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変形性関節症

目次

概要

変形性関節症(osteoarthritis, OA)は、関節軟骨の摩耗と再生のバランス破綻を基盤に、骨の変化(骨硬化・骨棘)、滑膜炎、筋機能低下などが絡み合って進行する慢性の関節疾患です。膝・股関節・手指・脊椎に多く、痛みと機能障害を主徴とし、世界の要介護の大きな原因の一つです。

人口の高齢化と肥満の増加に伴い有病者数は増加傾向で、最新の国際推計では数億人規模の患者が存在するとされます。疾患の重症度は症状だけでなく、構造変化の程度や併存症、心理社会的要因にも影響されます。

OAは単なる機械的消耗ではなく、低度の炎症や代謝異常、遺伝素因、外傷歴など多因子が関与する「全関節疾患(whole joint disease)」として理解されます。そのため管理は多面的で、生活習慣・運動療法・薬物・手術の組み合わせが重要です。

現在、疾患修飾薬(構造進行を止める薬)は確立しておらず、疼痛緩和と機能維持・改善が治療の中心です。進行例では人工関節置換術が高い機能回復をもたらしますが、適応判断と周術期の全身管理が鍵になります。

参考文献

症状と診断

典型的な症状は、活動で強く休息で軽くなる機械的疼痛、朝のこわばりは30分未満、運動時の軋轢音(クレピタス)、可動域制限、腫脹・熱感(滑膜炎)などです。膝では階段昇降・立ち上がり困難、股関節では靴下着脱困難がよくみられます。

診断は臨床症状と身体所見で可能なことが多く、45歳以上で活動関連痛があり、長引く朝のこわばりが目立たない場合には画像なしでOAと診断できるとのガイドラインもあります。

X線は構造評価(関節裂隙狭小化、骨棘、骨硬化)に有用ですが、症状との相関は中等度で、痛みの原因は滑膜炎や骨髄病変など多様です。MRIは早期変化の検出に役立つ一方、 routine での使用は推奨されません。

鑑別には関節リウマチ、結晶誘発性関節炎、感染、無腐性骨壊死、腱・靱帯障害などが含まれます。赤旗所見(発熱、強い夜間痛、外傷直後など)があれば速やかな精査が必要です。

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発生機序(病態)

OAは軟骨細胞の表現型変化と細胞外基質の分解亢進(MMPやADAMTS)により軟骨が菲薄化し、同時に骨梁再構築が進んで骨硬化や骨髄病変が生じます。荷重の偏りや関節不安定性は局所のストレスを増幅します。

滑膜では低度炎症が持続し、サイトカイン(IL-1β、TNF)やプロスタグランジンが疼痛と組織分解を促進します。脂肪体や神経・血管の侵入など、関節周囲組織の変化も痛みの形成に関与します。

全身的には肥満や代謝異常が関節内に炎症性メディエーターをもたらし、機械的負荷に加えて代謝性OAの側面を形成します。遺伝子多型は細胞増殖、TGFβシグナル、軟骨発生などの経路に影響します。

OAは連続的・非対称的に進行し、急性増悪と緩解を繰り返すことがあります。構造進行と痛みの時間的連関は必ずしも一致せず、個別化した評価と介入が必要です。

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遺伝と環境

双生児・家系研究から、OAの遺伝率は関節部位により概ね40〜60%と推定されます(手・膝が高め、股関節は中等度)。残余は環境・生活習慣・外傷などの影響が大きいと考えられます。

GWASではGDF5、SMAD3、RUNX2、ALDH1A2、COL11A1、DOT1Lなど多数の感受性座位が同定されていますが、効果量は小さく、多遺伝子性で遺伝子—環境相互作用が重要です。

環境因子としては年齢、女性(特に閉経後)、肥満、膝外傷・半月板損傷、反復的な膝屈曲作業、関節アライメント不良、筋力低下、代謝異常などが確立したリスクです。

これらの因子は相互に関連し(例:肥満は機械的負荷と全身炎症の双方を介して作用)、一次予防と二次予防の標的となります。リスクの重なりが個々の発症・進行の軌跡を規定します。

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治療と予防

は患者教育、体重管理、関節保護、筋力・有酸素・バランス訓練です。膝OAでは減量5〜10%で痛みと機能が有意に改善します。装具や杖、足底板は症例により有用です。

薬物は第一選択が外用NSAIDs(膝・手)。必要に応じて内服NSAIDs、アセトアミノフェン(効果限定)、ドゥロキセチン、短期の関節内ステロイドなどを併用します。ヒアルロン酸は推奨が分かれ、グルコサミン/コンドロイチンは一貫して推奨されません。

手術は保存療法で不十分な高度の疼痛・機能障害に対し、膝・股関節の人工関節置換術が高い効果を示します。周術期の感染予防、血栓予防、リハビリが転帰を左右します。

予防として、適正体重の維持、関節外傷の回避(スポーツでの傷害予防プログラム)、代謝・心血管リスクの管理、職業上の負荷の最適化が推奨されます。早期からの運動習慣は発症・進行抑制に寄与します。

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