変形性膝関節症
目次
概要
変形性膝関節症(knee osteoarthritis, 膝OA)は、膝の関節軟骨がすり減り、関節周囲の骨や滑膜、靱帯、筋肉など多組織が二次的に変化して痛みや機能障害を生じる慢性の関節疾患です。加齢や肥満、膝の外傷歴、関節のアライメント異常、反復する荷重動作などがリスク要因とされ、日本を含む世界で最も有病者の多い関節疾患の一つです。症状は運動時痛やこわばり、腫れ、階段昇降の困難から始まり、進行するとO脚化や可動域制限、日常生活動作の制限につながります。診断は病歴と身体所見を基本とし、X線で骨棘や関節裂隙狭小化を確認しますが、画像所見の程度と痛みは必ずしも一致しません。
膝OAは進行性ではあるものの、適切な運動療法や体重管理、鎮痛薬や装具、注射療法などの保存療法で多くの患者が症状コントロール可能です。末期で生活の質が大きく損なわれる場合は、骨切り術や人工膝関節置換術など外科治療が選択肢となります。患者教育とセルフマネジメントが重要で、痛みの悪循環(痛み→活動性低下→筋力低下→さらなる痛み)を断つことが目標です。国際ガイドラインは、運動と体重減少を基盤療法として強く推奨しています。
疫学的には、女性により多く、年齢とともに増加します。日本の地域住民研究(ROAD研究)では、40歳以上でX線上の膝OA所見の頻度が男性で約4割、女性で6割超と報告されました。一方で「症状のある膝OA」はこれより少なく、痛みのある人の割合は画像上の変化より低いことが知られています。世界的にも有病者数は増加傾向で、肥満人口の増加と高齢化が背景にあります。
病態は軟骨摩耗だけでなく、軟骨下骨の硬化や骨髄病変(BML)、滑膜炎、半月板損傷・逸脱、筋力低下、神経感作などの複合的変化が関与する「全関節の病気」と理解されます。したがって、治療は組織横断的な多面的アプローチ(運動・荷重管理・薬物・心理社会的支援・外科)が有効とされます。
参考文献
- NIAMS – Osteoarthritis
- OARSI guidelines for non-surgical management of knee OA (2019)
- 日本整形外科学会 患者向け情報:変形性膝関節症
発生機序(病態生理)
膝OAの中心は関節軟骨の変性と喪失ですが、単なる摩耗ではなく、炎症性サイトカイン(IL-1β, TNFなど)や分解酵素(MMP, ADAMTS)によるマトリックス分解と、修復反応の不均衡が進行を加速します。機械的ストレスは軟骨細胞のメカノトランスダクションを介して遺伝子発現を変化させ、炎症・分解経路を活性化します。
軟骨下骨では微小骨折や硬化、骨髄病変(BML)の出現が痛みと関連します。また関節周囲骨のリモデリングにより骨棘(オステオファイト)が形成され、関節形状が変化します。半月板の変性・断裂や逸脱は荷重分配を乱し、関節面の接触圧を上昇させてさらに損傷を進めます。
滑膜炎は痛みや関節腫脹の重要な要素で、滑膜マクロファージの活性化が炎症性メディエーターの産生を通じて症状を増悪させます。神経系では末梢・中枢性感作が生じ、画像所見に比べ痛みが強い患者が存在する理由の一つと考えられます。
アライメント(O脚/内反、X脚/外反)や関節の不安定性、筋力低下(特に大腿四頭筋)も病態を支えます。こうした多因子的病態を踏まえ、治療は荷重線の是正、筋力強化、炎症の鎮静化、痛みの感作対策(教育・運動・場合により中枢作動性薬剤)を組み合わせることが理に適います。
参考文献
- Felson DT. Osteoarthritis as a disease of the whole joint
- Osteoarthritis: pathogenesis overview (NIAMS)
- BML and pain in knee OA
遺伝的要因
膝OAには家族集積があり、双生児研究などから遺伝率はおよそ40–60%と推定されています。ただし遺伝率は「集団における表現型の分散のうち遺伝で説明される割合」を指し、個人の発症確率を示すものではありません。関節部位や診断定義、年齢により値は変動します。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、多数の感受性座位が見つかっていますが、個々の効果量は小さく、多遺伝子性が特徴です。代表的な関連遺伝子としてGDF5(rs143383)、SMAD3、RUNX2、COL11A1、DOT1L、MCF2L、TGFB1などが報告されています。これらは軟骨分化、TGFβシグナル、骨・軟骨マトリックス代謝に関与します。
東アジア人ではGDF5 5’UTRの機能的多型が膝OAリスクに一貫して関連し、日本人を含む集団で再現されています。日本人GWASではDVWAなどの座位も報告されましたが、再現性や効果量には差があります。
臨床的には、遺伝情報のみで発症を予測することは現時点で困難で、生活習慣や外傷歴、肥満、アライメントなど環境・機械的要因の修正が発症予防・進行抑制の中心となります。
参考文献
- Genetics of osteoarthritis (Nat Rev Rheumatol)
- GDF5 variant associated with OA (Nat Genet 2007)
- arcOGEN study identifies OA loci (Nat Genet 2012)
環境的・機械的要因
膝OAの主要な修正可能リスクは肥満・体重過多です。体重は膝関節に数倍の荷重として加わり、1kgの減量で膝への負担は歩行1歩あたり約4kg軽くなるとされます。肥満は全身性炎症を介して病態も悪化させます。
膝の外傷、特に前十字靱帯(ACL)損傷や半月板損傷は発症リスクを有意に高めます。職業的なしゃがみ姿勢・ひざまずき、反復的な階段昇降、重い荷物の反復挙上などもリスクと関連します。
加齢、女性(とくに閉経後)、アライメント異常(内反/外反)、筋力低下、骨密度の変化、関節の不安定性も重要です。喫煙の影響は一貫せず、予防の観点では禁煙が推奨されます。
予防・進行抑制の観点からは、減量と有酸素運動+筋力強化(大腿四頭筋・股関節外転筋など)、荷重の工夫(杖・インソール・ニーアライナーブレース)、傷害予防(着地動作トレーニング)を組み合わせることが推奨されます。
参考文献
- CDC – Osteoarthritis Basics and Risk Factors
- OARSI guidelines – core treatments
- Weight loss reduces knee joint load (Messier)
治療と予防
非薬物療法は基盤で、患者教育、運動療法(有酸素運動・筋力・関節可動域・バランス)、減量、装具(足底板・膝装具・杖)を組み合わせます。とくに過体重の患者では5–10%以上の減量が痛みと機能を改善します。
薬物療法では、外用NSAIDsが安全性と有効性のバランスから第一選択となることが多く、必要に応じて内服NSAIDsやアセトアミノフェン、デュロキセチンなどを用います。関節内注射は短期の痛み緩和にステロイドが有効で、ヒアルロン酸は地域により実臨床で広く使われますが、エビデンスの評価は分かれます。
外科治療は、片側内側病変で若年・活動性が高い場合の高位脛骨骨切り術、広範な関節症や高度の疼痛・機能障害には人工膝関節置換術が選択されます。関節鏡単独は機械的症状(ロッキングなど)を除き一般に推奨されません。
予防は、体重管理、定期的な運動、傷害予防、アライメントへの配慮、早期の症状対応が柱です。公的保険や地域の介護予防プログラムを活用し、継続可能な行動変容を支援することが重要です。
参考文献

