子宮内膜症
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概要
子宮内膜症は、本来は子宮の内側を覆う子宮内膜に似た組織が、卵巣や腹膜、直腸や膀胱周囲など子宮外で増殖し、炎症や癒着、痛みを引き起こす慢性疾患です。思春期から閉経前の年代に多く、妊よう性や生活の質に大きな影響を与えます。
世界では生殖年齢の女性の約10%が罹患すると推定され、日本でも同程度と考えられています。月経痛や慢性骨盤痛、不妊の原因となり、仕事や学業、家庭生活に支障を来すケースが少なくありません。
診断は問診と内診、超音波検査、MRIなどの画像検査を組み合わせ、必要に応じて腹腔鏡で確認します。血液検査のマーカーは補助的で、単独での診断には不十分です。
治療は痛みの緩和と病変の抑制、妊よう性の保護を目的に、薬物療法(低用量ピル、黄体ホルモン、GnRH作動薬など)や腹腔鏡下手術を選択し、症状やライフステージに合わせて長期的にマネジメントします。
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症状
代表的な症状は、月経時の強い下腹部痛(続発性月経困難症)、性行為痛、排便・排尿時痛、慢性骨盤痛、腰痛などです。症状の強さは病変の広がりと必ずしも一致せず、軽症でも強い痛みが出ることがあります。
卵巣に発生した“チョコレート嚢胞”は、月経周期に伴って増大したり、破裂して急性腹症を来す場合があります。腸や尿管に及ぶと出血や狭窄による症状を呈し、深部病変では日常生活に大きな支障を与えます。
不妊は約30~50%で合併するとされ、炎症や癒着、卵巣機能への影響が関与します。月経以外の時期の痛みや排便時の痛みが続く場合も子宮内膜症が隠れていることがあります。
無症状の人も一定数おり、健康診断や不妊精査で偶然見つかることもあります。症状の変化や悪化には個人差が大きく、適切な評価と中長期的な観察が重要です。
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原因と発生機序
発生機序は一つではなく、複数の仮説が併存します。代表的なのは、月経血が卵管から腹腔内に逆流して子宮内膜類似組織が生着する“逆行性月経”仮説です。ただし逆行性月経は多くの女性に起こり、免疫・遺伝要因などが生着の可否を左右すると考えられます。
他に、腹膜細胞が子宮内膜様に変化する“化生説”、骨髄や内膜幹/前駆細胞が腹腔や他臓器へ移動・分化する幹細胞仮説が提唱されています。これらは深部浸潤性病変や遠隔部位の病変を説明しうるとされています。
慢性炎症とエストロゲン依存性が病態の中核で、免疫応答の偏り、神経新生や血管新生、線維化が痛みや進展に寄与します。局所エストロゲン産生の亢進やプロゲステロン抵抗性などの内分泌学的変化も関係します。
遺伝学的には多数の感受性遺伝子座が同定され、子宮内膜症は多因子疾患として位置づけられます。単一遺伝子では説明できず、環境・生活歴との相互作用がリスクを規定します。
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診断
診断は問診と骨盤内診、経腟超音波が基本です。卵巣チョコレート嚢胞の検出に超音波は有用で、深部浸潤病変では腸管や尿管の評価に熟練した検者のスキャンが役立ちます。MRIは病変の広がり把握や手術計画に補助的です。
腹腔鏡は確定診断と病変除去を同時に行える利点がありますが、近年は臨床症状と画像所見で“診断的腹腔鏡”を省略する方針も支持されています。バイオマーカー(例:CA125)は感度・特異度が不十分で補助的に用いられます。
鑑別診断には子宮腺筋症、機能性月経困難症、過敏性腸症候群、膀胱痛症候群などが含まれます。症状や所見が重なるため、総合的な評価が欠かせません。
若年者や未産婦では内診が困難なこともあり、症状の聴取や画像選択に配慮が必要です。痛み日記や鎮痛薬への反応も診断的手がかりになります。
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治療
疼痛管理にはNSAIDsやアセトアミノフェンが用いられ、ホルモン療法として低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、黄体ホルモン(例:ジエノゲスト)、レボノルゲストレル子宮内システム、GnRH作動薬が選択されます。副作用や妊娠希望の有無を考慮して選びます。
手術は腹腔鏡下で病変切除や癒着剥離を行い、卵巣嚢胞では嚢胞壁除去が標準です。深部浸潤病変では消化器や泌尿器の専門家と連携した手術計画が重要です。術後は再発抑制のためホルモン療法を継続することが推奨されます。
不妊合併例では年齢や卵巣予備能、病変の程度に応じて、手術、タイミング法、人工授精、体外受精の選択肢を検討します。卵巣機能保護の観点から、過度の卵巣手術は慎重に適応を検討します。
慢性疾患としての長期管理が必要で、症状コントロール、再発予防、骨粗鬆症や心血管リスクなど副作用対策、メンタルヘルス支援を組み合わせ、ライフステージごとに見直します。
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