帯状疱疹
目次
定義と概要
帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus, VZV)が原因で起こる神経・皮膚の感染症です。幼少期に水痘(水ぼうそう)として初感染した後、ウイルスは脊髄後根神経節などに潜伏し、免疫の低下を契機に再活性化して発症します。体の片側に帯状に分布する小水疱と強い痛みが特徴で、合併症として帯状疱疹後神経痛が問題になります。
世界人口の約3人に1人が生涯に一度は帯状疱疹を経験するとされ、加齢とともに発症が増えます。特に70歳以上や、がん治療、臓器移植後、自己免疫疾患で免疫抑制薬を使用している場合などにリスクが高くなります。疾患負担は痛みによる生活の質の低下や就労障害、医療費の増加など多方面に及びます。
帯状疱疹そのものは人から人へ直接伝播する病気ではありませんが、水痘の既往がない人やワクチン未接種の人が帯状疱疹病変に接触すると水痘として感染する可能性があります。そのため、発疹が痂皮化するまでは病変を覆い、衛生管理を徹底することが求められます。
近年は予防ワクチンの普及により発症や重症化を減らすことが可能になってきました。特に組換えサブユニットワクチン(RZV)は高い有効性が報告され、高齢者や免疫抑制状態の方での使用が拡大しています。
参考文献
症状と経過
初期症状として、皮疹に先行して数日から1週間ほど、体の片側の一定の帯状領域(デルマトーム)に限局した痛み、灼熱感、かゆみ、しびれなどの前駆症状が現れることが多いです。その後、紅斑上に小水疱が集簇して出現し、数日で膿疱化、痂皮化へと進行します。
痛みは鋭い刺痛から電撃痛、締め付けられるような疼痛まで多様で、夜間に増悪することもあります。発疹は通常2~4週間で治癒しますが、痛みは皮疹が治っても持続することがあり、3か月以上続く場合は帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼ばれます。高齢者ほどPHNのリスクが高く、生活の質に大きく影響します。
発症部位は胸部や腹部が多いものの、顔面(三叉神経領域)や眼周囲(眼帯状疱疹)に及ぶと角膜炎や視力障害、顔面神経麻痺などの合併症が生じうるため、耳鼻科・眼科的評価を要することがあります。免疫低下例では皮疹が広範囲に及ぶ播種性帯状疱疹や内臓合併症の危険が増します。
発熱や倦怠感などの全身症状は軽度にとどまることが多いですが、高齢者や基礎疾患のある方では重症化する可能性があります。早期の抗ウイルス薬投与は皮疹の治癒促進や疼痛軽減、PHNの予防に一定の効果が期待されます。
参考文献
- CDC: Clinical Overview of Shingles
- DermNet: Herpes zoster (clinical features)
- NEJM Review: Herpes Zoster (Cohen, 2013)
発生機序と免疫
帯状疱疹の本態は、初感染後に感覚神経節に潜伏していたVZVが再活性化し、神経線維を経由して皮膚に到達・増殖する過程です。潜伏期間中、ウイルスは免疫監視機構、とくに細胞性免疫によって抑え込まれています。免疫能が低下すると、ウイルスが増殖し、神経炎症と皮膚の病変を引き起こします。
加齢に伴う細胞性免疫(T細胞応答)の低下が最大のリスク因子であり、免疫抑制薬、悪性腫瘍、HIV感染、ストレスや重症疾患なども再活性化の誘因になります。皮疹に先行する疼痛は、神経節や神経線維の炎症・損傷に起因し、神経障害性疼痛の特徴を示します。
ウイルスは神経節で再複製されると、特定のデルマトームに対応する皮膚へ順行性に移動し、上皮でのウイルス複製が小水疱として臨床的に現れます。この際、局所および全身の炎症性サイトカインの産生が痛みの増悪や全身症状に関与すると考えられています。
免疫記憶を再賦活化するワクチンは、この細胞性免疫の維持・増強を通じて再活性化を抑えるメカニズムを持ちます。とくにアジュバントを用いた組換えサブユニットワクチンは強固な細胞性免疫応答を誘導する点が臨床成績の高さにつながっています。
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診断と検査
帯状疱疹の診断は典型例では臨床所見(片側性のデルマトームに沿った群発小水疱と疼痛)で可能です。ただし、皮疹に先行する疼痛のみの段階や、非典型的な皮疹を示す場合には鑑別が必要になります。単純ヘルペス、接触皮膚炎、湿疹ヘルペチカムなどとの区別が重要です。
確定診断には病変部からの検体(小水疱内容液、擦過検体)でVZV DNAを検出するPCR検査が最も感度・特異度に優れています。Tzanck試験やウイルス分離は現在では感度や利便性の面で劣るため、主にPCRが推奨されます。
眼領域や耳領域の罹患が疑われる場合は、眼科・耳鼻科での専門的評価が必要です。免疫抑制状態や播種性が疑われる場合には、血液検査や入院下での全身管理が検討されます。
治療効果を最大化するためには、皮疹出現から72時間以内に受診し、抗ウイルス薬を開始することが推奨されます。早期受診を促すため、前駆痛の段階で帯状疱疹を疑う啓発が重要です。
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予防と治療
抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル)は発疹出現後できるだけ早期に開始することで、皮疹の治癒促進と疼痛軽減に寄与します。重症例や免疫不全例では静注アシクロビルが選択されることがあります。疼痛管理にはNSAIDsやアセトアミノフェンに加え、神経障害性疼痛に対してガバペンチンやプレガバリン、三環系抗うつ薬などが用いられます。
副腎皮質ステロイドの全身投与は、一部で急性期痛や炎症の軽減に寄与する可能性があるものの、免疫抑制や副作用の観点から慎重な適応判断が必要です。眼や耳の合併症、播種性が疑われる場合は専門科連携のもと迅速な対応が求められます。
予防においてはワクチンが最も有効です。組換えサブユニットワクチン(RZV、通称Shingrix)は50歳以上で90%以上の有効性が示され、高齢者や免疫低下者でも持続的な予防効果が報告されています。生ワクチン(ZVL)は有効性がRZVより低く、免疫不全者には禁忌です。
日本を含む多くの国でRZVの導入が進んでおり、地域によっては助成制度も整備されています。接種可否、スケジュール、副反応の説明を受けたうえで、主治医と相談して適切な時期に接種を検討することが推奨されます。
参考文献

