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塩味感受性

目次

定義と用語の整理

塩味感受性は二つの文脈で使われます。ひとつは味覚としての「しょっぱさ」への感受性、もうひとつは食塩摂取量の変化に対して血圧が大きく反応する体質、すなわち食塩感受性の血圧を指します。本項では臨床的意義が大きい後者を主として扱います。

食塩感受性の血圧では、食塩を増やすと収縮期・拡張期血圧が有意に上昇し、減塩で低下します。この反応性は連続的な分布を示し、二分法ではなくスペクトラムとして捉えるのが現在の理解です。

古典的な入院下の塩負荷/除塩プロトコルでは、血圧変化の大きさに基づき「感受性あり/なし」を分類してきましたが、外来・家庭での反復測定による実生活に即した評価も近年重視されています。

食塩感受性は高血圧の発症・増悪、心血管・腎イベントのリスク上昇と関連します。無症候で見過ごされやすいため、生活習慣の評価や家庭血圧の活用が重要です。

参考文献

病態生理(発生機序)

中心的なのは腎臓のナトリウム排泄能の個体差です。糸球体濾過や尿細管での再吸収がわずかに亢進するだけでも、長期的には体液量増加と血圧上昇を招きます。これは圧ナトリウム利尿のセットポイントが高めに偏位している状態と捉えられます。

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の反応性低下や基礎活性の違いも関与します。塩負荷時にRAASが十分に抑制されないと、血管収縮やナトリウム保持が持続し、食塩感受性が増します。

血管内皮の一酸化窒素(NO)産生低下、酸化ストレスの増加、交感神経活動の昂進、エンドセリンの増加、血管硬化などの要因も、同じ塩負荷に対する血圧上昇を大きくします。腎・血管・神経の相互作用が重層的です。

低カリウム摂取やインスリン抵抗性は、ナトリウム再吸収の経路を促進し、食塩感受性を増強します。したがって食塩のみならず、カリウム・カルシウム・マグネシウムなどの電解質バランスも病態に影響します。

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遺伝的要因

食塩感受性は多因子・多遺伝子性で、単一遺伝子で説明されることは稀です。家族集積性が知られ、遺伝的素因が中等度に寄与すると考えられていますが、環境との相互作用が大きいのが特徴です。

候補遺伝子として、尿細管輸送に関与するENaC(SCNN1B/SCNN1G)、SLC4A5、ナトリウムポンプや細胞骨格に関わるADD1(αアデュシン)、シグナル伝達のGNB3、ホルモン生成のCYP11B2などが挙げられます。

これらの多型は人種・民族により頻度や効果量が異なり、再現性にばらつきもあります。臨床での遺伝子検査は現時点で標準化されておらず、生活介入や薬物反応の個別化に研究段階で用いられています。

ゲノムワイド関連解析(GWAS)でも血圧関連座位は多数同定されていますが、「塩に対する血圧応答」を特異的に規定する座位の解明は途上です。したがって臨床判断は遺伝情報だけでなく表現型評価が基本です。

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環境的要因と修飾因子

環境要因のは食塩量そのものです。加工食品や外食由来のナトリウムが主要供給源で、隠れた塩分が過剰摂取につながります。減塩により最も大きく血圧が下がる群が食塩感受性者です。

カリウム摂取は食塩の昇圧作用を打ち消す重要な修飾因子です。果物・野菜・乳製品を中心としたDASH食やDASH-Sodium試験では、低ナトリウムかつ高カリウムの食事で血圧が有意に低下しました。

肥満・インスリン抵抗性、慢性腎臓病、加齢、閉経、睡眠不足や過度飲酒、身体活動不足なども食塩感受性を高めます。民族差もあり、アフリカ系、東アジア系で頻度が高い傾向が報告されています。

日本では伝統的に食塩摂取が高めであり、減塩が公衆衛生上の重要課題です。食品表示の活用、外食での工夫、家庭での調理法改善が実践的な対策になります。

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臨床評価・診断と介入

評価は連続的な家庭血圧と食事記録の組み合わせが現実的です。1〜2週間ずつ通常塩と減塩を交互に行い、24時間尿ナトリウムで実際の摂取量を確認すると、個人の血圧応答が見えてきます。

研究・専門施設では、短期の塩負荷(高食塩)と除塩(利尿薬または低食塩)を行い、その前後差で分類する古典的プロトコルが用いられます。ABPMによる日内変動評価も有用です。

介入の第一選択は減塩(日本では6 g/日未満、可能なら5 g/日未満)とカリウム豊富な食生活です。体重管理、運動、節酒、睡眠の改善も反応を増強します。

薬物では利尿薬、ACE阻害薬やARB、カルシウム拮抗薬が有効例が多いとされます。個別の併存症や副作用プロファイルに応じて選択し、家庭血圧で効果を確認しながら調整します。

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