左側小脳VIの灰白質の容積
目次
概要と位置づけ
小脳VI(第VI小葉)は小脳上面の中央〜上外側に位置し、前運動・上頭頂・前頭葉ネットワークと強く結びつく領域です。左側小脳VIの灰白質容積は、この領域の神経細胞層と介在細胞、グリアや樹状突起樹冠の総体としての体積を指し、構造MRIで推定されます。
灰白質容積はニューロン数そのものだけでなく、樹状突起の密度、シナプス数、毛様樹冠の広がり、グリアの割合、層の厚みなど多数の微細因子の総和として反映されます。したがって容積の差は多因子的で、単一の細胞学的変化に単純対応しません。
小脳は皮質の折り畳みが顕著で、局所の分割・正規化の誤差が容積推定に影響しやすい解剖学的特徴を持ちます。そのため小脳専用の空間正規化(SUITなど)やロバストな小葉分割アルゴリズムの使用が推奨されます。
左側と右側の小脳VIは平均的にはほぼ対称ですが、利き手や皮質ネットワークの非対称性、発達・経験によって数パーセント程度の左右差がみられることがあります。解釈ではこの点も考慮が必要です。
参考文献
- Diedrichsen Lab: SUIT (Spatially Unbiased Infratentorial Template)
- Diedrichsen et al., A probabilistic MR atlas of the human cerebellum, NeuroImage (2009)
遺伝・環境要因
灰白質容積の個人差には遺伝的要因と環境・経験(非共有環境)要因の双方が寄与します。大規模集団におけるSNP遺伝率解析では、小脳領域の容積に中程度〜高い遺伝率が示されることが一般的です。
UK Biobankを用いた脳画像形質の解析では、小脳容積関連のSNP遺伝率は概ね0.3〜0.6の範囲に収まり、残余分散は測定誤差と環境要因に帰属します。小葉VI固有の推定は研究ごとにばらつきますが、全体傾向は同様です。
双生児研究でも小脳皮質の小葉別体積に対して中等度以上の遺伝率が示されており、共有環境の寄与は小さいか限定的で、非共有環境(個別の経験や加齢、疾患負荷など)の寄与が相対的に大きいことが多いです。
実務上は「遺伝40〜70%、環境30〜60%」程度の幅をもって理解し、対象集団・測定法(スキャナ・前処理)・共変量補正の違いで数値が変動する点に留意します。
参考文献
- Elliott et al., Genome-wide association studies of brain imaging phenotypes in UK Biobank, eLife (2018)
- Satizabal et al., Genetic architecture of subcortical brain structures, Nat Genet (2019)
測定法と理論
左側小脳VIの灰白質容積は、T1強調構造MRIをもとに灰白質と白質の組織学的コントラストを利用して分割し、小葉パーセルに割り当てることで推定されます。
ボクセルベース形態計測(VBM)は、各ボクセルの灰白質確率を正規化空間で比較するフレームワークで、小脳ではSUITによる小脳特化正規化と組み合わせて精度を高めます。
領域分割法としては、SUITアトラス、CERES、ACAPULCOなどの自動小葉分割が広く用いられ、部分体積効果や折り畳み誤差を低減する設計がなされています。
体積比較では頭蓋内容積(ICV)、年齢、性別、スキャナ固有差(フィールド強度、ベンダー)を共変量として補正し、zスコアやパーセンタイルで個人の位置づけを行います。
参考文献
- Ashburner & Friston, Voxel-based morphometry—the methods, NeuroImage (2000)
- Romero et al., CERES: automated cerebellum lobule segmentation, NeuroImage (2017)
解釈と基準
灰白質容積の解釈は「単位mLの絶対値」より「同年代・同条件の参照分布に対する相対位置」が重要です。個人差の広がりや測定系の違いが大きいためです。
一般には参照集団に対する±2SD(z=±1.96)内を正常範囲とみなし、系統的低下がある場合は他の小葉・両側性のパターン、随伴症状、縦断変化と合わせて判定します。
小葉VIは運動計画と高次認知ネットワークに関与するため、選択的萎縮は運動失調のみならず実行機能やワーキングメモリの弱化と関連しうる一方、軽微な左右差は生理的範囲のこともあります。
万人に通用する絶対的「正常値レンジ」は存在せず、同一パイプラインで構築された年齢・性別・ICV補正済みのノルム(ブレインチャート等)によりパーセンタイルで判断するのが実践的です。
参考文献
臨床的意義と異常時対応
明確な異常低下が疑われる場合、まず画像技術的要因(動き、セグメンテーション誤差、スキャナ差)を点検し、必要に応じて再撮像や別法での再解析を検討します。
症候(歩行失調、測定障害、構音障害、認知変化など)とパターンを照合し、広範な小脳皮質の萎縮や歯状核変化、脳幹所見の有無を総合評価します。病的原因として変性性失調、アルコール関連障害、自己免疫性小脳炎、腫瘍性病変、脱髄などが鑑別に上がります。
縦断フォローで進行性かどうかを評価し、臨床検査(ビタミン欠乏、甲状腺、自己抗体、遺伝学的検査)や神経学的評価を組み合わせます。単独の数値で診断を下さないことが肝要です。
研究・臨床とも、解剖学的領域定義と方法論の違いが解釈を左右するため、レポートには解析法、アトラス、補正項目を明記し、他施設比較ではハーモナイゼーション(ComBatなど)を活用します。
参考文献

