞を指し、心筋へ血液を送る冠動脈が急に詰まり、心筋が酸素不足で壊死に陥る状態です。突然の胸の圧迫感や痛みで発症し、迅速な治療が生存率と後遺症に大きく影響します。救急要請が最重要です。
冠動脈の閉塞は多くが動脈硬化プラークの破裂やびらんに続く血栓形成によります。血流が遮断されると分単位で心筋が障害され、時間の経過とともに不可逆的な壊死が拡大します。
医学的には心筋壊死の生化学的指標(心筋トロポニン)と症状、心電図変化、画像所見の組合せで診断されます。ST上昇型(STEMI)と非ST上昇型(NSTEMI)に大別され、緊急度や初期対応が異なります。
心臓発作は世界的に循環器疾患の主要な死因の一部を占め、日本でも高齢化に伴い罹患は少しずつ増加傾向です。発症予防には喫煙対策、血圧・脂質管理、糖尿病管理、運動と食事改善が重要です。
参考文献
- WHO Cardiovascular diseases (CVDs)
- Fourth Universal Definition of Myocardial Infarction (2018)
- 日本循環器学会 一般向け心筋梗塞情報
症状と緊急対応
典型的な症状は胸の中央の強い圧迫感や絞扼感で、数分以上持続し安静や内服で改善しません。痛みは肩、腕、背中、顎、みぞおちへ放散することがあり、冷汗、吐き気、息切れを伴うことがあります。
女性、高齢者、糖尿病の方では胸痛がはっきりしない「非典型例」もあり、倦怠感や息苦しさ、消化不良様の不快感のみの場合もあります。疑ったらためらわず救急要請することが重要です。
発症直後は自力で病院へ行かず、救急車を利用することが推奨されます。救急隊は心電図でST上昇を評価し、適切な受入施設へ迅速搬送し、治療開始までの時間を短縮できます。
胸痛発作時の自宅での対応としては、安静、救急要請、既処方のニトログリセリンの使用(処方がある場合)、アスピリンの咀嚼内服が医師指示下で推奨されますが、まずは救急要請が最優先です。
参考文献
発生機序
最も一般的な機序は、動脈硬化プラークの破裂やびらん部位に血小板が集まり、凝固反応が進んで血栓が形成され、冠動脈内腔が急速に閉塞することです。これがSTEMIの典型像です。
NSTEMIでは完全閉塞でない場合や側副血行が保たれる場合が多く、壊死範囲は相対的に小さくても、早期治療が予後改善に不可欠です。供給需要不均衡によるタイプ2心筋梗塞もあります。
内皮機能障害、炎症、脂質蓄積、平滑筋細胞の変化などがプラークの不安定化に関与します。高LDL、喫煙、高血圧、糖尿病はこれらの病態を促進します。
冠攣縮や動脈解離、塞栓症、微小血管障害など、非動脈硬化性の原因でも心筋壊死は起こり得ます。若年者や女性、結合組織疾患ではこうした機序に注意が必要です。
参考文献
遺伝的要因
冠動脈疾患の家族歴は強力なリスク因子で、双生児研究から遺伝率は概ね40〜60%と推定されています。ただし個々の発症は多数の遺伝子と環境の相互作用で決まります。
代表的な関連遺伝子領域には9p21(CDKN2B-AS1)、LDLR、PCSK9、APOB、LPA、SORT1などがあり、脂質代謝や血管壁機能に影響してリスクを変動させます。
一つ一つの遺伝子の影響は小さいことが多く、多数の変異を合算したポリジェニックリスクスコアがリスク層別化に役立つ可能性があります。
遺伝的高コレステロール血症(LDLRやAPOB、PCSK9の変異)は若年発症のリスクを大幅に高め、家族スクリーニングと早期治療が重要です。
参考文献
- Kathiresan & Srivastava. Genetics of coronary artery disease
- Marenberg et al. N Engl J Med 1994
- Khera et al. Polygenic risk, NEJM 2018
環境・生活習慣要因
喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常、肥満、運動不足、不健康な食事、過度の飲酒、ストレス、睡眠不足、空気汚染などが主要な修飾可能因子です。
INTERHEART研究では、9つの修飾可能因子で心筋梗塞の人口寄与危険割合の大半が説明され、各地域・人種でも一貫した傾向が示されました。
禁煙、塩分と飽和脂肪の抑制、果物・野菜・魚の摂取、定期的な有酸素運動、体重管理は一次予防の柱です。血圧・血糖・LDLの治療も重要です。
大気汚染や受動喫煙の曝露低減など、個人だけでなく社会環境の整備も心臓発作の負担軽減に寄与します。政策と個人の両輪が必要です。
参考文献
診断・治療と予防
診断は症状、心電図、心筋トロポニンで行い、STEMIでは一次PCIをできるだけ速やかに、難しければ線溶療法を検討します。NSTE-ACSでも早期侵襲戦略が推奨されます。
急性期薬物はアスピリンとP2Y12阻害薬の二重抗血小板療法、抗凝固薬、スタチン、β遮断薬、ACE阻害薬/ARBなどが標準です。酸素は低酸素血症時に適応です。
退院後は生活習慣改善、心臓リハビリテーション、薬物継続、禁煙支援が再発予防に有用です。リスクに応じてPCSK9阻害薬やSGLT2阻害薬等も検討されます。
予防は生涯にわたるリスク管理が鍵で、定期健診で血圧・脂質・血糖を把握し、必要に応じて薬物療法と生活習慣介入を組み合わせます。
参考文献

