尿中クレアチニン
目次
尿中クレアチニンとは
尿中クレアチニンは、筋肉内でエネルギー貯蔵物質として働くクレアチンやクレアチンリン酸が非酵素的に分解されてできる老廃物で、腎臓から尿へほぼ一定の割合で排泄されます。ヒトでは生理的な機能を担うというよりは代謝の最終産物であり、腎機能や体内水分の影響を受けながら日々排泄量が変動します。
この物質は主に糸球体でろ過され、一部は近位尿細管から分泌されるため、腎機能の指標として広く使われています。特に“尿中クレアチニン濃度”はスポット尿の希釈・濃縮の程度を示し、他の尿中物質の補正に用いられます。
検査室医学では、尿中クレアチニンはアルブミンや各種環境化学物質、薬物代謝物などの濃度を補正する目的で頻用されます。この補正式はクレアチニン補正と呼ばれ、同じ人の異なる採尿条件間の比較を容易にします。
一方で、年齢、性別、体格、民族性、食事、運動、妊娠、疾患など多様な要因が尿中クレアチニン濃度に影響するため、解釈には背景情報を合わせて考えることが重要です。
参考文献
測定法と標準化
尿中クレアチニンの測定には古典的なヤッフェ法(ピクリン酸とのアルカリ性反応)と、より特異性の高い酵素法(クレアチニナーゼ・サルコシンオキシダーゼ系など)が使われます。ヤッフェ法は干渉物質の影響を受けやすい一方、酵素法はコストが高いが精度に優れます。
臨床検査の世界では、測定法間のばらつきを小さくするために、同位体希釈質量分析(IDMS)にトレーサブルな標準化が推進されてきました。これは主に血清クレアチニンで進みましたが、尿検査でも校正の一貫性が重要です。
検査値の正確性は診断に直結するため、ラボは内部精度管理と外部精度管理を実施し、測定の再現性とバイアスの監視を継続的に行います。
臨床現場では、同じ個人をフォローする際には同一法・同一検査室での測定が望ましく、方法変更時には結果のシフトに注意する必要があります。
参考文献
- Delanghe & Speeckaert. Creatinine determination according to Jaffe—what does it stand for? NDT 2011
- NIDDK: Creatinine Standardization Program (NKDEP)
解釈と臨床での使い方
スポット尿のクレアチニン濃度は水分摂取や発汗で大きく変化し、数値が高いからといって腎機能が良いわけではなく、低いからといって腎機能が悪いとも限りません。むしろ尿の濃縮・希釈の指標として用いるのが基本です。
アルブミンやナトリウム、環境化学物質などの尿中濃度は、クレアチニンで補正することで採尿条件のばらつきを小さくでき、個人間・時間経過での比較がしやすくなります。
一方で、筋肉量が極端に少ない高齢者や栄養不良、重度の腎機能低下、妊娠などではクレアチニン補正が偏りを生む可能性があり、解釈には注意が必要です。
異常値が出た場合には、採尿条件の確認、再検、必要に応じて24時間尿や血清クレアチニン・eGFR、尿アルブミン/クレアチニン比(uACR)などの追加評価を行います。
参考文献
- CDC/NHANES: Urinary Creatinine and Creatinine Correction (Barr et al., EHP 2005)
- Testing.com: Urine Albumin-to-Creatinine Ratio
正常範囲と個人差
尿中クレアチニンには測定単位と検体の種類でいくつかの基準があります。スポット尿では成人男性でおおむね20–370 mg/dL、女性で20–320 mg/dLと報告され、24時間尿では男性1000–2500 mg/日、女性800–2000 mg/日が代表的な参考範囲です。
これらの範囲は検査室・集団により異なり、年齢が高くなるほど、また体格が小さいほど排泄量は少なくなる傾向があります。
人種差や妊娠、運動習慣、食事(肉・クレアチン摂取)、水分摂取量なども値に影響し、同じ人でも日内変動が存在します。
したがって、個々の結果は背景情報と合わせて解釈し、可能なら同一条件での再検や複数回測定の平均で評価することが推奨されます。
参考文献
遺伝と環境の影響
尿中クレアチニン濃度や排泄量の個人差には、遺伝的要因と環境的要因の双方が関与します。ゲノム全体に基づく解析(SNPベース)では、尿中クレアチニンの遺伝率は概ね1–2割程度と報告され、残りは環境や生活習慣、体格の違いで説明されます。
一方で、筋肉量そのものは遺伝的影響が比較的大きく、家族・双生児研究では中等度以上の遺伝率が示唆されており、これが尿中クレアチニンの個人差の一部を規定します。
しかしスポット尿の濃度は採尿時の水分状態の影響が非常に大きいため、単回測定のばらつきの多くは環境要因が担っていると考えられます。
研究デザインや対象により推定は変動するため、遺伝・環境の寄与は指標と集団に応じて慎重に解釈する必要があります。
参考文献

