尿中アルブミン対クレアチニン比
目次
概要
尿中アルブミン対クレアチニン比(UACR)は、尿中に漏れ出たアルブミン量(mg)を同じ尿中のクレアチニン量(g)で割って正規化した指標で、スポット尿でも水分摂取量や尿濃度の違いを補正して腎臓の糸球体や尿細管の障害を捉えやすくする目的で用いられます。慢性腎臓病(CKD)の評価や糖尿病・高血圧患者の腎合併症スクリーニングで世界的に標準化されたマーカーです。
アルブミンは通常、糸球体濾過障壁でほぼ通過が抑えられ、わずかに濾過された分も近位尿細管で再吸収されます。UACRが上昇するのは、この濾過障壁や再吸収機構が破綻したり、全身性の血管内皮機能が障害されたときに起こるため、腎疾患だけでなく心血管リスクの指標としても解釈されます。
UACRは単位としてmg/g(米国・日本)またはmg/mmol(欧州)で報告されます。A1(正常~軽度増加)<30 mg/g、A2(中等度増加)30–300 mg/g、A3(高度増加)>300 mg/gというKDIGOのカテゴリー分類が広く用いられています。
診断上は、偶発的な一過性上昇(激しい運動、発熱、尿路感染、月経など)を除外するため、3か月以上の期間に2回以上の異常を確認して「慢性」と定義するのが原則です。初回は随時尿で構いませんが、日内変動を抑えるために早朝第一尿が推奨されます。
参考文献
- KDIGO 2024 CKD Guideline (Evaluation and Management of CKD)
- NIDDK: Urine Albumin-to-Creatinine Ratio (uACR)
- National Kidney Foundation: Albuminuria (uACR) and Kidney Disease
測定法と理論
UACRは同一尿検体中のアルブミン濃度とクレアチニン濃度を測定し、その比をとります。アルブミンは免疫比濁法・免疫散乱法などの免疫学的定量が一般的で、低濃度域でも感度よく検出できます。クレアチニンはJaffe法(ピクリン酸反応)または酵素法で測定され、近年は特異性の高い酵素法が普及しています。
この「比」を用いる理由は、尿は希釈・濃縮の影響を強く受けるため、単純な濃度(mg/L)では個人内外でばらつきが大きいからです。クレアチニンは筋肉量に依存するものの、短時間スケールでは比較的安定に一定量が尿中に排泄されるため、濃縮度の補正因子として機能します。
単位換算としては1 mg/mmol ≈ 8.84 mg/gで、地域や文献により表記が異なるため、臨床判断では単位の確認が重要です。試料は随時尿で可で、採取前の激しい運動・発熱・脱水などの前分析要因を避けることが正確性向上に役立ちます。
測定誤差やバイアスの要因として、アルブミンの修飾(糖化やフラグメント化)で免疫反応性が変わること、クレアチニンのJaffe法での干渉物質(ケトン体、ビリルビン等)、および検体保存条件が挙げられます。施設間差を小さくするために標準化の取り組みが続けられています。
参考文献
解釈と基準範囲
KDIGO分類ではUACR<30 mg/gをA1(正常~軽度増加)、30–300 mg/gをA2(中等度増加)、>300 mg/gをA3(高度増加)と定義します。糖尿病や高血圧の患者ではA2以上が腎疾患の早期指標となり、心血管リスクの上昇とも関連します。
UACRの高値は糸球体基底膜の透過性亢進、足細胞障害、近位尿細管再吸収能の低下など多様な機序で起こります。eGFRが保たれていてもUACR上昇は独立して予後不良と関連することが多数のコホートで示されています。
一方で、脱水、発熱、尿路感染、激運動、月経や精液混入など一過性の要因でも上昇するため、異常が出た場合は少なくとも3か月の間隔で複数回測定し、2/3以上で異常なら慢性と判断するのが推奨です。
UACRは筋肉量の少ない高齢者ややせた女性では相対的に高めに、筋肉量の多い若年男性では低めに出やすいなど、クレアチニン基準化の限界もあります。必要に応じて24時間蓄尿でのアルブミン排泄量や、システマティックな再検で確証します。
参考文献
遺伝要因と環境要因
家族・双生児・家系研究ではUACR(あるいは尿アルブミン排泄)の遺伝率は概ね20~50%の範囲と推定されています。オランダの一般住民コホート(ERF研究)では対数変換した尿アルブミン排泄の遺伝率は約0.38、米国先住民集団のStrong Heart Family StudyではUACRの遺伝率が約0.31と報告されています。
したがって、全体寄与の目安として遺伝要因30~40%、環境・行動・臨床要因60~70%程度と見積もるのが実用的です。環境側には高血圧、糖尿病のコントロール不良、喫煙、高食塩・高タンパク食、肥満、激しい運動、発熱や感染、薬剤(NSAIDsなど)、脱水などが含まれます。
ゲノム規模関連解析ではCUBN(キュビリン)などアルブミン再吸収に関わる遺伝子がUACRに関連すると示される一方、個々のバリアントの効果量は小さく、臨床的には生活習慣・血圧・血糖など修飾可能因子の管理が主軸となります。
民族差や性差、加齢もUACRに影響します。特に糖尿病や高血圧を合併する場合、環境・臨床要因の影響がより大きく、治療介入によってUACRを低減し得ることが多数の試験で示されています。
参考文献
- Heritability of microalbuminuria in the general population (ERF Study)
- Strong Heart Family Study: Genetic determinants of albuminuria
- CUBN variants and albuminuria (PLoS Genet. 2011)
臨床での意義と対応
UACRはCKDのステージングと予後層別化の中核で、eGFRと組み合わせて腎不全リスクや心血管イベントリスクを推定します。特に糖尿病では早期からのアルブミン尿出現が腎症のサインとなり、放置するとGFR低下や心血管合併症に進展しやすくなります。
異常時の対応は、1)一過性要因の除外と再検、2)血圧管理(ACE阻害薬/ARBの第一選択、可能ならSGLT2阻害薬の併用)、3)血糖管理(ADA推奨に準拠)、4)生活習慣介入(減塩、適正体重、禁煙、運動)、5)腎毒性薬剤の回避、などが基本です。
介入によりUACRが低下すること自体が腎予後・心血管予後の改善と相関することが多くの臨床試験で示されており、治療目標のサロゲート指標としての価値も認められています。
検査の頻度は、糖尿病患者では年1回以上(1型は罹病5年以降)、CKD患者では病期に応じて3~12か月ごとが目安です。結果の解釈と計画は主治医と相談し、複数回の測定でトレンドを見ることが重要です。
参考文献

