好中球数
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用語の定義と概要
好中球数とは、血液中に存在する白血球の一種である好中球の絶対数(Absolute Neutrophil Count; ANC)を指し、通常は1マイクロリットル(μL)あたりの細胞数で表されます。臨床では、血算(完全血球計算; CBC)で得られる白血球総数に白血球分画の好中球(桿状核と分葉核を合算)の割合を掛けて求めます。好中球は生体防御の最前線で働く自然免疫細胞で、細菌や真菌に対する迅速な応答、貪食、活性酸素種の産生、好中球細胞外トラップ(NETs)形成などにより感染を制御します。
成人の好中球数は日内変動や体位、運動、ストレス、喫煙、感染や炎症、薬剤影響などにより変動します。臨床的には成人で概ね1.5~7.5×10^9/L(= 1,500~7,500/μL)がよく用いられる基準範囲ですが、施設や測定系、年齢、人種背景で差があり、特にアフリカ系などではベニン(良性)人種性好中球減少が知られます。
好中球数が低い状態は好中球減少(neutropenia)と呼ばれ、一般に軽度(1,000~1,500/μL)、中等度(500~1,000/μL)、重度(<500/μL)に区分されます。重度減少では細菌・真菌感染のリスクが著しく上昇し、発熱を伴えば医療的緊急事態(発熱性好中球減少症)とみなされます。一方で好中球数が高い状態(好中球増多; neutrophilia)は急性細菌感染、組織炎症、ステロイド投与、喫煙、骨髄増殖性腫瘍などで見られます。
好中球数の評価は、感染症リスクの層別化、薬剤有害事象(例:化学療法、抗甲状腺薬、クロザピン)の監視、骨髄機能の評価、自己免疫や遺伝性血液疾患の診断、周術期・妊娠時の管理など、幅広い臨床状況で不可欠です。測定は自動血球計数装置による迅速・標準化された方法が主流で、必要に応じて末梢血塗抹標本の形態学的確認を行います。
参考文献
- MSDマニュアル家庭版:好中球減少症
- MedlinePlus:Complete Blood Count (CBC)
- Borregaard N. Neutrophils, from marrow to microbes. Nat Rev Immunol (2010)
測定法と理論(定量の仕組み)
好中球数は、CBCで白血球総数(WBC)と白血球分画(ディファレンシャル)を同時に測定し、ANC = WBC ×(好中球% + 桿状核%)/100 の式で算出します。自動血球計数装置は主にインピーダンス法(コールター原理)とフローサイトメトリー(レーザー光散乱、蛍光染色)を組み合わせ、細胞の大きさ・内部構造・酵素活性などの差から白血球亜集団を識別します。
コールター原理では、電解質溶液中の微小孔を細胞が通過する際の電気抵抗変化をパルスとして検出し、その振幅を大きさ、パルス数を数として測定します。フローサイトメトリーでは前方散乱光が細胞サイズ、側方散乱光が内部顆粒性を反映し、パーオキシダーゼ反応や核酸蛍光を併用することで好中球の同定精度を高めます。
測定の前解析因子として、採血部位、駆血時間、体位変換(臥位→立位で一過性増加)、運動、ストレス、喫煙、妊娠、日内リズム、感染の有無、薬剤、検体の保存時間や温度、抗凝固薬(EDTA依存性凝集)などが好中球数に影響します。適切な採血手順、迅速な測定、異常値時の塗抹確認が精度担保に重要です。
特異な状況として、偽性好中球減少(EDTA誘発白血球凝集やマージナルプールの動員)や、核左方移動、反応性変化、異常顆粒などの形態学的所見が解釈に影響します。臨床医は機械計測値を鵜呑みにせず、臨床像と塗抹所見を合わせて判断することが推奨されます。
参考文献
- Coulter principle(Wikipedia)
- Clinical Methods: The Leukocyte Count and Differential (NCBI Bookshelf)
- ARUP Consult: Neutropenia and Neutrophilia
臨床的意義と解釈
好中球数は感染リスクの予測に直結し、特にANC < 500/μLかつ発熱は救急対応を要する発熱性好中球減少症の定義に合致します。がん化学療法後の減少は予測可能な有害事象で、G-CSFによる一次・二次予防、広域抗菌薬の早期投与、感染源検索などガイドラインに沿った管理が必要です。
軽度の好中球減少は無症候で一過性のことが多く、ウイルス感染後、自己免疫、薬剤、栄養障害(B12/葉酸/銅欠乏)など多彩な原因が鑑別に上がります。慢性的・重度の減少や再発性重症感染では先天性・後天性骨髄不全、自己免疫性好中球減少、脾機能亢進など精査が求められます。
好中球増多は急性細菌感染、組織壊死、炎症性疾患、ステロイド・アドレナリン、喫煙、ストレス、妊娠、脾摘後などで見られ、極端な増多や異常細胞の出現時には骨髄増殖性腫瘍(例:慢性骨髄性白血病、真性多血症、CNL)も考慮します。臨床背景、炎症マーカー、末梢血形態、分子検査を組み合わせた評価が有用です。
数値解釈は人種・年齢差を踏まえる必要があります。アフリカ系や中東出身者ではDARC遺伝子多型に関連する良性人種性好中球減少があり、ANC 1,000~1,500/μL程度でも感染リスク増加を必ずしも伴いません。個別の基準範囲設定と経時的推移の把握が鍵です。
参考文献
- IDSAガイドライン:発熱性好中球減少症の管理(2011)
- MSDマニュアル家庭版:好中球減少症
- ARUP Consult: Neutrophilia
- Hsieh MM et al. Benign Ethnic Neutropenia. Blood (2007)
遺伝的要因と環境的要因
好中球数は遺伝と環境の双方から影響を受けます。双生児研究や家系研究では白血球各分画に中等度の遺伝率が示唆され、ゲノムワイド関連解析(GWAS)ではDARC、CXCR2、G6PC3など多遺伝子座が好中球数や機能に関与することが明らかになっています。SNPベースの遺伝率は集団により異なりますが概ね20~30%程度と報告されます。
一方で環境要因の影響は大きく、急性・慢性の感染、喫煙、肥満、ストレス、運動、薬剤(化学療法、抗甲状腺薬、抗精神病薬、抗菌薬など)、放射線、栄養状態、自己免疫・炎症疾患、妊娠などが好中球数を上下させます。これらは時相依存的で可逆的なことが多く、臨床解釈では曝露歴の聴取が不可欠です。
人種性の差異は遺伝背景と連動します。特にDARC(ACKR1)遺伝子の変異はアフリカ系集団における低めの基礎好中球数と関連し、感染感受性全体を必ずしも悪化させない良性表現型を形成します。こうした遺伝-環境の相互作用は、基準範囲の設定や疫学解釈に影響します。
臨床的には、遺伝寄与は概ね30~60%(双生児研究含む)、環境寄与は40~70%と幅を持って見積もられます。個人差が大きく、特定の病因(例:先天性好中球減少症)では遺伝要因がほぼ決定的である一方、薬剤性や感染後などでは環境要因が主導します。
参考文献
- Astle WJ et al. The allelic landscape of blood cell traits. Cell (2016)
- Vuckovic D et al. The Polygenic and Monogenic Basis of Blood Traits. Nature (2020)
- Hsieh MM et al. Benign Ethnic Neutropenia. Blood (2007)
異常値への対応と患者教育
好中球数が低く、特にANC < 500/μLで発熱(≥38.0℃)を伴う場合は、速やかな医療受診が必要です。静脈路確保、培養採取、早期広域抗菌薬投与が推奨されます。がん患者ではG-CSFによる一次/二次予防の適応検討、粘膜防御の保護、口腔ケア、衛生指導が重要です。
薬剤性が疑われる場合は原因薬の中止や代替、造血抑制性の併用薬チェック、血液内科への紹介を検討します。慢性・重度例や再発性感染では骨髄検査、自己抗体、栄養評価、ウイルス学的検査、遺伝学的検査を段階的に行い、原因に応じてG-CSF、免疫抑制、感染予防策を講じます。
好中球増多が持続する場合は、感染・炎症源の検索、薬剤や喫煙の見直し、末梢血像の異常(左方移動、幼若細胞)や血小板・ヘモグロビンの異常の有無を確認し、必要に応じてJAK2やBCR-ABL1などの分子検査を行います。
患者教育として、発熱時の連絡体制、衛生・食事・外傷予防、ワクチン接種(不活化ワクチン中心)の計画、歯科受診や旅行時の注意点などを具体的に伝えることが再発や重症化の予防につながります。
参考文献

