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尿中ナトリウム

目次

定義と概要

尿中ナトリウムとは、腎臓から尿として排泄されるナトリウム量を指し、体内の水分量や血圧を調節する腎機能の状態を映し出す重要な指標です。ナトリウムは主に細胞外液に存在し、浸透圧の維持、神経・筋機能の発現、酸塩基平衡に関わります。腎臓は糸球体で濾過されたナトリウムの大半を尿細管で再吸収し、必要に応じて排泄量を調整することで恒常性を保っています。

日々の尿中ナトリウム排泄量は食塩摂取量に強く依存します。一般に24時間尿で評価すると、摂取したナトリウムの大部分が数日以内に尿へ反映されるため、集団・個人の食塩摂取量推定の「準ゴールドスタンダード」として用いられます。ただし、発汗や糞便への損失、日内変動、収集漏れなどの影響も受けます。

臨床では、尿中ナトリウムは二つの側面で重視されます。第一に、食事や生活の評価としての側面(食塩摂取の推定)。第二に、腎・循環・内分泌の病態評価としての側面(急性腎障害、低ナトリウム血症、浮腫性疾患などの鑑別)です。測定は24時間尿または随時尿(スポット尿)で行われ、状況に応じて使い分けます。

尿中ナトリウムの背景には、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)、交感神経、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)などのホルモン調節が存在します。これらは体液量や血圧の変化に応答して、尿細管でのナトリウム再吸収を増減させ、結果として尿中濃度・排泄量が変動します。

参考文献

測定法と数値の読み方

尿中ナトリウムの定量は、臨床検査ではイオン選択電極法(ISE)が標準的に用いられます。試料中のナトリウムイオン活量に応じて電位差が生じ、その応答を濃度に換算します。炎光光度法は歴史的手法として知られますが、現在はISEが主流です。

24時間尿は総排泄量(mmol/日、mEq/日)を把握でき、食塩摂取量の推計や集団評価に適します。対してスポット尿(随時尿)は採取が簡便で、腎障害の病態評価や集団調査での推定式(Kawasaki法、Tanaka法、INTERSALT法など)に用いられますが、日内変動や体液状態の影響を強く受けます。

腎前性と腎性の急性腎障害(AKI)の鑑別では、尿中ナトリウム濃度や尿中ナトリウム分画排泄率(FENa)が補助的に用いられます。一般にFENa<1%は腎前性低灌流、>2%は腎性(急性尿細管壊死など)を示唆しますが、利尿薬使用時や慢性腎臓病では解釈に注意が必要です。

低ナトリウム血症の鑑別では、尿中ナトリウムが重要です。低容量性では尿Na<20–30 mmol/Lとなりやすく、SIADHなど容量正常・高容量性の病態では尿Na>30–40 mmol/Lを示すことが多いですが、同時に尿浸透圧、臨床所見、薬剤歴を合わせて判断します。

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生理学と臨床的意義

ナトリウムは細胞外液の主要陽イオンで、浸透圧と循環血液量を規定します。腎臓は糸球体濾過後に近位尿細管、ヘンレ係蹄、遠位尿細管、集合管で段階的に再吸収を行い、ホルモン調節に応じて微調整します。アルドステロンは集合管での再吸収を促進し、ANPは逆にナトリウム利尿を促します。

尿中ナトリウム排泄は、血圧調節にも直結します。長期的には腎圧利尿機構により、体液量が増えるとナトリウム排泄が増え、体液量と血圧が低下します。食塩感受性の個人では同じ摂取量でも血圧上昇が大きく、遺伝的背景や腎機能、年齢、人種などが影響します。

臨床での意義は多岐にわたります。AKIの鑑別、低Na血症の病態分類、心不全・肝硬変・腎症候群など浮腫性疾患の治療反応の評価、さらに生活指導(減塩)の評価などで用います。24時間尿による排泄量は、個人の減塩介入のモニタリングに有用です。

ただし、解釈の前提として正しい採尿が重要です。24時間尿では開始・終了時刻の厳守、採り忘れ・こぼしの有無、過度の水分摂取などに注意が必要です。スポット尿を摂取量推定に用いる場合は、推定誤差や人・日間変動の大きさを理解する必要があります。

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基準範囲と異常時の対応

健康成人の24時間尿中ナトリウム排泄量は概ね40–220 mmol/日(mEq/日)とされますが、実際には食塩摂取量や発汗量に大きく依存します。スポット尿の「正常範囲」は定めにくく、臨床状況と併せて解釈します。

尿中ナトリウムが低い場合は、低容量(脱水・出血)、有効循環血漿量の低下(心不全、肝硬変)、激しい発汗、RAAS活性化、利尿薬の影響などを考慮します。逆に高い場合は、塩分過剰摂取、利尿薬投与、腎性塩類喪失、内分泌異常(鉱質コルチコイド欠乏など)を鑑別します。

対処は原因治療が基本です。脱水なら適切な補液、心不全ならうっ血と体液量の管理、SIADHが疑われれば水制限・原因薬剤中止など、各ガイドラインに準じます。自己判断での急激な水分・塩分操作は危険で、医療者の評価が必要です。

低Na血症やAKIの場面で尿NaやFENaを用いる際は、利尿薬、慢性腎機能障害、高齢、妊娠など、指標の信頼性を下げる条件を確認し、複数の所見を統合して判断することが推奨されます。

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遺伝と環境の影響

尿中ナトリウム排泄は、主に食塩摂取という環境要因で規定されます。国際的な24時間尿研究(INTERSALT)でも、国・地域間差や食習慣の違いが排泄量と血圧に強く反映されることが示されました。

一方で、腎尿細管でのナトリウム再吸収に関わるチャネル・輸送体(ENaC、NCC、NKCC2など)やRAAS関連遺伝子の多型は、塩分感受性やナトリウム保持傾向に影響しうることが分かっています。稀な遺伝性疾患(リドル症候群、ゴルターゲン症候群など)は極端な例として、遺伝的制御の存在を裏付けます。

双生児・家族研究では、24時間尿中ナトリウム排泄のばらつきに対する遺伝の寄与(遺伝率)はおおむね20–40%と報告され、残りの60–80%は食事や生活、気候、身体活動、薬剤などの環境要因が占めると推定されています。ただし研究間で幅があり、集団・方法に依存します。

実務上は、「環境が支配的だが、個人差の一部は遺伝的背景で説明される」と理解し、減塩を基本としつつ、血圧や浮腫の反応性に個人差があることを前提にモニタリングを行うのが現実的です。

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