平均赤血球容積
目次
定義と概要
平均赤血球容積(mean corpuscular volume, MCV)は、赤血球1個あたりの平均的な体積を表す赤血球指数のひとつで、通常はフェムトリットル(fL)で報告されます。成人では概ね80~100 fLが目安とされ、検査室や測定機器によって基準範囲はやや異なります。
MCVは、赤血球の大きさの偏り(小球性・正球性・大球性)を把握するうえで基本となる指標であり、貧血の原因推定に広く使われます。小球性はしばしば鉄欠乏やサラセミア、大球性はビタミンB12・葉酸欠乏、アルコール、多くの薬剤、甲状腺機能低下症、骨髄異形成症候群などを示唆します。
測定は自動血球計数装置で行われ、インピーダンス法(コールター原理)や光学散乱法などにより各赤血球の体積を測定し、その平均値としてMCVが算出されます。代替として、ヘマトクリットと赤血球数からMCV=(ヘマトクリット×10)/赤血球数(×10^6/μL)で計算されることもあります。
MCV単独では診断は確定できないため、ヘモグロビン、赤血球分布幅(RDW)、網赤血球数、末梢血塗抹標本、鉄代謝(フェリチンなど)、ビタミンB12・葉酸、甲状腺機能、肝機能などと組み合わせて解釈するのが臨床の実際です。
参考文献
生理学的意義
赤血球は肺で酸素を受け取り、末梢組織へ運搬する役割を担います。赤血球の大きさ(体積)は、膜の変形能、血液粘度、毛細血管内での流れやすさに影響し、酸素運搬効率に間接的に関わります。過度な小球化や大球化は、赤血球の寿命や脾臓での除去にも影響しうるため、生理的に調和の取れたサイズが望まれます。
大きすぎる赤血球(大球性)は、表面積/体積比の低下や膜骨格の負荷増大を通じて変形能が低下し、微小循環での通過性が悪化することがあります。一方、極端な小球性はヘモグロビン充填量の低下や酸素運搬能力の制限につながる可能性があります。
網赤血球は成熟赤血球よりもやや大きいため、造血が亢進して網赤血球が増える状況では、MCVが相対的に上昇して見えることがあります。したがって、MCVの変動が骨髄での造血状態や溶血の有無を示唆することもあります。
このようにMCVは単なる数値ではなく、赤血球の機械的・機能的な特性や、体内での産生・破壊のバランスを反映する間接指標として、生理学的な意味を持ちます。
参考文献
測定法と理論
MCVの測定は主として自動血球計数装置で行われます。電気抵抗(コールター原理)では、細胞が微小孔を通過する際の抵抗変化が粒子体積に比例することを利用して赤血球の体積を測定します。光学方式では、レーザー散乱の特性から体積や内部構造の推定が可能です。
計算式による導出も一般的で、MCV(fL)=(ヘマトクリット(%)×10)/赤血球数(×10^6/μL)で算出できます。自動分析装置では個々の赤血球サイズの分布(ヒストグラム)も同時に得られ、RDWなどの派生指標が計算されます。
検体の取り扱いは重要で、測定の遅延や温度条件によって赤血球が膨潤し、MCVが見かけ上上昇することがあります。冷式凝集素などの干渉で赤血球数が低く算出され、結果としてMCVが偽高値となるアーチファクトも知られています。
したがって、品質管理(QC)と検体前処理の標準化、機器の定期校正は、MCVの再現性・信頼性を担保するうえで不可欠です。臨床判断では機器フラッグや塗抹標本の確認を併用するのが望まれます。
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遺伝と環境の寄与
MCVの個人差には遺伝と環境の双方が寄与します。大規模ゲノム解析では、MCVに関連する多くの遺伝子座が同定され、SNPベースの遺伝率(集団における遺伝的寄与の割合)は概ね20~30%程度と推定されています。
一方で、食事(鉄、ビタミンB12、葉酸)、アルコール摂取、喫煙、慢性疾患(腎疾患、肝疾患、甲状腺機能低下症)、薬剤(ヒドロキシウレア、メトトレキサートなど)といった環境・後天的要因がMCVに強く影響します。
このため、MCVの「遺伝と環境の比率」は集団や測定法によって異なりますが、SNPベースの推定では遺伝要因が約1/4前後、残余は環境要因や未同定の遺伝要因、測定誤差が占める、と理解するのが妥当です。
遺伝的な体質差(例:サラセミア保因者など)では小球性が慢性的にみられる一方、同一人物でも栄養状態や飲酒量の変動、疾患の発症・治療によってMCVは可変であり、縦断的モニタリングが有用です。
参考文献
- Astle WJ et al. The Allelic Landscape of Human Blood Cell Trait Variation. Cell (2016)
- Vuckovic D et al. The Polygenic and Monogenic Basis of Blood Traits and Diseases. Cell (2020)
- AAFP: Evaluation of Macrocytosis
臨床での解釈と対応
MCVは貧血鑑別の出発点として用いられます。小球性(<80 fL)では鉄欠乏、サラセミア、慢性疾患に伴う貧血などを考え、フェリチンや鉄代謝検査、血清電気泳動(必要に応じて)を行います。
正球性(80~100 fL)では、出血の急性期、溶血、腎性貧血、内分泌疾患などが候補となり、網赤血球数や腎機能、溶血マーカー(LDH、間接ビリルビン、ハプトグロビン)を追加します。
大球性(>100 fL)ではビタミンB12・葉酸欠乏、アルコール関連、肝疾患、甲状腺機能低下症、薬剤性、骨髄異形成症候群などを鑑別し、B12・葉酸、肝機能、TSH、末梢血塗抹、場合により骨髄検査を検討します。
治療は原因対処が原則です。鉄欠乏なら鉄補充、B12・葉酸欠乏なら補充療法、薬剤性なら中止・変更を検討します。重度の貧血や複数血球系の異常がある場合は、速やかに専門医へ相談します。
参考文献

