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尿中微量アルブミン

目次

定義と臨床的意義

尿中微量アルブミンとは、通常の尿たんぱく試験紙では検出できないごく少量のアルブミンが尿中へ漏れ出ている状態、あるいはその量(尿中アルブミン排泄量)を指します。近年は用語の整理により「微量」ではなく、KDIGOガイドラインに沿って「アルブミン尿の程度(A1〜A3)」で表すことが推奨されていますが、一般向けの説明では依然として「微量アルブミン」という語も広く用いられています。

アルブミンは血液中でもっとも豊富な蛋白質で、血管内の浸透圧を保ち、脂肪酸やホルモン、薬剤などの運搬に関わる重要な分子です。腎臓の糸球体濾過膜と尿細管は通常、アルブミンが尿に出ないように保ちますが、そのバリア機能が軽度に破綻すると「微量」の段階から尿中に検出されるようになります。

尿中微量アルブミンは、糖尿病性腎症や高血圧性腎障害の最も早期のサインの一つであり、同時に心血管疾患リスクの上昇とも強く関連します。したがって、早期発見・介入によって腎機能低下や心血管イベントを予防できる可能性が高く、スクリーニングの価値が高い指標です。

臨床では、随時尿でのアルブミン・クレアチニン比(uACR)が簡便かつ再現性が高い指標として広く用いられます。A1(<30 mg/g)、A2(30–300 mg/g)、A3(≥300 mg/g)という区分は、長期予後や治療方針の判断に有用です。また、一過性の上昇を除外するため、3カ月以上の間隔で少なくとも2回以上の異常確認が推奨されます。

参考文献

測定方法と理論

尿中アルブミンの定量には、免疫比濁法や免疫散乱光度法、ELISAなどの免疫学的手法が主流です。これらは抗アルブミン抗体とアルブミンの抗原抗体反応を利用し、反応により生じる濁度や散乱光の強度を光学的に測ることで、アルブミン濃度を算出します。高感度で、微量域の変化も検出可能です。

随時尿の濃淡による希釈影響を補正するため、尿中クレアチニン濃度で割ったアルブミン・クレアチニン比(uACR)が用いられます。クレアチニンは日内変動が比較的一定で、個人内の尿量変化を補正する指標として適しています。

検査前条件や前分析要因も大切です。激しい運動、発熱、尿路感染、月経などは一過性のアルブミン尿上昇を招くため、これらの状況を避けた時期に、できれば早朝第一尿での採取が推奨されます。結果の確認には、少なくとも2回の再検で持続性を確かめます。

標準化の観点では、使用試薬の特異性、キャリブレーション、測定下限、ロット間差などが結果に影響し得ます。国際的な標準化活動により、検査室間のばらつき低減が進められていますが、報告値の解釈には測定法と品質管理の情報も併せて確認することが重要です。

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解釈と基準値

KDIGO分類では、uACRが30 mg/g未満をA1(正常~軽度増加なし)、30~300 mg/gをA2(中等度増加、従来の微量アルブミン尿)、300 mg/g以上をA3(高度増加、従来の顕性蛋白尿)と定義します。これらは腎疾患の診断・重症度評価・予後予測に用いられます。

A2以上のアルブミン尿は、推算糸球体濾過量(eGFR)の値にかかわらず慢性腎臓病(CKD)の診断基準に該当します。また、アルブミン尿の程度が高いほど、腎機能低下のスピードや心血管イベント発生率が高まることが多くの研究で示されています。

一方で、尿比重や水分摂取、体位、急性疾患などで生理的に変動します。したがって、単回測定の異常をもって直ちに診断せず、3カ月以上の期間にわたり持続していることの確認が必要です。

検査結果の臨床的解釈では、背景疾患(糖尿病、高血圧、肥満、喫煙、家族歴)や合併症、服用薬剤の影響(RAAS阻害薬、SGLT2阻害薬などアルブミン尿を低下させる薬剤)も考慮します。

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遺伝要因と環境要因

尿中アルブミン排泄量には遺伝的素因と環境要因が共に関与します。双生児・家族研究では、アルブミン尿の遺伝率(形質の集団内分散のうち遺伝に由来する割合)はおおむね20~50%の範囲と報告され、残りは生活習慣や代謝・血圧、炎症、薬剤、社会的要因などの環境因子が占めます。

糖尿病や高血圧といった主要リスク自体にも遺伝性があるため、アルブミン尿の遺伝的寄与は直接的な腎糸球体バリアの感受性と、基礎疾患の遺伝素因の双方を反映します。大規模ゲノム関連研究(GWAS)でも、アルブミン尿に関連する複数の遺伝子座が同定されていますが、個々の効果は小さく、多因子性であることが示唆されています。

一方で、食事(食塩・たんぱく質摂取)、体重、運動、喫煙、睡眠、ストレス、社会経済要因、地域環境など介入可能な因子が大きく影響します。これらの修正可能因子の是正により、遺伝的素因を持つ人でもアルブミン尿の発現や進展を抑制できる可能性があります。

したがって、「遺伝VS環境」という二分法ではなく、相互作用として捉えることが重要です。臨床では家族歴の聴取とともに、生活習慣病の包括的管理が、アルブミン尿とその先にある腎・心血管アウトカムの予防に直結します。

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管理と治療の実際

持続するA2以上のアルブミン尿がある場合、血圧管理(特にRAS阻害薬であるACE阻害薬/ARBの優先使用)、糖尿病では血糖管理とSGLT2阻害薬の使用、脂質管理、体重最適化、禁煙、運動、食事療法(減塩など)が推奨されます。これらはアルブミン尿の低下と腎・心血管イベント抑制に寄与します。

近年、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、ダパグリフロジンなど)は糖尿病の有無を問わずCKD進行とアルブミン尿を有意に低下させることが、EMPA-KIDNEYやDAPA-CKD試験で示されました。糖尿病合併CKDではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンもアルブミン尿低下と腎・心保護を示しています。

一過性上昇の鑑別も重要です。発熱、尿路感染症、激運動、脱水、月経時などは再検タイミングをずらして評価し、持続性が確認された場合に原因検索と治療最適化を行います。

治療目標は個別化されますが、一般にA1維持またはA2からA1への低下が望ましく、同時にeGFRの年次低下速度を緩やかに保つこと、血圧・血糖・脂質の包括的管理、ワクチン接種やNSAIDs回避など腎保護行動を組み合わせることが推奨されます。

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