垂直Cup/Disc比
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概要
垂直Cup/Disc比(vertical cup-to-disc ratio, vCDR)は、眼底の視神経乳頭にある「陥凹(カップ)」の縦径を、乳頭全体(ディスク)の縦径で割った比率です。健常者でも個人差がありますが、値が大きいほど神経線維層の菲薄化や緑内障性変化の可能性が高まる所見として用いられます。臨床では左右差(通常0.2を超える差は注意)やリム(神経縁)の形も合わせて評価します。
vCDRは疾患名ではなく、眼底所見の量的指標です。したがって「症状」を直接生むものではなく、視機能の低下などは基礎となる疾患(代表は原発開放隅角緑内障)によって生じます。検査は眼底鏡、カラー眼底写真、光干渉断層計(OCT)などで行い、経時的変化の追跡が重要です。
健常の分布は人種・眼球解剖や年齢で異なり、アフリカ系では平均vCDRがやや大きいなどの差が報告されています。大きな乳頭は相対的にカップも大きく見えるため、ディスク径を併せて解釈する必要があります。
臨床判断では単一のvCDR値に依存せず、眼圧、視野検査、OCTの網膜神経線維層厚や黄斑神経節細胞複合体の評価と組み合わせて総合的にリスクを判断します。
参考文献
- AAO Preferred Practice Pattern: Primary Open-Angle Glaucoma Suspect
- The Blue Mountains Eye Study: Distribution of optic disc parameters
測定と判定のポイント
vCDRは通常、垂直方向の陥凹縁と乳頭縁を同定し、キャリパーで計測します。熟練度や観察条件でばらつきがあるため、画像記録に基づく反復可能な測定(デジタル眼底写真や自動解析)が推奨されます。
OCTは三次元データからリム面積、Bruch膜開口部近傍の最小リム幅(BMO-MRW)など客観指標を提供し、vCDRだけでは捉えきれない微小変化の検出に役立ちます。
臨床では「vCDR≥0.7」や「左右差>0.2」を要注意所見として挙げる教科書が多いものの、ディスクサイズや近視の影響を補正せずに閾値で断ずると過大・過小評価につながります。
経時的にvCDRが増大することは、神経縁の進行性菲薄化を反映しうるため、同一装置・同一条件でのフォローが重要です。視野変化が出る前に構造変化を検出できる点も、早期発見に資します。
参考文献
遺伝・環境と人種差
vCDRには強い遺伝的寄与があり、双生児研究では遺伝率(heritability)が0.5〜0.8と報告されています。これは個体差の半分以上が遺伝要因で説明されることを意味します。
環境・生活因子や生理学的因子(眼圧、血圧、近視度数、ステロイド使用歴など)も残余の分散に寄与します。特に近視は乳頭形態とカップ見かけに影響し、解釈に注意が必要です。
集団差として、アフリカ系では平均vCDRが大きく、東アジア系では乳頭径が比較的大きいとする報告があり、緑内障リスク評価のしきい値解釈に人種背景を織り込む必要があります。
遺伝学的にはCDKN2B-AS1、SIX6、ATOH7などがvCDRや乳頭形態に関連づけられ、視神経発生や細胞周期制御、神経節細胞の脆弱性といった生物学的経路が示唆されています。
参考文献
- Heritability of optic disc parameters: Twin studies
- Genome-wide association studies of optic disc parameters
病態生理(発生機序)
vCDRの増大は主として神経縁の組織が失われる、あるいは後方へ再構成されることで生じます。緑内障では篩板(ラミナクリブローサ)の変形・後方偏位と軸索損傷が進み、カップが拡大します。
眼圧上昇は機械的ストレスと灌流圧低下を介して軸索輸送障害を引き起こし、神経節細胞死につながります。加齢や脈管因子も脆弱性を高め、同じ眼圧でも個体により損傷感受性が異なります。
非緑内障性でも巨大乳頭や近視性の組織変化で見かけ上のvCDR増大が起こりえます。この場合、リム出血や切痕、RNFL欠損など緑内障に特徴的な付随所見の有無が鑑別の助けになります。
したがってvCDRは病態の結果指標であり、単独で原因を特定するものではありません。構造・機能両面の総合評価により、真の進行性変化か生理的変異かを見極めます。
参考文献
臨床での活用と早期発見
スクリーニングや健診では、眼底写真の自動解析やAIがvCDRの定量を補助し、要精査者の抽出に役立ちます。ただし偽陽性・偽陰性があるため、専門医での精査が前提です。
早期発見には、40歳以降やリスク因子を持つ人(家族歴、近視、ステロイド長期使用など)の定期的な眼科受診が推奨されます。眼圧測定、OCT、標準視野検査を組み合わせます。
生活面では、不要なステロイド点眼・全身投与の回避、夜間低血圧を招く過度の降圧の見直し、適度な運動などが間接的にリスクを下げる可能性があります(主治医と相談)。
vCDRが大きい/左右差があると指摘された場合、過去画像との比較で進行性かどうかを確認し、必要に応じて緑内障治療(主に眼圧下降治療)を検討します。
参考文献

