Forest background
バイオインフォの森へようこそ

左室駆出率

目次

左室駆出率の基本

左室駆出率(LVEF)は、心臓の左心室が拡張末期に抱えた血液量のうち、収縮によって一回拍出で押し出される割合を百分率で表した指標です。式は(EDV−ESV)/EDV×100で、拍出量と関係しますが、心拍出量そのものではありません。

LVEFは左心室の収縮機能の代表的な尺度で、心不全の病型分類や治療方針の決定、予後予測など臨床で非常に広く用いられます。ただし、負荷条件や弁逆流の影響を受けるため単独では万能ではありません。

計測には心エコーの二平面Simpson法が標準的で、心臓MRIは容積測定の精度が高く、モダリティ間での差異にも注意が必要です。医学MUGAやCTも一部で用いられます。

一般向けには正常域の目安として50〜70%が用いられ、40%以下で低下とされますが、ガイドラインや測定法、性別・体格により範囲がわずかに異なることがあります。

参考文献

測定法と理論

二平面Simpson法は左室内腔を多数の薄い円盤に分割する幾何学的近似で、拡張末期容積と収縮末期容積を二方向断面から推定します。この差分が一回拍出量で、EFはその割合です。

心臓MRIでは心周期全体のシネ画像から各フレームの容積をトレースしてEDVとESVを直接算出するため、再現性が高くゴールドスタンダードとされています。

MUGAスキャンは放射性標識赤血球を用いて心腔のカウント変化からEFを計算します。被ばくや施設要件があり、近年はエコー・MRIが主流です。

いずれの方法も前負荷・後負荷や心拍数の影響を受け、同一条件・同一手法でのフォローが望ましい点が共通です。

参考文献

解釈と臨床での使い方

EFは低いほど収縮機能低下を示唆し、心不全の重症度や予後と関連します。心筋梗塞後のリスク評価や植込み型除細動器(ICD)適応の判断にも用いられます。

一方で、EFが正常でもうっ血性心不全の症状が出るHFpEFという病型があり、拡張機能や左房圧、全身性要因も評価する必要があります。

EFの高値は必ずしも『より良い』ことを意味せず、脱水や甲状腺機能亢進、肥大型心筋症などの高拍出・高収縮状態でもみられます。

異常値が得られた場合は、基礎疾患(虚血、弁膜症、高血圧、心筋症等)を精査し、ガイドラインに沿った薬物・デバイス治療や生活習慣介入を組み合わせます。

参考文献

遺伝と環境の寄与

EFの個人差には遺伝と環境の双方が関与します。双生児研究や大規模GWASでは、EFやその構成要素(左室容積・拍出量)の遺伝率は概ね中等度と報告されています。

SNPレベルの遺伝率は研究・表現型定義・年齢で変動しますが、おおよそ遺伝要因が2〜4割、環境要因が6〜8割を占めるというレンジが妥当と考えられます。

生活習慣(運動、食事、血圧・血糖管理)、薬物、心血管イベント歴などの後天的因子がEFに強く影響する点が重要です。

したがって、家族歴があっても予防可能な環境因子の最適化がEF保全と予後改善に直結します。

参考文献

限界と補足知識

重度の僧帽弁閉鎖不全では、逆流分が拍出量に含まれるためEFが保たれて見える『見かけ上の正常』が起こりえます。弁膜症の評価では別指標が必要です。

測定者間・装置間ばらつきがあり、フォローアップでは同じモダリティ・同じ方法を用いることが推奨されます。

急性期は血圧・容量負荷・頻脈でEFが大きく動くため、安定期に再評価することがあります。

EFは重要ですが、症状、運動耐容能、ナトリウム利尿ペプチド、画像の他所見と総合的に判断することが最善です。

参考文献