多発性硬化症
目次
概念と疫学
多発性硬化症(MS)は、中枢神経(脳・視神経・脊髄)に起こる自己免疫性の炎症と脱髄、軸索障害を主座とする疾患です。再発と寛解を繰り返す型が最も多く、進行型も存在します。若年成人、とくに女性に多くみられます。
MRIで白質・灰白質に散在する病変が確認され、神経伝導の遅延により視力低下、しびれ、運動麻痺、疲労など多彩な症状が出ます。診断には2017年McDonald基準が広く用いられます。
世界では推定280万人以上がMSと共に暮らしており、地域や人種で頻度が異なります。QOLや就労・教育に影響し、医療・社会資源の活用が重要です。
治療は根治ではありませんが、疾患修飾薬の普及で再発抑制と障害進行の遅延が可能になりました。適切な長期フォローと多職種支援が鍵です。
参考文献
病態生理
MSでは自己反応性T細胞やB細胞が血液脳関門を越えて中枢神経に浸潤し、ミエリンと軸索を標的に炎症を起こします。結果として伝導障害や神経細胞死が生じます。
B細胞は抗体産生や抗原提示、サイトカイン分泌で重要な役割を担い、髄液のオリゴクローナルバンドは慢性B細胞応答の指標です。エクトピック胚中心の形成も報告されています。
ミクログリア活性化や補体、ミトコンドリア障害が軸索変性に関与します。白質の脱髄だけでなく皮質灰白質の病変も認知機能へ影響します。
環境因子(EBウイルス感染、低ビタミンD、喫煙など)と遺伝学的素因(HLA-DRB1*15
)が相互作用し、発症リスクを高めると考えられています。参考文献
- IMSGC: MS genomic map (Nature 2019)
- EBV and MS risk (Science 2022)
- Pathophysiology review (Nat Rev Neurol)
症状と臨床像
視神経炎による片眼の疼痛と視力低下、感覚障害、運動麻痺や失調、ふらつきなどが典型的です。症状は日単位〜週単位で出現し寛解します。
膀胱直腸障害、性機能障害、痙縮、神経因性疼痛、三叉神経痛など多岐に及びます。疲労は最も頻度の高い症状の一つです。
認知機能低下(注意・処理速度・記憶)や抑うつ・不安が生活の質に影響します。熱で症状が一時的に悪化するUhthoff現象が知られます。
病型は再発寛解型、二次進行型、一次進行型に分かれ、個々の経過は多様です。早期からの治療とリハビリテーションが長期予後を左右します。
参考文献
診断と検査
2017年McDonald基準は「時間的」と「空間的」多発性の証明を重視します。典型的な臨床発作に加え、画像・検査所見を統合して診断します。
MRIでは脳室周囲、皮質下、テント上・下、脊髄、視神経の病変分布や造影効果の差が評価されます。Dawson’s fingersは代表的所見です。
髄液のオリゴクローナルバンドやIgG index上昇は、時間的多発性の補助所見となります。視覚誘発電位などの電気生理検査も有用です。
鑑別にはNMOSDやMOGAD、感染、サルコイドーシス、代謝性疾患(B12欠乏など)が含まれます。早期に神経内科受診し、適切な画像プロトコルで評価します。
参考文献
治療と長期管理
再発時は高用量ステロイド静注が第一選択で、難治例に血漿交換が検討されます。感染や他疾患の除外も同時に行います。
疾患修飾薬(インターフェロンβ、フマル酸系、S1P受容体調節薬、抗CD20抗体、ナタリズマブ、テリフルノミド、クロドリビン等)が再発と病勢進行を抑えます。
治療戦略は「早期から高効力薬で先制」か「安全域の広い薬で漸進」の二軸があり、個人の疾患活動性や妊娠計画、合併症リスクで選択します。
痙縮、疼痛、排尿障害、疲労、抑うつへの対症療法、運動・作業療法、就労・福祉支援を含む多職種アプローチが不可欠です。定期的なMRIで治療効果を評価します。
参考文献

