喘息の指標(気道反応性)
目次
概念と定義
気道反応性(airway hyperresponsiveness, AHR)は、アレルゲン、冷気、運動、メサコリンやマンニトールなどの刺激に対して、気道が過度に収縮しやすい状態を指します。臨床的には、気管支喘息の特徴所見の一つで、診断・重症度評価や管理の参考指標として位置づけられています。
AHRは連続的な性質を持ち、健常者にも軽度の反応性は存在しますが、喘息ではその閾値が低く、比較的弱い刺激でも有意な気流制限が生じます。このためAHRは喘息の「感受性」を反映するバイオマーカーに近い概念と理解できます。
一方でAHRは完全に疾患特異的ではありません。アレルギー性鼻炎、喫煙関連気道障害、ウイルス感染後、一部の運動選手などでも陽性となることがあります。したがって、AHRは他の臨床情報や検査所見と併せて解釈されるべきです。
AHRの強さは炎症の程度、気道平滑筋の収縮性、上皮障害、神経反射、気道リモデリングなど多因子の影響を受けます。治療によって可逆的に改善しうる成分(主に好酸球性炎症)と、長期的に残存しやすい成分(リモデリング)が併存します。
参考文献
- Global Initiative for Asthma (GINA) 2024 Strategy Report
- Cockcroft DW. Airway hyperresponsiveness in asthma: measurement and clinical significance. Chest. 2010.
測定方法と臨床での位置づけ
AHRの定量には薬理学的気管支誘発試験(メサコリン、ヒスタミン)と間接刺激試験(マンニトール、運動、過換気など)が用いられます。前者は気道平滑筋の過敏性を、後者は炎症・肥満細胞活性化などをより反映するとされます。
メサコリン試験では、所定濃度でのFEV1低下(PC20)や投与量(PD20)で反応性を評価します。マンニトール試験は乾燥粉末の段階的投与でFEV1低下をみます。いずれも標準化手順に従い、禁忌を確認したうえで安全に実施します。
AHR検査は、症状やスパイロメトリーだけで診断確定が難しい例で補助的に用いられます。陰性であれば活動性の喘息の可能性は低下し、陽性であれば喘息や関連疾患の可能性を支持しますが、単独での断定は避けます。
測定値は季節、感染、薬物、曝露、アドヒアランスで変動します。吸入ステロイド治療でAHRが改善することは治療反応性の指標となり、長期管理計画の最適化に役立ちます。
参考文献
- ERS technical standard on bronchial challenge testing (methacholine) 2017
- NICE NG80: Asthma: diagnosis, monitoring and chronic asthma management
病態生理(発生機序)
AHRは主に気道の慢性炎症と構造変化により生じます。Th2型炎症ではIL-4、IL-5、IL-13が好酸球浸潤や粘液過分泌を促し、肥満細胞や好塩基球の活性化が気道平滑筋収縮性を高めます。
上皮障害により感覚神経が露出し、知覚神経反射や迷走神経を介した気管支収縮が亢進します。さらに平滑筋の肥大・過形成、基底膜肥厚などのリモデリングが反応性を増幅・固定化します。
気道微小環境では酸化ストレス、上皮由来サイトカイン(TSLP、IL-33、IL-25)が炎症カスケードを駆動し、非アトピー性炎症やウイルス誘発性のAHRにも関与します。
肥満、胃食道逆流、鼻副鼻腔炎、睡眠時無呼吸など合併症もAHRに影響しうるため、包括的な管理が必要です。
参考文献
- GINA 2024: mechanisms of asthma and airway hyperresponsiveness
- Pavord ID et al. Type 2 inflammation in asthma. Lancet. 2018.
遺伝的・環境的要因
AHRには中等度以上の遺伝的素因が報告されています。双生児研究ではAHRの遺伝率が概ね40〜60%と推定され、一方で環境因子の寄与も同程度に大きいとされます。
候補遺伝子として、ADAM33、β2受容体(ADRB2)、IL-13/IL-4R、ORMDL3/GSDMB(17q21)などが挙げられ、気道リモデリングや免疫応答、平滑筋機能に影響します。
環境因子には喫煙(能動・受動)、大気汚染(PM2.5、NO2、オゾン)、アレルゲン曝露、ウイルス感染、職業性曝露、肥満、運動時の冷乾空気などが含まれます。
早期小児期のウイルス性下気道感染、家庭内ダニ・カビ曝露、都市型大気汚染は、遺伝素因を有する児でAHRと喘息発症リスクを増強することが示唆されています。
参考文献
- Hallstrand TS et al. Heritability of asthma and bronchial hyperresponsiveness (twin study). AJRCCM. 2005.
- Moffatt MF et al. ORMDL3 variants and asthma risk. Nature. 2007.
臨床的意義と治療介入の影響
AHRの程度は症状頻度や増悪リスクと相関し、重症度やコントロール不良の指標となり得ます。ただし個体差が大きく、同一個人でも時期により変動します。
吸入コルチコステロイド(ICS)は好酸球性炎症を抑制し、数週間〜数カ月でAHRを改善します。ロイコトリエン受容体拮抗薬は中等度の改善、長時間作用性β2刺激薬は気管支拡張を示す一方でAHR自体への持続効果は限定的です。
抗IgE(オマリズマブ)や抗IL-5/IL-5R、抗IL-4Rαなど生物学的製剤は、好酸球性・T2高炎症表現型でAHRを低減しうることが報告されています。
治療下でAHRが改善しても、曝露やアドヒアランス低下で再増悪するため、継続的な自己管理と環境調整、吸入手技の確認が重要です。
参考文献
- GINA 2024: Pharmacological management and outcomes
- Anderson SD. Indirect challenge tests and airway inflammation. Eur Respir J. 2008.
疫学と集団差
AHRは大多数の喘息患者で認められますが、一般人口の一部にも陽性者が存在します。地域、年齢、アトピー率、喫煙率、曝露状況で大きく変動します。
疫学研究では、成人のメサコリン陽性率が概ね1桁後半〜2桁前半%に分布し、喘息既往の有無で大きく異なります。アレルギー性鼻炎や喫煙者では陽性率が上昇します。
小児では男児での喘息有病率が高く、思春期以降は女性優位となる傾向が報告されています。AHRの年齢・性差もこれに概ね並行しますが、検査法や基準で結果は異なります。
国・地域の大気環境、屋内アレルゲン、感染状況、医療アクセスによりAHRの集団レベルの分布は変わり、予防・公衆衛生施策の影響も受けます。
参考文献

