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心臓周囲の脂肪量

目次

概要と用語(心外膜脂肪と心膜外脂肪)

心臓周囲脂肪とは、心臓のまわりに存在する脂肪の総称で、主に二つに分けられます。心筋と心外膜の間に連続して存在する「心外膜脂肪(Epicardial adipose tissue: EAT)」と、心膜の外側、縦隔側にある「心膜外(傍心)脂肪(Paracardial/Pericardial fat)」です。これらは解剖学的位置や血流供給が異なり、臨床的な意味づけも異なります。

EATは冠動脈と解剖学的に密着し、同じ微小循環から血流供給を受けるため、心筋や冠動脈の組織と物質交換が起こりやすいのが特徴です。一方、心膜外脂肪は胸壁側の脂肪と連続し、全身の内臓脂肪量を反映しやすいとされます。両者を区別せず「心臓周囲脂肪」と総称する報告もありますが、研究や診療では区別が重要です。

画像診断では、超音波でEATの厚みを測定する方法、CTやMRIで容積として定量する方法がよく用いられます。超音波は手軽ですが観察窓に依存し、CT/MRIは再現性が高い一方でコストや被ばく(CT)が課題です。

心臓周囲脂肪は単なるエネルギー貯蔵庫ではなく、サイトカインやアディポカインを分泌する内分泌臓器として振る舞います。そのため、心血管疾患との関連、代謝異常との連関が注目され、予防・治療の新たな標的として研究が進んでいます。

参考文献

臨床的意義(冠動脈疾患・心房細動など)

EATや心膜外脂肪が多い人は、冠動脈石灰化やプラーク負荷が高く、冠動脈疾患リスクが上昇することが大規模コホートで示されています。単なる体重やBMIよりも、局所の脂肪量が冠動脈の炎症・動脈硬化と強く関連する点が重要です。

心房細動との関連も確立しつつあり、左房周囲の局在的なEATが電気的・構造的リモデリングを促す可能性が示唆されています。EATはマクロファージ浸潤や炎症性サイトカインを介して心筋線維化を促し、不整脈の基盤を形成しうると考えられます。

心不全、とくにHFpEF(駆出率保持心不全)においては、EATのメカニカルな拘束や炎症波及が充満障害に関与するという仮説も提示されています。体脂肪の分布、インスリン抵抗性、全身炎症と関係し、複合的に病態へ影響します。

一方で、EATは生理的には脂肪酸の供給源や冠動脈の物理的保護、寒冷時の保温といった役割も持つとされ、量と質(炎症性変化)のバランスが臨床アウトカムを左右すると考えられます。

参考文献

評価と測定(超音波・CT・MRI)

超音波心エコーでは、右室前壁の心外膜と心筋の間の無エコー帯をEATとして計測します。安価で反復可能という利点がある一方、観察者間差や測定部位の標準化が課題です。

CTでは、心臓周囲の脂肪組織を−190〜−30HUなどのしきい値でセグメンテーションし、容積として客観的に定量できます。冠動脈石灰化スコアと同時評価が可能で、研究でもっとも用いられています。

MRIは被ばくがなく、脂肪と水の分離(Dixon法など)で脂肪量と炎症の指標を得ることが可能ですが、時間とコストがかかります。臨床での普及は施設により差があります。

現時点でEAT量の「正常値」や一律のカットオフは確立しておらず、リスク層別化の文脈で年齢・性別・体格・併存症を加味して解釈する必要があります。

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発生機序(パラクライン・炎症・代謝)

EATは心筋や冠動脈と連続しており、解剖学的バリアがないため、分泌するサイトカインや脂肪酸がパラクラインにより局所へ直接作用します。これが動脈硬化や心筋線維化に寄与しうる機序として注目されます。

炎症性アディポカイン(TNF-α、IL-6、MCP-1)や、線維化関連分子(TGF-β)などがEATで増加し、マクロファージやT細胞の浸潤が報告されています。こうした炎症環境は内皮機能障害やプラーク不安定化を助長します。

EATはベージュ/褐色脂肪様の性質も持ち、脂肪酸の迅速な供給源となりますが、肥満やインスリン抵抗性では白色脂肪化し、脂質毒性や酸化ストレスが増します。これが電気的リモデリングや拡張障害を悪化させる可能性があります。

交感神経刺激、睡眠時無呼吸、アルドステロンやコルチゾールなどのホルモン環境もEATの量と質を変化させます。全身代謝と局所炎症のクロストークが病態の心です。

参考文献

予防・治療の考え方

生活習慣介入(体重管理、地中海食、運動)はEATの減少に最も確実に結びつきます。数キログラムの減量でもEAT容積や厚みが有意に低下することが報告されています。

薬物療法では、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬がEATを減らすエビデンスが蓄積しています。インスリン抵抗性や炎症を改善することが、局所脂肪にも波及するためと考えられます。

外科的体重減量(スリーブ状胃切除など)により、短期間でEATが大幅に減少し、冠動脈プラークの安定化や心機能の改善が示唆されています。適応は厳密に評価されます。

喫煙対策、睡眠時無呼吸の治療、血圧・脂質・血糖の包括的管理は、EATそのものと下流の心血管リスクの双方を低減する重要な支柱です。

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