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多発性筋痛症

目次

概要

多発性筋痛症(polymyalgia rheumatica, PMR)は、主に50歳以上に発症し、肩・頸・腰帯部の痛みと朝のこわばりを特徴とする炎症性疾患です。筋力そのものの低下というより、滑膜炎や滑液包炎による痛みと機能障害が中心で、血液検査では赤沈(ESR)やCRPの上昇がよくみられます。筋逸脱酵素(CK)は通常正常で、原発性筋疾患とは異なる点が診断の手がかりになります。

巨細胞性動脈炎(GCA)と密接に関連し、PMR患者の約10〜20%にGCAを合併し、逆にGCAの40〜60%にPMR様症状がみられると報告されています。GCAの視力障害は緊急性が高いため、PMRの診療では常に警戒が必要です。

診断は2012年のEULAR/ACR予備分類基準などを参考に、臨床所見と炎症反応、除外診断、超音波での肩・股関節周囲の滑液包炎所見などを総合して行います。特異的な単一の診断マーカーは存在せず、リウマトイド因子や抗CCP抗体は通常陰性です。

治療の第一選択は低用量の経口グルココルチコイドで、多くの患者は速やかに症状が改善します。寛解維持のためには慎重な漸減が必要で、再燃例ではメトトレキサートなどの併用や、近年はIL-6阻害薬の有効性も示されています。長期管理では副作用対策と再燃予防が重要です。

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症状と診察所見

典型的には、両側の肩と臀部・股関節周囲に広がる鈍い痛みと、45分以上続く朝のこわばりがみられます。靴下や上着の着脱、髪をとかす、車の乗り降りなどの動作が苦痛になります。夜間痛や睡眠障害、倦怠感、低熱、食思不振、体重減少などの全身症状が伴うことも少なくありません。

身体診察では肩の外転や屈曲の可動域制限、三角筋部の圧痛、股関節の可動域制限が目立ち、局所の腫脹よりも運動に伴う痛みが強調されます。筋力検査は痛みにより見かけ上低下することがあっても、神経学的な筋力低下や筋萎縮は目立たないのが一般的です。

警戒すべき随伴症状として、こめかみの頭痛、頭皮の圧痛、顎跛行、視覚異常(かすみ、複視、一過性黒内障)があり、これらは巨細胞性動脈炎の徴候で緊急評価の対象です。視力障害のリスクがあるため、これらの症状を訴える患者では速やかな高用量ステロイドが検討されます。

検査ではESRやCRPが高値であることが多く、貧血や血小板増加を伴うことがあります。CKは通常正常で、甲状腺機能異常、感染症、悪性腫瘍、リウマチ性多発筋痛症と紛らわしい疾患(リウマトイド関節炎の高齢発症例など)を除外することが重要です。超音波で肩の滑液包炎や上腕二頭筋腱鞘炎、股関節滑膜炎が検出されると診断の裏付けになります。

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発生機序(病態)

PMRは主として近位関節周囲の滑膜・滑液包・腱鞘の炎症に基づく痛みとこわばりを呈し、骨格筋そのものの炎症や壊死は基本的に認めません。画像では肩の肩峰下滑液包炎、上腕二頭筋腱鞘炎、股関節滑膜炎などが示され、病態の主座が関節周囲組織にあることが示唆されます。

炎症性サイトカインのうち特にインターロイキン6(IL-6)が中心的役割を担うと考えられ、血中IL-6濃度と疾患活動性、CRPが相関することが示されています。IL-6受容体阻害薬の有効性は、この経路の病態的意義を裏付けます。

免疫遺伝学的にはHLA-DRB1遺伝子群などの素因が報告され、同じく中高年に多い巨細胞性動脈炎との連続性が示唆されています。加齢に伴う免疫系の再構築(immunosenescence)や骨髄・粘膜免疫の変化、組織常在免疫の変調も関与が推定されますが、決定的な単一原因は確立していません。

病理学的検討は限られますが、PMRの関節周囲組織ではマクロファージやT細胞の浸潤、炎症性メディエーターの増加が認められます。一方で筋生検は通常特異所見に乏しく、鑑別目的以外で推奨されません。これらの所見は、PMRが「筋痛」を呈しつつも主座は筋外組織であることを支持します。

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遺伝的・環境的要因

遺伝学的素因としてHLA-DRB1遺伝子座、とくにDRB1*04関連アリルとの関連が報告されていますが、効果量は中等度で民族差もあります。家族集積の報告はあるものの、疾患全体の遺伝率を精密に見積もった研究は少なく、厳密な遺伝率は不明です。

非HLA遺伝子については、巨細胞性動脈炎で報告のあるPTPN22などの免疫関連遺伝子が検討されていますが、PMR単独での一貫した関連は限定的です。したがって、特定の遺伝子変異が発症を決定づけるとは言い難く、多遺伝子・環境相互作用モデルが妥当と考えられます。

環境要因としては季節変動や感染の流行期との関連が古くから示唆されており、呼吸器系ウイルスなどの関与が仮説として挙げられています。ただし、病原体を特定した確証的データはなく、観察研究でも結果は一貫しません。喫煙、ビタミンD、肥満などの生活因子との関連も研究途上です。

遺伝要因と環境要因の寄与割合を百分率で定量した信頼性の高い推定は現時点で存在しません。両者の相互作用が重要である可能性は高いものの、比率の提示は過剰解釈を招くため、現状では控えるのが妥当です。

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疫学(世界・日本、性差と年齢)

PMRは北欧系集団でとくに多く、50歳以上にほぼ限られて発症します。米国ミネソタ州の住民ベース研究では生涯罹患リスクが女性2.4%、男性1.7%と推定されました。発症年齢のピークは70〜80歳代で、加齢が最大のリスク因子です。

年間発生率は地域差が大きいものの、欧州・北米の50歳以上ではおおむね10〜100/10万人年の範囲で報告されています。有病率も年齢層に依存して上昇し、加齢人口の多い地域では医療需要への影響が大きくなります。

日本では大規模な全国推計は限られますが、臨床シリーズや地域研究から、欧米に比べて発生率がやや低い可能性が示唆されています。診断認識や紹介パターンの差、画像検査の普及度などが報告値に影響している点には留意が必要です。

男女比は女性優位で概ね2

。PMR患者の一部は診断時または経過中に巨細胞性動脈炎を合併し、とくに頭頸部や上肢の血管炎症状に注意が要ります。民族集団間の罹患率差は、遺伝学的背景と環境の双方の影響を反映していると考えられます。

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診断・治療の要点

診断には2012年EULAR/ACR分類基準が参考になり、臨床症状、年齢、炎症反応、肩・股関節周囲の超音波所見などを総合します。リウマトイド関節炎の高齢発症例、甲状腺機能低下症、薬剤性筋症、感染症、悪性腫瘍などを慎重に除外します。

初期治療はプレドニゾロン12.5〜25mg/日程度から開始し、数週間で症状・炎症反応の改善を確認しつつ徐々に減量します。目標は3ヶ月で10mg/日程度、12〜18ヶ月で中止を目指すことが多いですが、再燃時は一時的な増量が必要です。

再燃リスクが高い、糖尿病や骨粗鬆症などでステロイド副作用が懸念される場合には、メトトレキサート(7.5〜15mg/週など)の併用が推奨されることがあります。近年は再燃性PMRに対するIL-6受容体阻害薬サリルマブの有効性がNEJMで示され、選択肢が広がりつつあります。

長期管理では骨粗鬆症予防(ビタミンD/カルシウム、必要に応じビスホスホネート)、ワクチン接種、心血管リスク管理、理学療法による機能回復が重要です。巨細胞性動脈炎の兆候があれば、ただちに評価と高用量ステロイドが必要です。

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