左室重量指数(LVMI)
目次
定義と臨床的意義
左室重量指数(LVMI)は、心臓の主ポンプ室である左心室の筋肉量(左室重量:LVM)を体格に応じて補正した指標で、一般に体表面積(BSA)あたりのグラム数(g/m^2)や身長の2.7乗で補正した単位(g/m^2.7)で表現されます。加齢や血圧、体格差で生じる見かけの差を補正し、病的な肥大を検出しやすくするために用いられます。
LVMIは左室肥大(LVH)の有無と程度を定量化する代表的な方法で、持続的な圧負荷(高血圧や大動脈弁狭窄)や容量負荷(弁逆流、腎性体液貯留)への適応として生じる心筋肥厚を反映します。単なる形態指標にとどまらず、組織学的な線維化や拡張機能障害の背景にあるリモデリングの重症度を間接的に示す点が重要です。
数多くの疫学研究で、LVMIの増加は心不全、虚血性心疾患、脳卒中、突然死など主要心血管イベントの独立した予測因子であることが示されています。したがって、無症候の段階でLVMIを把握し、肥大の退縮を治療目標に置くことは一次・二次予防の双方で意味を持ちます。
臨床実装の観点では、LVMIは再現性が高く、経時的追跡に適したアウトカム代替指標としても用いられます。降圧薬や生活介入によりLVMIが低下すると、イベントリスクも低下する傾向が報告され、治療の質指標としての価値も評価されています。
参考文献
- ASE/EACVI 2015 Chamber Quantification Guidelines
- 2018 ESC/ESH Guidelines for the management of arterial hypertension
- Prognostic implications of echocardiographic LV mass (Framingham)
測定法と理論(Devereux法、MRI)
臨床で最も広く用いられるのは経胸壁心エコー法(TTE)による定量です。二次元法やMモードで拡張末期の心室中隔厚(IVSd)、左室内径(LVIDd)、後壁厚(PWd)を計測し、幾何学モデルに基づくDevereuxの式で左室重量を推定します。その後、BSAや身長2.7乗で指数化します。
Devereuxの式は、左室を回転楕円体に近似し、心筋密度を1.04 g/mLと仮定して心筋量を算出する古典的手法です。式の代表形は、LVM(g)=0.8×{1.04×[(IVSd+LVIDd+PWd)^3−(LVIDd)^3]}+0.6 で、測定誤差を低減する補正式も含みます。
三次元エコーは幾何学仮定を減らし、二次元法よりCMR(心臓MRI)に近い精度が報告されています。特に不整な形状や壁厚不均一の症例で有用です。一方で、画像品質や装置、解析ソフトの差に左右されます。
基準法は心臓MRIで、内外膜のトレースから直接心筋容積を求め、密度を乗じてLVMを計算します。再現性が高く、小さな変化の検出に優れますが、コストや可用性の制約があり、日常診療ではエコーが中核となります。
参考文献
基準値と解釈
BSAで指数化したLVMIの正常上限は、男性115 g/m^2未満、女性95 g/m^2未満が国際的ガイドラインで広く採用されています。これを超えると左室肥大の疑いが強く、重症度分類にも応用されます。
肥満例ではBSAでの指数化が肥大を過小評価する懸念があり、身長2.7乗(g/m^2.7)での指数化が代替として推奨されます。この場合、男性49 g/m^2.7、女性45 g/m^2.7以上を肥大基準とする報告がよく引用されます。
基準値の適用では性差、年齢、測定モダリティの違いに留意が必要です。三次元エコーやCMRでは数値分布がやや異なり、同一モダリティでの経時追跡が望ましいとされます。
アスリートでは生理的肥大によりLVMIが高くても機能正常・線維化少量ということがあり、臨床像や組織マーカー(GLS、T1/T2)と合わせた総合判断が重要です。
参考文献
- ASE/EACVI 2015 Chamber Quantification Guidelines
- De Simone et al. Height^2.7 indexing (Hypertension 1992)
遺伝要因と環境要因
家族・双生児・家系研究から、LVMIの遺伝率(heritability)は概ね30〜60%と推定されています。つまり、個人差の3〜6割は遺伝的要因で説明され、残る多くは環境や生活習慣、疾患による影響です。
具体的な環境要因には、高血圧(収縮期・拡張期の持続上昇)、肥満と内臓脂肪、慢性腎臓病、耐糖能異常、睡眠時無呼吸、持久的運動負荷、アルコール摂取、ナトリウム過剰などが含まれます。これらは可変であり、介入の主要標的です。
遺伝的にはレニン-アンジオテンシン系、心筋成長・細胞外マトリクス代謝、血圧調節に関わる多遺伝子の小効果が集積して表現型に影響すると考えられます。近年のGWASでも関連座位が多数報告されています。
実臨床では、遺伝素因の存在を示唆する家族歴があっても、環境修正と降圧治療によりLVMIは十分に低減し得ることを患者教育の文脈で強調します。
参考文献
- HyperGEN study: genetic/environmental contributions to LV mass
- 2018 ESC/ESH Guidelines (target organ damage)
臨床での活用と介入
LVMIは高血圧診療での標的臓器障害の客観的指標であり、リスク層別化と治療強度決定に用いられます。初診時に基準化したLVMIを記録し、降圧や減量、無呼吸治療などの介入後に再評価します。
追跡では、LVMIの退縮がみられるほど予後改善が期待できます。ACE阻害薬やARB、サイアザイド系利尿薬、Ca拮抗薬などは総じてLVH退縮に有効で、薬剤間差も検討されています。
代表的試験としてLIFE試験では、ARB(ロサルタン)戦略がβ遮断薬戦略に比べてLVH退縮とイベント抑制で有利でした。薬物選択は併存症と忍容性、目標血圧達成可能性を加味して最適化します。
異常高値が出た場合は、測定条件の再確認(二重測定、モダリティの見直し)とともに、二次性高血圧や弁膜症、心筋症の鑑別を行い、原因治療と生活介入を並行して進めます。
参考文献

