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屈折異常

目次

概要

屈折異常は、角膜・水晶体の屈折力と眼軸長の不均衡により網膜上で像がピントを結ばない状態を指し、近視・遠視・乱視、加齢性の老視を含みます。世界で最も頻度の高い視覚障害の原因ですが、多くは眼鏡・コンタクトレンズや屈折矯正手術で安全に矯正可能です。

未矯正の屈折異常は学業・就労・生活の質に大きな影響を与え、経済的損失も膨大です。低中所得国では矯正器具へのアクセス不足が依然として課題で、公衆衛生上の優先課題とされています。

東アジアでは学齢期の近視が急増し、強度近視に伴う網膜剥離や近視性黄斑変性など失明原因となる合併症も問題です。早期発見と適切な矯正に加えて、進行抑制の取り組みが重要になっています。

教育現場での視力スクリーニングや眼科受診の推奨、屋外活動の推進など、多層的な介入が個人・社会双方の負担軽減につながります。

参考文献

発生機序

近視の主因は眼軸長の過長で、眼球後極部の強膜リモデリングが背景にあります。網膜‐脈絡膜‐強膜のシグナル連関がピント誤差に応答して眼の成長(エメトロピゼーション)を制御しますが、過剰に偏ると近視化が進みます。

屋外光で上昇する網膜ドーパミンは近視進行抑制に関与するとされ、環境刺激が生物学的経路を変調することが示唆されています。一方で調節ラグや周辺網膜像のぼけなど光学的要因も関与します。

強度近視では後部ブドウ腫や脈絡膜菲薄化など構造変化を伴い、網膜裂孔やCNVなど重篤な合併症リスクが上昇します。遠視は短い眼軸や低い屈折力、乱視は角膜曲率不正が主因です。

老視は水晶体の調節力低下による近見困難であり、加齢変化に起因する生理的屈折異常の一種とみなせます。

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遺伝的要因

双生児研究では近視の遺伝率は概ね50–80%と推定され、強い遺伝的素因が示されています。ただし多因子性であり、遺伝と環境の相互作用が表現型を規定します。

大規模GWASでGJD2、RASGRF1、PRSS56、PAX6、LAMA2など多数の感受性座位が同定されていますが、個々の効果量は小さく、ポリジェニックスコアの予測力は限定的です。

東アジア・欧州系で共通する座位が多い一方、集団特異的変異も報告されています。まれに家族性強度近視などメンデル型の原因遺伝子変異が関与するケースがあります。

教育年数など環境因子との相互作用(G×E)も示され、近業負荷の高い環境で遺伝的リスクが顕在化しやすいことが示唆されています。

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環境的要因

屋外活動時間の増加は学童の近視発症を有意に減らすことがランダム化試験で示されています。照度と分光組成、遠方注視の増加が機序と考えられます。

近業時間の長さや教育圧、受験文化は近視リスク上昇と関連します。読書・デジタル端末の長時間使用は代理指標とされ、作業距離が短いほどリスクが高い傾向です。

睡眠不足や夜間照明、屋内低照度などの関連が検討されていますが、エビデンスは一貫しません。総量では屋外時間の保護効果が最も確立しています。

学校や地域での屋外活動プログラム、20-20-20ルールの導入、作業距離・姿勢の改善など、行動介入が推奨されます。

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診断と治療

診断は他覚的・自覚的屈折検査で行い、小児では調節麻痺下屈折検査が標準です。学校健診などのスクリーニングも早期発見に有用です。

矯正は眼鏡やソフト/ハードコンタクトが基本で、成人にはレーザー屈折矯正手術や有水晶体眼内レンズも選択肢です。適応とリスク評価が重要です。

近視進行抑制には低濃度アトロピン点眼、オルソケラトロジー、多焦点ソフトレンズが有効とする質の高いエビデンスがあります。

安全性と継続性、費用対効果、医療アクセスを考慮した個別化が必要で、日本では一部治療が自費診療である点にも留意します。

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