右脳の側頭紡錘状皮質後部の灰白質の容積
目次
解剖学的位置と名称の由来
側頭紡錘状皮質は、側頭葉の内側寄りで後頭葉に接する腹側視覚路に位置し、紡錘形の回(紡錘状回)に対応します。Harvard–Oxford皮質アトラスでは、Temporal Fusiform Cortex, posterior division として区分され、臨床や研究でROIとして広く用いられます。
右半球の後部領域は、顔や物体の形状情報を統合する要所で、一次視覚野からの入力を受けて高次特徴へと抽象化します。左半球に比べ、右は全体的・空間的配置の処理に相対的な強みがあるとされます。
灰白質の「容積」は、ニューロンの細胞体、樹状突起、シナプス、グリア、毛細血管などを含む組織量の指標で、年齢、個体差、経験、疾患で変動します。容積は絶対値よりも、同年齢・同条件での相対的比較が重要です。
領域境界は連続的で個体差があるため、機能的境界と解剖学的境界は完全には一致しません。アトラスに基づく標準空間での定義は再現性を高めますが、個別脳での精密位置決めには表面ベースのパーセレーションや機能局在も併用されます。
参考文献
機能的役割
右後部紡錘状皮質は、顔や動物、車などの専門性の高いカテゴリの視覚識別に関与し、構成的(全体配置)情報の処理に優位とされます。機能的MRIでは顔刺激での応答が強く観察されることが多いです。
文字処理は左の中部紡錘(VWFA)が中心ですが、右側も単語形の全体的形状や鏡像干渉、視覚的注意の文脈で補助的に関与します。カテゴリー特異性は絶対ではなく、学習・経験で可塑的に変わります。
容積は機能の必要条件ではありませんが、発達期の経験や訓練で微細な構造変化(灰白質密度や表面積のわずかな増減)が生じ、長期にわたり機能特性と共変することがあります。
加齢では思春期以降に厚み・容積が緩やかに減少するのが一般的で、認知予備力や生活活動、心血管リスク管理などが低下速度に影響します。
参考文献
- Weiner & Grill-Spector, The ventral temporal cortex
- Gauthier et al., Expertise and the fusiform gyrus
計測法と数値の意味
容積の定量にはT1強調MRIを用い、ボクセルベース形態計測(VBM)やFreeSurfer等の表面ベース法で灰白質を分節し、アトラスでROI抽出します。頭蓋内容積(ICV)で補正するのが標準です。
VBMは空間正規化・分節・平滑化・体積変形のモジュレーションを経て群間統計に適し、表面ベースは皮質厚・表面積を分離評価でき、折り畳みの影響を低減します。
測定値はスキャナー機種、撮像条件、前処理ソフトのバージョンで系統誤差が生じます。再現性向上には同一装置・同一パイプライン・品質管理が重要です。
臨床解釈は絶対体積より、年齢・性別・機器をマッチさせた参照集団に対するZスコアや左右差指数、縦断変化率(年率%)を用いるのが望ましいです。
参考文献
遺伝・環境の寄与
双生児研究やSNPベースの遺伝率解析では、皮質構造の遺伝率は領域と指標で異なり、表面積は厚みより高い傾向があります。側頭・紡錘状領域の容積は概ね中等度の遺伝率が報告されています。
代表的メタ解析では、皮質の形態指標の遺伝率はおおよそ40〜60%の範囲に収まり、残りは非共有環境や測定誤差に起因します。発達段階や高齢期で割合は変動します。
共有環境(家庭・教育)は幼少期に、非共有環境(個別の経験、学習、生活習慣、疾患)は生涯を通じて影響します。身体活動や心血管リスク管理は灰白質維持に関連します。
遺伝は宿命ではなく、環境修飾可能性が大きいのが特徴です。縦断的介入研究では、中強度の身体活動や認知訓練が灰白質保全と関連する所見が蓄積しています。
参考文献
- Grasby et al., The genetic architecture of the human cerebral cortex
- Panizzon et al., Distinct genetic influences on cortical surface area and thickness
臨床・研究での意義
右後部紡錘の容積低下は、前側頭変性症やアルツハイマー病での側頭葉萎縮の一部として観察されることがあり、顔認知障害や物体失認と臨床症状が一致する場合に意義を持ちます。
自閉スペクトラム症、発達性相貌失認、てんかん焦点例などで、機能と構造の乖離や微小な左右差が報告されています。ただし個体差が大きく、単独所見で診断はできません。
研究では、視覚専門性と可塑性の個体差を理解する手掛かりとなり、行動成績やfMRI応答とのマルチモーダル関連解析で価値があります。
臨床応用では、縦断フォローでの変化率、他領域の萎縮パターン、神経心理検査と組み合わせることで、鑑別診断や予後推定の補助情報になります。
参考文献

