好酸球カチオンタンパク質(ECP)血清濃度
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概要
好酸球カチオンタンパク質(ECP: eosinophil cationic protein)は、好酸球という白血球の顆粒に豊富に含まれる塩基性タンパク質で、ヒトリボヌクレアーゼAスーパーファミリーの一員(RNase 3)です。寄生虫やウイルス、細菌などに対する先天免疫での役割があり、強い細胞毒性やリボヌクレアーゼ活性を持ちます。このECPが血中に放出されると、血清中で測定可能となり、好酸球の活性化の指標として臨床で用いられます。
ECP血清濃度は、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、好酸球性副鼻腔炎、寄生虫感染、好酸球増多症など、好酸球が関与する疾患で上昇することがあります。特に、症状増悪期に値が上昇し、治療に反応すると低下する傾向が報告されています。ただし、個人差や測定系の違いも大きく、単独で診断を確定する検査ではありません。
ECPは強い陽電荷を帯びるため、細胞膜や微生物表面に結合しやすく、細胞傷害性を発揮します。その一方で、気道上皮障害や神経毒性などの組織傷害を介して疾患の病態に寄与することがあり、疾患活動性のバイオマーカーとしての位置付けが検討されてきました。
血清ECPは主にイムノアッセイ(ELISAやFEIA)で定量され、検体の種類(血清か血漿)、採血条件、保存条件、使用キットによって参照範囲や値が異なります。従って、解釈は同一施設・同一手法での経時的な変化を重視するのが実務的です。
参考文献
臨床的意義
ECP血清濃度は「好酸球の数」よりも「好酸球の活性化・脱顆粒の程度」を反映しやすい特徴があります。例えば喘息では、発作期やコントロール不良の患者で上昇し、吸入ステロイドや生物学的製剤による治療で低下する傾向が観察されます。これは気道における好酸球性炎症の活動性を反映している可能性があります。
アトピー性皮膚炎や好酸球性副鼻腔炎でもECP上昇がみられることがあり、病勢の追跡に用いられることがあります。ただし、疾患特異性は高くなく、感染症(特に寄生虫)や薬疹、好酸球性消化管疾患など多様な病態で上昇し得るため、臨床像と他の検査(血中好酸球数、総IgE、FeNO、局所検体など)と併せた総合判断が重要です。
縦断的に同一患者のECPを追跡することで、治療反応性や増悪の早期兆候を把握できる可能性があります。例えば増悪前にECPが先行上昇する症例があり、治療の強化や誘因回避のタイミングを検討する手掛かりになり得ます。
一方、喫煙、急性の運動、採血時の溶血、測定系間の差など、非病理学的要因がECPに影響する可能性があり、解釈には注意が必要です。したがって、単回測定の絶対値よりも、同一条件での経時変化や臨床症状との相関を重視すべきです。
参考文献
- Eosinophils in disease - JACI review (Bochner & Gleich)
- Thermo Fisher Diagnostic Education: Allergy and biomarkers
測定法と理論
ECPの定量には、抗ECP抗体を用いたイムノアッセイが用いられます。代表的なのはサンドイッチELISA(酵素免疫測定)やFEIA(蛍光酵素免疫測定)で、固相化した抗体でECPを捕捉し、別の標識抗体で検出することで、発色や蛍光の強度を用量に換算します。標準物質で検量線を作成し、試料のシグナルから濃度を求めます。
採血は通常、血清を用いますが、ヘパリン血漿など別種類の検体を許容するキットもあります。検体の溶血、保存温度、凍結融解回数は測定に影響し得るため、添付文書に沿った取り扱いが必要です。キット間で抗体エピトープの違いがあり、相互比較が難しい点にも留意します。
ECPは強塩基性で非特異的結合を起こしやすく、またRNASE3遺伝子多型や糖鎖修飾によって免疫反応性が変化する可能性が報告されています。これらは測定値のばらつきの一因となり得ます。
検査の品質管理(内部精度管理、外部精度管理)は臨床解釈の信頼性に直結します。カットオフや参照範囲は各施設・各試薬で設定されるため、レポートに記載の基準範囲に従って解釈することが大切です。
参考文献
基準範囲と解釈
ECPの基準範囲(いわゆる正常値)は、測定法と試薬によって異なります。多くのキットでは成人でおおむね十数μg/L前後を上限に設定していますが、施設間差が存在します。小児ではやや高めの上限を用いる施設もあります。具体的な数値は検査報告に記載される参照範囲に従ってください。
結果の解釈では、同一個人内での変化量が重要です。例えば、患者が喘息治療を開始してECPが明確に低下した場合、好酸球性炎症の鎮静化を示唆します。一方、症状悪化と並行して上昇すれば、活動性の再燃を示す可能性があります。
ECP高値は必ずしも末梢血好酸球数の増加を伴いません。局所(気道や皮膚)での脱顆粒が主体の場合、血中好酸球数は正常でもECPが上昇し得ます。逆に好酸球数が高くても不活化であればECP上昇が目立たない場合もあります。
喫煙、寄生虫感染、急性のアレルギー反応、薬疹、強い運動後などは偽陽性の上昇要因となり得ます。解釈は臨床所見、他のバイオマーカー(FeNO、総IgE、血中好酸球数など)、画像・機能検査と合わせて総合的に行います。
参考文献
生物学的役割と遺伝要因
ECP(RNase 3)は微生物や寄生虫の表面に結合し、膜障害やRNA分解を介して殺虫・殺菌・抗ウイルス作用を発揮します。同時に、ヒスタミン遊離促進や血小板活性化、線維化促進などの多彩な生物活性を持つことが報告されています。これらは気道過敏性や組織リモデリングにも関与し、喘息などの病態に結びつきます。
RNASE3遺伝子の多型はECPの電荷、糖鎖、免疫反応性、細胞毒性に影響し得るとされ、疾患感受性や重症度との関連が論じられてきました。ただし、効果量は小さく、集団や測定系によって結果が一致しないこともあります。
ECP血清濃度の個人差は、遺伝要因だけでなく、アレルゲン曝露、感染症、喫煙、薬剤、併存症、季節などの環境要因の影響が大きいと考えられています。従って、遺伝と環境の相互作用の中でECPの変動を理解するのが妥当です。
現時点でECP血清濃度そのものの厳密な遺伝率推定は限られており、好酸球数やアトピー素因の遺伝率研究からの類推にとどまります。臨床的には、環境制御と適切な抗炎症治療がECP制御に直結する実践的手段です。
参考文献

