右脳の視床の灰白質の容積
目次
定義と解剖学的背景
右脳の視床は両側性に存在する視床のうち右半球に位置する集合集積核で、主として灰白質から構成される。灰白質容積は神経細胞体や樹状突起、シナプス密度の総体を反映し、中継核としての処理能力の一端を示す量的指標である。
視床は前核群、内側核群、外側核群、後部の枕(プルビナー)など多数の核から成り、それぞれ記憶・情動、実行制御、感覚運動、視覚注意など機能が分化している。右側は特に視空間注意や覚醒の側性化に寄与しうる。
個体発達では幼児期から青年期にかけ容積が増加し、成人期以降は加齢とともに緩徐な減少傾向に転じる。頭蓋内容量や体格、性別の影響を強く受け、同年齢でも個人差が大きい。
左右差は平均レベルでは小さいが完全な対称ではなく、測定法や母集団によりわずかな非対称性が報告される。片側評価では基準化と手法の一貫性が欠かせない。
参考文献
- Thalamocortical circuits (Halassa & Sherman, 2019)
- Brain charts for the human lifespan (Bethlehem et al., 2022)
測定法と前処理
灰白質容積は主にT1強調解剖MRIを用いて推定される。脳全体のバイアス補正、頭部運動の検出、頭蓋外の除去などの前処理を施し、組織分類と領域分割により視床の体積を算出する。
ボクセルベース形態計測(VBM)は空間正規化後に各ボクセルの灰白質確率を比較し、群間差や共変量効果を統計的に検出する。局所の濃度や体積の差に敏感だが、平滑化や正規化の影響を受ける。
領域ベースではFreeSurferやFSL FIRSTなどのツールが確率アトラスと形状モデルを用いて視床を自動分割する。再現性が高く、片側体積の抽出と頭蓋内容量での補正(ICV補正)が容易である。
部分体積効果、コントラストの個人差、シーケンス依存性が系統的誤差の原因となる。複数装置間のばらつき最小化と品質管理が結果の頑健性に直結する。
参考文献
- FreeSurfer official site
- FSL FIRST
- Voxel-based morphometry—the methods (Ashburner & Friston, 2000)
- Thalamic nuclei segmentation (Iglesias et al., 2018)
遺伝・環境の寄与
双生児研究では視床体積の遺伝率は概ね0.6〜0.8と高く、灰白質容積の大部分が遺伝的要因により説明される。一方、共有・非共有環境も重要な分散成分を持つ。
SNPに基づく集団ベース推定(SNP遺伝率)は0.25〜0.35程度と報告され、測定誤差や未観測の希少変異の影響を受ける。多遺伝子性が強く、関連遺伝子座も多数同定されている。
右左で遺伝率が大きく乖離するエビデンスは限定的で、左右とも高い遺伝的制御を受けると考えられる。環境寄与には出生前環境、栄養、教育、心血管リスクなどが含まれる。
したがって比率は研究デザインで変動するが、双生児では遺伝60〜80%、環境20〜40%程度、SNPベースでは遺伝25〜35%、残差65〜75%が目安となる。
参考文献
- Genetic architecture of subcortical brain structures (Satizabal et al., 2019)
- GWAS of subcortical brain structures (Hibar et al., 2015)
臨床的・研究的意義
視床は感覚・運動・認知ネットワークの要衝であり、容積の個体差は注意、覚醒、情報統合の個人差と相関する可能性がある。疾患では群平均での増減が示される。
精神疾患では統合失調症の一部集団で視床体積の減少が、強迫症では年齢によって増減の方向が異なる所見が報告されている。効果量は小〜中等度である。
神経変性疾患、脳血管障害、頭部外傷でも変化しうるが、病態特異性は限定的で、診断単独指標にはならない。縦断計測は病期把握や治療反応の探索に有用である。
臨床では容積の絶対値よりも、年齢・性別・頭蓋内容量で補正した偏差(zスコア)や左右差、核別のパターンが判断の手掛かりとなる。
参考文献
- Subcortical volume abnormalities in schizophrenia (van Erp et al., 2016)
- ENIGMA-OCD subcortical volumes (Boedhoe et al., 2017)
解釈上の注意と限界
装置や撮像条件の差、運動アーチファクト、分割アルゴリズムの選択が容積推定に影響する。単一個人の一回測定は不確実性が大きいことを前提に解釈する。
頭蓋内容量での補正、共変量調整、品質管理指標の確認、再現撮像が基本である。多施設比較ではハーモナイゼーション手法の適用が望ましい。
正常参照は年齢・性別・装置を揃えた大規模コホートに基づくべきで、一般化された単一の正常値は存在しない。百分位や標準化指標が有用である。
容積差は機能差や症状の原因と直結しない場合が多い。関連は因果と等置できず、他の臨床・画像・神経心理情報と総合して判断する。
参考文献

