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就寝時刻

目次

定義と概要

就寝時刻は、個人が睡眠をとるために床につく時刻を指し、社会的スケジュールと生物学的リズムの相互作用で決まります。単なる習慣ではなく、体内時計や睡眠圧などの生理機構に強く依存します。

日々の就寝時刻は一定の範囲で揺らぎますが、学業・労働・家庭の事情による制約、夜間の光曝露、カフェイン摂取などの環境因子によって系統的に前後へ偏位します。

就寝時刻は「朝型—夜型」の時間的嗜好(クロノタイプ)と密接に関連し、行動や健康指標(代謝、気分、事故リスク)にも影響を及ぼすことが疫学研究で示唆されています。

病気の診断名ではありませんが、就寝時刻が著しく遅れる・整わないことで日中機能障害を伴う場合は、概日リズム睡眠—覚醒障害(たとえば睡眠相後退障害)として臨床的評価の対象になります。

参考文献

機序(体内時計と睡眠恒常性)

就寝時刻は、視交叉上(SCN)にある概日時計が刻む概日過程(Process C)と、起床後の覚醒時間に応じて高まる睡眠恒常性(Process S)の和で決定づけられます。

夕方から夜にかけての光(とくに短波長の青色光)は、網膜—SCN—松果体経路を介してメラトニン分泌を抑制し、体内時計の位相を後退させ、就寝時刻を遅らせます。

一方、朝の強い光は体内時計を前進させ、同じ就床条件でも眠気の発現を早めます。光のタイミング依存性(位相応答曲線)が行動上の寝る時間に反映されます。

カフェインはアデノシン受容体を拮抗して睡眠圧の自覚を弱め、運動や心理的ストレスは交感神経緊張で入眠を遅らせるなど、非光学的因子も就寝時刻に影響します。

参考文献

遺伝的要因

朝型・夜型の傾向や就寝時刻の早晩には中等度の遺伝性があり、双生児研究では遺伝率がおおむね40–50%と推定されています。

ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、概日時計関連遺伝子群(PER、CRY、RGS、FBXL など)を含む多遺伝子の寄与が同定され、SNPベースの遺伝率は約12–21%と報告されています。

機能変異の例として、CRY1のスプライス部位変異が睡眠相後退型の就寝遅延と関連することが家系内で示されています。PER3のVNTRも朝型—夜型差と関連します。

ただし遺伝効果は環境要因と相互作用し、同じ遺伝的素因でも光環境や生活様式により行動としての就寝時刻は大きく変動します。

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環境的要因

人工光、とくに夜間のスクリーンからの青色光はメラトニンを抑制して就寝時刻を遅らせます。就寝前のテレビ・スマートフォン使用が慢性的な遅寝につながることが多くの研究で支持されています。

社会的スケジュール(学業・勤務時間)との不一致は「ソーシャル・ジェットラグ」をもたらし、平日と休日で就寝・起床がずれることで体内時計が安定せず、入眠が遅れがちになります。

夕方以降のカフェインやアルコール摂取、就寝直前の高強度運動、夜間の騒音・温熱環境の不良なども入眠を妨げ、実際の就寝時刻を押し下げます。

季節や緯度により日照時間が変わること、シフト勤務や夜勤の有無なども大きな修飾因子で、位相の慢性的な後退や前進を引き起こします。

参考文献

評価と介入

就寝時刻の評価には睡眠日誌や加速度計(アクチグラフィ)、クロノタイプ質問票(MCTQ、MEQ)などが用いられ、客観・主観の両面から時刻の平日休日差や一貫性を把握します。

内因性の位相を客観評価する方法として、暗所でのメラトニン分泌開始時刻(DLMO)測定があり、光療法やメラトニン投与のタイミング設定に役立ちます。

行動介入として、起床時刻の固定、朝の強い屋外光、夕方以降の強光・スクリーンの削減、カフェインのカットオフ、規則的な運動と就床前のリラックスが有効です。

位相後退が強い場合は、朝の高照度光療法と夕方早めの低用量メラトニン(0.5–3 mg)を併用することが推奨されます。医療専門職の指導下で実施します。

参考文献