多嚢胞性卵巣症候群
目次
定義と診断基準の要点
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、排卵障害や高アンドロゲン状態、超音波で認める多嚢胞状卵巣のうち2項目以上で診断されることが多い、思春期以降の女性にみられる内分泌・代謝異常の症候群です。診断は他疾患の除外も必要で、甲状腺機能異常や高プロラクチン血症、先天性副腎過形成などを適切に鑑別します。
国際的にはRotterdam基準(2003、2018改訂)と、近年の国際エビデンスに基づくPCOSガイドライン(2023)で、年齢やライフステージに応じた注意点が整理されています。特に思春期では生理不順が生理的に起こりうるため、過剰診断を避ける基準が示されています。
画像診断では経腟超音波が標準ですが、未経産や思春期では経腹超音波を用いることがあります。卵巣体積や胞状卵胞数(AFC)のカットオフは装置や年齢で変わり、最新ガイドラインでは一律の数値より臨床状況を重視することが推奨されています。
PCOSは多様性の高い症候群で、症状の出方は個人差が大きく、肥満の有無や代謝リスクの程度もさまざまです。そのため、診断は単なる基準の充足だけでなく、本人の症状や希望、妊娠計画、長期的な健康管理の視点を含めて総合的に行います。
参考文献
- International evidence-based guideline for the assessment and management of polycystic ovary syndrome (2023)
- Revised 2003 consensus on diagnostic criteria and long-term health risks related to PCOS (Rotterdam)
症状と合併症
主な症状は、月経不順や無排卵に伴う不妊、男性化症状(多毛、にきび、脱毛)などの高アンドロゲン徴候です。これらは生活の質に影響し、心理的負担やボディイメージの問題を引き起こすことがあります。
代謝面ではインスリン抵抗性や耐糖能異常、2型糖尿病のリスク上昇が知られ、脂質異常症、非アルコール性脂肪性肝疾患、睡眠時無呼吸症候群などの合併も報告されています。体重が増えるとこれらのリスクはさらに高まります。
精神心理面では、抑うつや不安の有病率が一般人口より高いとされ、スクリーニングと必要に応じた支援が推奨されます。症状や不妊治療によるストレスも背景にあり、包括的なケアが重要です。
症状の強さは加齢やライフスタイル、治療介入で変動します。思春期では診断が難しく、成人に至ってから症候が明確になる場合もあります。妊娠中の合併症リスク(妊娠糖尿病、妊娠高血圧など)にも注意が必要です。
参考文献
発生機序(病態生理)
PCOSの病態の中心は卵巣・副腎由来のアンドロゲン過剰と、その背景にある視床下部‐下垂体‐卵巣軸の調節異常です。GnRHの高頻度パルスによりLH優位となり、卵巣莢膜細胞でアンドロゲン産生が亢進します。
インスリン抵抗性は卵巣のアンドロゲン産生を相乗的に高め、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)低下を介して遊離アンドロゲンを増加させます。結果として卵胞発育が途中で停滞し、排卵障害が持続します。
抗ミュラー管ホルモン(AMH)の上昇や顆粒膜細胞機能の変化も報告され、卵胞募集と選択の過程に影響します。さらに、炎症、脂肪組織の内分泌作用、腸内環境なども関与が示唆されています。
病因は単一ではなく、遺伝的素因にライフスタイルや環境因子が重なって表現型が現れます。思春期や妊娠などホルモン変動の大きい時期に症状が顕在化しやすいことが知られています。
参考文献
- Azziz R. et al. Polycystic ovary syndrome (Review) Nat Rev Endocrinol (2016)
- International PCOS Guideline (2023) - Pathophysiology
遺伝的・環境的要因
家系内集積や双生児研究から、PCOSには中等度から高い遺伝的素因(遺伝率約0.4~0.7)が示唆されています。GWASではDENND1A、THADA、LHCGR、FSHR、INSR、ERBB4、YAP1など複数の関連座位が同定されています。
ただし単一遺伝子で決まる疾患ではなく、多因子性で遺伝子‐環境相互作用が大きいのが特徴です。肥満や身体活動不足、食事パターン、睡眠、ストレスなどが表現型に影響します。
内分泌かく乱物質への曝露や胎内環境の影響(妊娠糖尿病、母体体重など)も検討されていますが、因果は確立していません。現時点では体重管理と健康的な生活習慣が一次的介入として最も確実です。
民族差や診断基準の違いにより有病率推定は幅があり、同じ遺伝的素因でも環境により臨床像が異なることがあります。地域特異的な予防・介入戦略が重要です。
参考文献
- Day F. et al. Large-scale GWAS of PCOS (2018) Nat Genet
- Vink JM. et al. Heritability of PCOS (Twin Study) JCEM (2006)
治療と長期管理
治療は目標に応じて個別化します。妊娠希望がない場合は月経周期の調整と高アンドロゲン症状の緩和、代謝リスク低減が中心で、低用量ピル、スピロノラクトン、メトホルミン、生活習慣介入などを組み合わせます。
妊娠希望がある場合は排卵誘発が鍵で、第一選択はレトロゾール、次いでクロミフェン、反応不十分ならゴナドトロピンや腹腔鏡下卵巣ドリリング、体外受精も検討されます。体重5~10%の減量が排卵回復に有効です。
長期的には糖尿病・心血管リスク評価、脂質管理、睡眠時無呼吸の評価、メンタルヘルス支援が推奨されます。ライフステージ(思春期、妊娠、更年期移行)ごとに優先課題が変わります。
患者教育と自己管理支援が治療成功の鍵です。現実的な目標設定、行動変容技法、チーム医療(産婦人科、内科、栄養、心理)が有効で、定期的な見直しが望まれます。
参考文献

